第2話 横紙破り
「改めて、レオンティーヌ・バシュラールと申します」
「……アルベリクです。名乗るべき家名はありません」
もう一度、自己紹介しつつ俺は内心でため息をついた。
バシュラール侯爵家のお姫様とか、俺の命は風前の灯火じゃん。
王位継承権まで持ってるような貴族の娘に、痕の残る怪我なんかさせちゃったら俺の首が飛ぶ。
確率としては十分の十くらいだ。
そしてダンジョンなんか潜ったら、怪我をしないわけがないんだよ。かすり傷ひとつも負わずに生還したなんて話、見たことも聞いたこともない。
詰んだな。
俺の人生、ここで終わりだ。
二十二年か。
はははは、孤児院育ちの捨て子にしては、頑張った方だよな。
……つらい。
「レオンティーヌさま、剣を持っているということは、ご自身でも戦うつもりなのですか?」
「ええ、もちろんですアルベリク卿。それから、敬語は不要でお願いします。これより先は師弟となるのですから」
驕らない態度で歩み寄りをみせるお嬢様。
輝くような笑顔は、やっぱり育ちの良さを感じる。
なんというか、裏表のない笑顔だ。
友好的な態度の影にナイフを隠しているのではない。この娘がわだかまりを持ちたくないというなら、本当に持ちたくないのだろう。
俺は小さく息を吐いて覚悟を定める。
目上の、しかも年下の女性が歩み寄っているのだ。尻込みしていては男がすたるというものだろう。
「アルベリクだ。親しい人はアルと呼ぶ」
卿などつけないでくれと笑いながら右手を差し出す。
びびってしまった詫びというわけではないが、利き手だ。
くすりと笑みを返したレオンティーヌががっちりと握り返してくれた。
紆余曲折はあったが、結果的には良好な一次接触だったといって良いだろう。
ただ、レオンティーヌがやんごとなきお姫様であるという事実は、まったく動いてないんだけどね。
「そもそも、どうしてティーヌは冒険者なんかになろうと思ったんだ?」
場所をギルド内の食堂に移し、かるく酒精でも入れながら互いの思うところというやつを語ることになった。
とはいえ、今日の今日で深いことまで知れるはずがない。まずは触りだけ。
それにまあ、喋っているうちにクセとかも見えてくるだろうしね。
「なんか、なんて、ずいぶんと卑下するんですね。アルは」
「そりゃあ冒険者なんて、成り下がるものだからな」
肩をすくめてみせる。
社会の最底辺にうごめく無頼漢、という認識でそんなに間違っていない。御法に触れるようなことをしないし、そういうことをした連中は仲間内できっちり処分するから、王国政府や役人たちはお目こぼしてくれているだけ。
ぶっちゃけ「悪いことをしない盗賊団」と世間様からは思われているだろう。
子供が目を輝かせて憧れる、なんて存在じゃないのである。
騎士や宮廷魔導師とは違ってね。
「それですよ、アル」
「どれ?」
「騎士になりたいんです。わたし」
「……そいつは無理だろう」
俺たちの国、ルーン王国に女騎士はいない。
たぶん女性の騎士叙勲は認められてないんじゃないかな?
「いえ、いたことはいたんですよ。二百年も昔ですけど、功績によって叙勲されています」
「功績って……ずいぶんと曖昧な話だな」
どのくらいの手柄を立てればいいのかさっぱり判らない。
貴族の子弟が騎士叙勲ってのはべつに珍しい話でもなんでもないから、ハードルは低いような気もするんだけど、前例がほとんどない女騎士への道だからなぁ。
やっぱり討伐かな。
オーガでも倒して、鬼切りの称号を得たらいけそうな気がする。
簡単な話ではないだろうけど。
「その方はレッドドラゴンを討伐してドラゴンスレイヤーとなったそうです」
「終わったぁっ! 詰んだあっ!」
思わず変なポーズでのけぞってしまう。
無理じゃん。
どうやったって無理に決まってるじゃん。
オーガだって個人で勝つのは難しい相手なのに、ドラゴンですよドラゴン。討伐には軍隊が動員されるレベルのモンスターですって。
ドラゴンスレイヤーなんていったら、そりゃあ騎士叙勲くらいされるでしょうよ。爵位をもらったってべつに驚かないレベルだよ。
「ですので、わたしの最終的な目標はドラゴン討伐ということになります」
「しれっと語ってるけどティーヌ。できると思っているのか? そんなこと」
「前人未踏だとしても諦めるつもりはありません。まして過去に成功した人間がいるのに、どうして怖じ気づく必要がありましょうか」
凜として語る。
ご立派なことだけど、過去の成功は未来を約束したりしない。
誰もできないことをやってのけるから英雄と呼ばれるのである。ほとんどの……九割九分九厘の人間は名を成すこともないまま終わる。俺だって例外じゃないだろう。そんなもんだ。
俺は酒精まじりの息を吐き出す。
「ドラゴン討伐が可能かどうかはひとまず置くとして、ティーヌの目標は理解できた。まずは腕を磨くためにダンジョンにでも潜ってみるか」
「わかりました!」
レオンティーヌが目を輝かせるが、俺には彼女の目標の他に理解できたものがある。
バシュラール侯爵家の狙いだ。
横紙破りな娘に現実を教えるってことなんだろう。
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