第15話 おしかけスカウト
「あんたら、メルヴェールを探るつもりかい?」
ギルドを出たところで声をかけられた。
赤茶けた髪と同じ色の瞳を持った痩せぎすの男である。
「ああ、そのつもりだ」
「斥候はいらねえかい? お代は仕事が終わった帰りで良いぜ」
おどけた口調と仕草だが、まったく隙がない。
たぶんかなり使えるね、こいつ。
「お前さんを雇えって話か?」
「おうよ。見たところ二人ともデキそうじゃねえか。オイラもいっちょ咬みさせてくれよ」
「それは、雇えじゃなくて、仲間にしてくれってことではないですか?」
男の言葉にコテンとレオンティーヌが小首をかしげた。
もっともである。
この男は何らかの事情でメルヴェール城塞跡を探りたい。盗賊団そのものか、あるいは別のものかは判らないけど。
でも一人だと戦力的に心許ないから、俺たちに声をかけてきたという寸法だ。
「見ず知らずの男が仲間してくれと声をかけてきたら、たとえはお嬢さんだったら信じるかい?」
「……いいえ」
「仮に信じるにしたって、なんども行動をともにして、一緒に視線をくぐってからだろ? だから金銭で契約しようって話さ」
にやりと笑う。
こいつは俺たちが支払う報酬を信じる。俺たちはこいつが報酬分は働くと信じる。
「契約を反故にするとは考えないのですか?」
「それはないんだよ、ティーヌ」
答えたのは俺だ。
冒険者というのは破落戸一歩手前の無頼漢。その認識は間違いではない。
しかし、一歩手前なのだ。
なぜなら俺たちは約束を守るから。
一度かわした契約には絶対に背かない。もちろん契約内容に嘘があったりしたら話は別だけどね。
「わかった。どのみち斥候は必要だしな。話に乗るよ」
俺もレオンティーヌも軽戦士。もうちょっと格好良くいえば剣士ってところだ。
隠密行動ができないわけではないけど、本職の盗賊や斥候と比較したら三段も四段も落ちる。
「アルベリクだ」
「レオンティーヌです」
俺とレオンティーヌが、やや重なるように右手を突き出す。
「クライヴっていうケチなら野郎さ」
名乗りつつ、クライヴがそこに自分の拳をコツンとぶつけた。
冒険者流の親愛の儀式である。
クライヴというのは、じつは俺たちと同じよそからきた冒険者だった。
俺たちはマジックアイテムを求めてやってきたけど、彼の場合はトーリアンがきな臭いって噂をききつけたらしい。
トラブルこそが冒険者の飯の種だからね。
「けど、トラブルってほどトラブってもいねえんだ。のんきというかなんというか」
飯屋に移動し、偵察行のための作戦会議である。
胸襟を開く意味でも、俺たちはクライヴと情報の共有をおこなった。
「クライヴは、危険さを感じたのですね」
「んだ。レオンティーヌは育ちが良さそうだから知らないかもしれねえが、こんな盗賊団はいねえんだよ」
彼が語ったのは、なんと昨夜レオンティーヌが語った内容と酷似していた。
メルヴェールの盗賊団のやり口は野盗のそれではなく、支配術なのだと。
バシュラール侯爵から軍事をたたき込まれたレオンティーヌと同じ結論に至れる流しの冒険者ね。心の警戒度を一段引きあげておいた方が良いかもしれないな。
「けどよ。支配ってわりにはトーリアンの衆は反発もしてないし、平和なもんじゃねえか」
「それさ、アルベリク。支配者にとって最も都合の良い民ってなんだと思う?」
「そりゃあ熱心に賛同してくれる連中に決まってるだろ」
「ハズレだぜ。そういう連中は反対側に回ったら熱狂的に引きずり下ろそうとしてくるもんさ。良きにつけ悪しきにつけコントロールが難しいんだよ」
王様サイコー! って叫んでいた連中は、簡単に国王を殺せって叫び出すんだそうだ。
飢饉なんかが起きて荒政に失敗したら一発なんだってさ。
地獄の底まであんたについて行くよ、なんて覚悟を民草に期待しちゃいけないらしい。
そんなもんかねえ。
「そしたら、理想的な民ってどんなだよ?」
「無関心な連中さ。大店がみかじめ料をとられても、シティコマンドが負けても、俺には関係ないねって日常を送るやつ。こういう連中が最高なのさ」
どぎつい悪意の抑揚にレオンティーヌが息をのむ。
不同意だったためではなく、明敏な彼女には事態の本質が見えてしまったのだろう。
民にとって支配者が誰かなんて関係ないし、興味もない、という。
「けど、そういう心境に至るまで、普通は反発があるんじゃねえのか? クライヴ」
「普通はな。けどトーリアンは平和そのものだ。トーリアンの衆がとんでもなくぼんくら揃いって可能性をとらないなら、答えは一つしかないと思うぜ、アルベリクさんよ」
メルヴェールの盗賊団の支配術が、とんでもなく高レベルだってこと。
「それ普通の盗賊じゃねえだろ……」
うめく。
昨日の時点で結論は出ていたのだが、俺はまだ甘かったようだ。
クライヴと話して、盗賊団のやばさを再認識してしまったよ。
本気で絶対に放置できないじゃん。
このまま一年も経過したら、この辺一帯を完全に支配下においてしまう。
で、そんときになって王国軍が動いてもたぶん手遅れ。
「結局、最初の敗北のとき、すぐに報告と救援要請をしなかったウィリアム卿がすべて悪いんですけどね」
ため息と肩をすくめること、同時にやってみせるレオンティーヌだった。
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