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いつか最強のふたりに! -お嬢さま剣士と中堅冒険者-  作者: 南野 雪花


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第23話 不器用者


 ルーン王国からセムリナ皇国を抜け、東へ東へと進む大旅程。


「たぶん往路だけでも一ヶ月はかかるだろうな」


 借りていた下宿屋を解約し、溜め込んでいた金はすべて持ち運びしやすい宝石類に換えて、小分けにして身体の各所に隠す。

 すっかり身軽になったね。


 これで文字通りの根無し草だ。


「行きますか、アル」


 俺と同じように旅装を調えたレオンティーヌが話しかけてくる。

 東方ヒーズルまで武者修行に行くとバシュラール侯爵に話したら、勘当されるどころか、麦の一房なりと収穫してこいと激励されたらしい。


 レオンティーヌが騎士になることにものすごく反対しているはずなのに、なかなか謎な御仁だよな。

 殿上人だから俺なんぞが会うことは一生ないだろうが、どんな人物なのか見てみたい気もする。


「貴様がアルベリクか」


 で、街を出ようとしたところで、ものすごく立派な軍装を身にまとった壮年の男性に声をかけられました。

 目元のあたりがレオンティーヌに似ているね。


 うん、説明を受けるまでもなくバシュラール侯爵その人だね。

 誰だよ? ちょっと会ってみたいとか思ったトンチキ野郎は。


 四半刻(約三十分)ばかり時間を戻してくれないかな。ちょっと過去の自分をぶん殴ってくるわ。


「お初にお目にかかります。侯爵閣下」


「構えずとも良い。愚女が背中を預けるに足ると思った戦士を見てみたいと思っただけだ」

「背中を預けるどころか、足を引っ張ることになってしまいましたが」


 豪快な笑いに対して、俺は苦笑しか出ない。


 騎士叙勲のためドラゴンを討伐する。その前段階としてマジックアイテムを手に入れる。それだけでも遠大な話なのに、ポンコツになってしまった俺に付き合って回り道をしてくれるという。


「魔病だな。多くの優秀な戦士たちがそれで弓を置いたものだ。治す可能性があるなら、それに賭けてみるのもまた一興よ」

「恐縮です、閣下」

「ではな、戦士アルベリク」


 本当に最低限の会話だけでバシュラール侯爵は踵を返す。

 娘を頼む、という小さな小さな言葉は、たぶん俺の耳にしか届かなかっただろう。


 なんというか、不器用な御仁だなあ。

 無言のまま俺は頭を垂れた。


「ふぃー……なんとか去ってくれたな」


 そしてほっとしたような声とともに、街門の影からサミュエルが現れた。

 隠れてみていたのかよ。

 おめえは嵐におびえる小動物か。


「あの状況で隠れない蛮勇の持ち主は、十年も冒険者を続けられねえって」


 ジト目の俺を見ておどける。


「違いねぇ」


 思わず笑ってしまった。

 他人事だったら俺も隠れるね。確率は十分の十だ。


「餞別だ」


 ぽいっと小さな革袋を投げてよこす。

 けっこう重い。


「銀ばっかり五十枚いれといたぜ。旅してるときはこまい方が使いやすいからな」


 露天商に金貨なんか出すと嫌がれることすらある。

 銀貨の方がずっと重宝するのは事実なんだけど、五十はもらいすぎだって。


「そんなにもらえるわけないだろうが」

「土産は餞別の半分くらいの価格が相場だ。期待してるぜ」


 押し返そうとする俺を、サミュエルは笑って謝絶した。


 こいつ流の「必ず帰ってこい」ってメッセージか。

 なんつーか、かっこつけばっかりだな。


 革袋を返すのを諦め、俺は右拳を突き出す。


「留守の間、アンジェリクは任せた」

「任されたよ」


 こつんとサミュエルが自分のそれをぶつける。




 で!


「出発して三日でトラブルに遭遇って、算術的な確率としておかしくないか?」

「さすが、アル。持ってますね」


 良い陽気の街道を東へと旅して三日目、前方から悲鳴が聞こえたわけだ。

 日中の街道だぜ?

 さすがにおかしいだろう。


「アンジェリクに戻るときもゴブリンに馬車が襲われてましたよね。あれは偶然で片付けたとしても、二回目も偶然だというのは無理があります」

「だよな」


 足を速める。

 全力疾走はしない。

 現着してすぐに戦闘という場合、息が上がっていたら戦えないからだ。


 百五十間(約二百七十メートル)ほど進んだ先に待っていたのは、またまたゴブリンに襲われている馬車だった。


 御者や男衆が外に出て戦っている。


 戦況は一進一退。ゴブリンは人間より弱いけど凶暴だし手加減って言葉を知らないから厄介なんだよね。

 まあ根性無しでもあるから、負けそうになったらすぐ逃げるけど。


「てか、馬車なんだから全速で振り切れば良かったのに」

「それは無理そうですよ、アル。見てください」


 レオンティーヌが指さすのは馬車の後輪だ。

 太い棒みたいなものが刺さっている。あれで車輪の回転を強制的に止めたのか。


 良いアイデアだけど、ゴブリンの頭からそんな知恵が出るか?


「いきますよ! アル!」

「おっとそうだった!」


 レオンティーヌの声で無作為な思考を中断し、並んで戦域へと躍り込む。


 手裏剣は投げられないから直接戦闘のみ。しかもイアイも使えない。重さと速さを利用してぶっ叩くっていう、ライトファイターとは思えない戦い方なので、距離を取る意味がまったくないのよ。


「どうりゃ!」


 勢いを利用してジャンプ一番。

 落下速度に体重をプラスして、ゴブリンの脳天から股下まで両断する。

 断末魔すら残さず左右に分かれたゴブリンがどちゃっと崩れた。


「お、斬れたぜ」

「それは斬ったんじゃなくて、叩き割ったっていうんですよ」


 苦笑交じりの声が聞こえる。



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