第13話 奇妙な野盗
そして情報収集の開始である。
自分の街だと思って、と言われているが、これは自分の街でしないような無茶なことはするなよ、という意味だ。
盗賊ギルドの構成員を捕まえて締め上げたりとか、そういう無茶ね。
そんなことやったら、たてえアンジェリクでだって俺の歩ける場所は狭くなってしまうだろう。
「情報を買いたい。トーリアンにマジックアイテムがあるって話を聞いてきたんだ」
片眼鏡のギルド職員に水を向けてみる。
さて、笑い飛ばされるか、それとも別の反応か。
「魔法の品物ね。そいつは豪気な話だな」
頭から否定はしないか。
心当たりがないでもないってところかな。
「売れるほどの情報はない。が、仕事ならひとつ斡旋できる」
「ほほう? どんな仕事だい?」
「偵察さ。街から少し離れた城塞跡を盗賊団が根城にしていてな。守備兵団も手を焼いている」
サミュエルの話と繋がったな。
ただ、シティコマンドが手を焼くほどの規模の盗賊団というのは不可解だ。
トーリアンの街の大きさを考えたら、駐屯している守備兵は五百や六百はいるだろう。
対して盗賊団なんて、多くて十五、六人。
まともに考えたら一撃で粉砕される。
冒険者ごときに偵察任務が回ってくるわけがない。そもそも、正規軍を使わなくたって、傭兵団程度で片をつけられるだろう。
「わけがわからんって顔だな。じっさい、わけがわからん状況なんだよ、アンジェリクの客人」
職員が肩をすくめ、そのわけのわからん状況を説明してくれる。
メルヴェール城塞跡に盗賊団が陣取ったのは半年ほど前。
商品を輸送する荷馬車がまず狙われた。しかも大店のものばかり。荷物をごっそり奪われたわけだが、幸いなことに死者は出なかった。
すぐにシティコマンドが動く。
五十名の部隊でメルヴェールに進撃した。
「盗賊団相手に正規軍が五十? 戦力過大じゃないか?」
「そう思うだろ? ところがシティコマンドはコテンパンにやられちまったのさ。一人も死ななかったのは奇跡ってもんだけど、五十人が下穿き一枚にひん剥かれて、街に逃げ帰ってきた」
身振り手振りを交えた職員の解説に、ロビーがどっと沸く。
よほど情けない姿だったのだろう。
「……いえ、それ笑い話で済まないですよね」
ぽつりと呟いたレオンティーヌに、職員がほほうと不敵な笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃん。あんたもしかして軍略が判るのかい?」
「聞きかじり程度ですが」
「普段は俺たち最強ってツラで威張ってるシティコマンドたちの情けない姿に、みんな笑い転げたもんだが、すぐその笑いは凍り付いちまった」
「……次にシティコマンドと対峙した盗賊団は、正規軍と同じ制式装備に身を固めていたんですよね」
レオンティーヌの言葉に息をのんでしまった。
盗賊団でも野盗でもいいけど、そいつらの弱点って統制がとれていないことと装備が貧弱なこと。
ほかにもいろいろあるけど、このふたつがとくに大きいんだ。
統制がとれてないからちょっと不利になるとすぐに逃げる。ちゃんと資金管理ができないから装備は街のチンピラ以下。手入れだってちゃんとしていない。
ところが、正規軍五十名をやっつけることができるくらい統制がとれていた。そしてそいつらが正規軍の装備をそっくりそのまま手に入れた。
笑えない状況だってことは、さすがに俺でも判ったよ。
「二度目の討伐隊は百五十名で組織されたんだけど、一回目と同じ運命をたどったよ」
そのときになってトーリアンの人々は、状況のまずさにやっと気がついた。
威張りんぼのシティコマンドが大恥をかかされた、という次元の話ではなくなったのである。
「すぐに王国政府に報告して王国軍の精鋭を投入……とはならなかったんですね」
「正解だぜお嬢ちゃん。守備兵団隊長のウィリアムは駐留している部隊だけで解決しようとしてる」
シニカルな職員の笑いだ。
まあ、そりゃあね。
野盗ごときに二回も負けて、装備を全部奪われてしまいました、なんて報告できないよね。
降格くらいで済んだら御の字、下手したら処刑されるまであるよ。
「それでも、報告しなくては状況は悪くなるばかりだと思いますけど」
小首をかしげるレオンティーヌ。
「自分の恥か自軍の勝利かって、そもそも秤に乗せるものではないでしょうに」
まったくその通りだとは思うけどね。
そいつは立派な騎士とかの発想だ。
平民上がりの兵隊なんか、国の興亡より自分の命の方がずっと大事だと思うよ。俺だってそうだもん。
「で、ウィリアム隊長さまは三回目の決戦を考えていらっしゃるんだな。そんで情報を求めてるって寸法さ」
職員が、悪意の抑揚をセリフに乗せて説明する。
懲りないねぇ、と付け加えてね。
「偵察の依頼が出た背景は判ったけど、それがマジックアイテムを探してるって俺たちの話とどう繋がるんだい?」
一応尋ねておく。
盗賊団が魔法の剣を持っているらしいという情報をじつは持っている、なんて言う必要がないことだからね。
「頭目がな、魔剣を使うらしいぜ」
「なるほど」
こくりと頷く。
検算はできたけど、ちょいと厄介な話になったな。
俺とレオンティーヌは顔を見合わせた。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




