第22話 魔の病
「なるほど……魔病に取り憑かれましたね。アルベリクさん」
話を聞き終えたレティシアは、混ぜ返しもせず深いため息をついた。
「魔病? なんだそれは」
聞いたことがない。
取り憑かれるということは、呪術的なものなのだろうか。
「原因不明の病気です。練達の戦士がたまにかかるんですよ」
ある日突然、それまでできていたことができなくなる。
理由は判らない。
どうやって敵を斬っていたか、倒していたか、判らなくなってしまうのだ。
「記憶を失うということですかね? レティ」
「ちょっと違います。それまで無意識にやっていたことを意識してしまうんです。その結果、動きがちぐはぐになってしまうんですよ」
たとえば、と、俺のことを例に出す。
投擲攻撃をしようと考える。どの敵を狙うか定める。隠しに手を入れ手裏剣を取り出す。投げやすいポジションに握り直す、構えて狙いを定めて投げつける。
一連の動作を細分化すれば、こういうことになるらしい。
だいたいあってるね。
でも、たしかに意識なんてしてこなかった。
あいつを! って思った瞬間、もう手裏剣を出して投げてる感じかな。
「かけ声なんて動作の中のひとつにすぎませんよ。ただ、それを入れないことで歯車が狂ってしまったわけですね」
判ったような判らないような話だが、じっさいフォームが滅茶苦茶だとレオンティーヌに指摘されたばかりだ。
で、フォームなんか意識したことなかったから、意識すればするほど判らなくなってしまう。
「実際、魔病が原因で弓を置いた人はけっこういるんですよ。ジャン・ジャックさんとかもそうですね」
「え? あいつって結婚するから引退って言ってなかったけ?」
「それは理由の半分です。もう今までのように戦えないと悟り、かねてからお付き合いのあった女性と家庭を持ってヤクザな仕事から足を洗ったんです」
「まじかよ……」
俺も引退するしかないってこと?
まだまだ二十代前半なのに?
つらすぎる……。
「ただ、アルベリクさんの場合は、わりと根が浅いと思いますよ。だって、普段通りできなくなった理由が判ってるじゃないですか」
レティシアの言葉にはっとする。
俺の戦い方はヒーズル王国の流儀ではないと指摘されてしまったからだ。
「だとしたら話は簡単ですよね」
にっと笑うレティシア。
「「正しい戦い方を学ぶ!」」
俺とレオンティーヌの声がかぶった。
それは間違ってるって内なる声が叫ぶから身体が固まる。だったら一から、基礎の基礎から正しいやり方ってやつを身体に叩き込めば良い。
「……いくか、ヒーズルへ」
武者修行だ。
しばらくの間、アンジェリクどころかルーン王国を離れて遠く異国の地へと赴く。
下手をすれば帰ってこれないかもしれない。
途中に七ヶ国も挟む大冒険だもの。
「レティシア。指導係の依頼はここまでだな」
「はい、わか……」
「ちょっと待ってください! なんでそんな話になるんですか!」
レティシアのセリフを遮るようにレオンティーヌが声を張り上げた。
なんでって、今言ったとおり留守にするからだよ。
「数日で帰ってこられるような行程じゃない。一年か二年か、下手をすればもう帰ってこられないかもしれないんだ。お前さんの指導は別の人間に引き継ぐのが筋ってもんだろう」
「そんな筋は根菜類と一緒に煮込んでしまってください。ついていきますからね。わたしも」
「「ふぁ!?」」
今度は俺とレティシアがハモった。
ずいぶんと今日はユニゾンする日である。
「ちょっと、落ち着こうか、ティーヌ。あなた疲れているのよ」
侯爵家のご令嬢が、一年も二年も家を空けるとか正気の沙汰ではない。
横紙破りにもほどがあるというものだろう。
「勘当されちまうぞ?」
「は」
変なポーズを決めて鼻で笑うレオンティーヌ。
「相棒の危機に際して手をこまねいて見ている馬鹿はいません。すべての能力をあげて助けるに決まっています。鼻持ちならない頑固な父親ですが、この教えは正しいとわたしは思っていますよ。アル」
一気に言い放つ。
バシュラール侯爵って話を聞くからに花崗岩みたいな御仁だもんな。
こういう人って、えてして信義にも厚いんだよね。
こうと決めたらてこでも動かない。損得勘定や目先の利益なんかに目もくれない。
ここは頭を下げておいた方が得、なんて側近が助言したら、鼻息で吹き飛ばされるだろう。
娘のレオンティーヌを見ていると、為人が想像できるよね。
「それとも、わたしは邪魔な足引っ張りですか?」
「馬鹿な。そんなわけないだろう」
やや強い口調で否定した。
レオンティーヌに背中を預けて戦い、それで死んじゃったら仕方がないかなって思うくらい信頼している。
だからこそ、いつ戻れるから判らない旅に同行させるわけにはいかないと思うんだ。
「逆に聞きますけど、わたしがスランプに陥り修行の旅に出るとして、そんじゃバイバイって手を振りますか?」
「……こいつは一本取られたな。。邪魔だって言われない限りついていくさ」
「そうですか。では、わたしは邪魔ですか?」
「わかったよ、降参だ。力を貸してくれるか? ティーヌ」
「理解までが遅いんですよ。アル」
レオンティーヌがぐっと突き出した右拳、もうしわけねえと笑いながら俺は自分のそれをぶつけた。
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