第25話 きなくさいね
裏か……ちょっとまえに遭遇したトーリアンの盗賊団を思い出すよね。
あの頭目、ラファイエットならそのくらいの工作をしてきそうな気がする。どうやってゴブリンどもに知恵をつけるかは判らないけどね。
「実際、侵攻の一環だとしたら筋も通りますしね」
「そうなのか?」
「物流を滞らせるというのは、戦略としてかなり有効なんですよ、アル」
レオンティーヌが解説してくれる。
実際に矛を交えるよりずっと前から戦争ってのは始まっているらしい。
相手国の物流能力を奪うってのは、できるなら最強っていうくらいいい手なんだそうだ。
よくわからん。
「アンジェリクで生産されるものがトーリアンでも生産されるとは限りません。逆も同じですね。で、ここが遮断されると」
しゅっと手刀ををきってみせる。
ふたつの街で不足が生じてしまう。もし足りないのが食料だったら飢餓が発生するだろう。
「なんてこった。行商人の往来がなくなるだけで、そんなひどいことになるのか」
「街道は血管、商人たちは血です。街は臓物ですね。血が通わなくなったら、手でも足でも腐ってしまいますから」
人間の身体に例えて両手を広げてみせるレオンティーヌ。
「そうなってくると、ドイルの策謀って可能性は充分にあるのか」
ラファイエットの手紙にはドイル語の挨拶が記されていた。だからこそドイルではないという考え方もできるのだ。
「罠があると思わせることで、判断力の何割かを奪うことができるってやつだな」
俺自身が、わざとカルトロップを見えるように設置したりする。
仕掛ける側だったわけだけど、仕掛けられる側にまわるとラファイエットの性格の悪さがよくわかるわ。
反省します。
「物流を阻害するって発想は軍略家なら普通に出てきます。たいていは実行の困難さから廃案されるんですけどね」
自国の経済を統制しようとしても上手くいかない。制限すれば闇市ができるだけ。
まして他国である。
立地条件だって住民たちの気風だって、ちょっと調べたくらい把握するのは難しい。
どこを遮断すれば良いか判らないだろう。
そしてそれ以上に、工作部隊を長期間にわたって敵国に忍び込ませておくなんて不可能だ。
「それならモンスターを使えば良いんじゃないか、なんて発想、並の軍略家のアイデアじゃないですよ」
大仰にため息をつくレオンティーヌである。
感心しているのか、悔しがっているのか。
もともと実行困難な策謀である。モンスターを使って失敗したところで損をしないし、全滅したってモンスターだもの。痛くも痒くもない。
「ドイルの軍師は、汚い手を使うものです」
「あれ? ドイルかどうかなんて判らないだろう?」
「ドイルですよ。ドイル国境からは遠いところで事件が起こっていますから」
「それだけで?」
「モンスターは襲う相手の国籍なんか気にしませんから」
「おおう……」
おもわず尊敬のまなざしで見ちゃったよ。
ラファイエットという端倪すべからざる軍略家、今起きているモンスターの襲撃。このふたつをあっさり繋げて見せたよ。
バシュラール侯爵から習った程度の知識でこの冴えだ。
もしレオンティーヌが男で、幼少期から士官学校で鍛えられていたらどれほどの大軍師に成長していたか、想像するとちょっと恐ろしいものがあるね。
アンジェリクからセムリナの国境までは七日くらいかかる。
オリフィエルたちが襲われたのは三日のところだから、ちょうど真ん中あたりだ。
そんで、ドイル側と同じように国境近くに要塞があって、それより手前に城塞都市がある感じ。
アザレア要塞と城塞都市ホルクレルって名前だね。
どこの国だって国境を抜かれるのは困るから要塞なり軍事拠点を築く。セムリナ皇国だって国境になってるトプルーネ大河を挟んだ反対側に要塞が存在している。
「ぜひ皇都にある拙宅に逗留してくださいね」
オリフィエルの言葉だ。
一緒に行動すること数日。最初にあった距離感はすっかり消えている。
冒険者も商人も他人と接するのが仕事の半分だからね。
チームに一人くらいはヒューマンスキルが高い人間がいる。
この場合は俺とオリフィエルってことになるけど、レオンティーヌもかなり社交術に長けていた。
貴族階級だもの。
話をするのも聞き出すのも上手い。女衆とすっかり打ち解けて、夫や子供の愚痴なんかまで聞いちゃってるらしい。
「旅の途中ではあるけど、ぜひ寄らせてもらうよ」
「ヒーズルの情報も、幾ばくかは集められるかと」
「期待しちゃいましょう」
「ゴブリンだ! 多いぞ!!」
談笑していると、男衆の一人が声を張り上げた。
ホルクレルまで一日の距離。
「同じ隊商を二度狙うかな? 撃退されたのに」
「普通は狙わないですね。普通は」
正面から迎え撃つ位置に移動し、レオンティーヌが獰猛な笑みを浮かべる。
俺は女衆に弓を構えておくことと、御者に馬を走らせないことを指示した。また車輪に棒をつっこまれたらかなわないからね。
「俺とティーヌで迎撃する。打ち漏らしは頼んだよ」
「任てください」
手斧を持った腕で力こぶをつくり、まだ十代だというオリフィエルの息子が答えた。
や、なかなか頼もしいね。
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