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中堅冒険者とお姫さま剣士 ~悪縁奇縁で最強を目指せ!~  作者: 南野 雪花


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第10話 自由を得るということは

 

 街の中の騎乗が許される人なんて限られる。

 まして駆けるなんて。


「はぁぁ……もうきたのか。逃げる暇もなかった……」


 俺はでっかいため息をついた。

 嫌だなぁ。

 貴族との決闘なんて、勝っても負けても地獄じゃないか。


「ティーヌ。証人になってくれるか」

「もちろんです」


「ギルド長を連れてきます。平民側の証人は彼で良いでしょう」

「すまんレティシア」


 決闘が公正におこなわれたと証言する人が必要になるんだけど、このケースは貴族と平民だけからね。

 両方の立場の人がいた方が良い。


 向こうだってたぶん貴族と平民、両側の証人を連れてくるだろうしね。


 やがて、ギルド前の大通りで馬蹄の音がとまる。


「ネルヴィル伯爵公子セレスティアン! 義によって冒険者アルベリクに決闘を申し込む! 潔くいでませい!!」


 響く大音声。

 義だってさー。

 ただの勘違いじゃんねー。


 まあ駄々っていても仕方ないから、俺は剣を腰に差して表に出る。

 やや遅れてレオンティーヌ、ギルド長、そして野次馬がぞろぞろとついてきた。


 レティシアまで。

 業務は良いのか業務は。

 さぼってんじゃねーよ。


「事情はレオンティーヌ嬢から聞いた。セレスティアン卿、疑惑は貴殿の勘違いだ」


 一応、こちらの潔白を証言するよ。


「黙るが良い! 若い男女が二人きりで薄暗い場所へ赴き、それでなにも後ろ暗いところがないと誰が信じるか!」


 薄暗いとかいうなや。

 連れ込み宿じゃなくてダンジョンだからな。


 すちゃりと鞍から飛び降りるセレスティアン。


 ほう?

 貴族のぼんぼんにしては、良い身のこなしじゃないか。


 なめてかかって良い相手じゃなさそうだ。

 改めて全身をしっかりと観察する。


 蜂蜜みたいな色の金髪と赤みがかった目。中肉中背といった体格だけどしっかり引き締まっている。ちゃんとした訓練を積んでいるな。

 長剣を抜き、構えた姿には一分の隙もない。


 いいだろう。

 相手にとって不足なしだ。


「俺の名はアルベリク。望むところ」


 腰だめの姿勢で左手で鞘を押さえ、右手を剣の柄に置く。


「……なんたその構えは」

「東方ヒーズル王国の剣技『イアイ』さ」

「面妖な……」


 警戒したのか、セレスティアンは簡単に踏み込んでこない。

 一丈(約三メートル)の距離を置いてにらみ合う。


「珍しい黒髪。それでレオンティーヌをたぶらかしたのか」

「たぶらかしてない」


「無頼の生き様に憧れ、騎士になるなど妄言を吐いたのも、貴様のせいだな」

「……御託は良いからかかってこいよ。ぼんぼん」


 かちんときたから、思い切り煽ってやる。


 レオンティーヌは横紙破りだけど、それは彼女自身の選択だ。

 自由意志だ。


 男の影響で生き方を変えるような、そんな女性にお前には見えるのかよ。


「雑言は高くつくぞ! 平民!」


 ぐんと踏み込んでくる。

 美しく振り抜かれる剣。速い。


「けど、受けられない速度じゃない!」


 鞘から抜きざま、上段に剣を跳ねあげた。

 キンという乾いた音が響く。

 跳び離れる二人。


「ふー ふー」

「すぅぅぅ」


 大きく息を吸って呼吸を戻す。

 たった一合で、俺もセレスティアンも息が上がった。

これが命の取り合いだ。




 セレスティアンと俺の力量は、たぶん同じくらい。


 正規の剣技を学んでいるという意味では彼に軍配が上がるだろうけど、実戦経験では俺の方が上。

 差し引きして同じくらいの実力ということになる。


 つまり勝負は一撃で決まるということだ。


「……あんた、ティーヌが騎士を目指したのは俺のせいだと思ってるのか」


 話しかける。

 つけいる隙を作るために。


「愛称で呼ぶな。平民の間男風情が」


 歯ぎしりがこっちまで聞こえそうだね。

 貴族なんてプライドのカタマリだ。婚約者を平民に寝取られたなんてことになったら、そりゃあ虚心ではいられない。


 寝取ってないけどね!


「あんたがそんなだから、彼女は自分で道を探ろうとしたんじゃないのか?」

「ダマレ!」


 再びの突進(チャージ)

 待ち構えるのではなく、今度は俺も自ら間合いを詰めた。


 振り下ろされるセレスティアンの剣。

 まっすぐな、本当に良い太刀筋だ。

 俺の剣は邪剣だからとてもまともには受けられないね!


 突進から急にサイドステップを刻み、セレスティアンの剣をいなしながら振り下ろす。

 剣を狙って。


 セレスティアンが振り下ろす力と俺が振り下ろした力、そのふたつが彼の手にかかった。

 非音楽的な響きを立てて長剣が落ちる。


 剣ってのは常に力を込めているのは小指と薬指くらいなんだ。そうしないと柔軟に振り回せないからね。

 ギチギチに握りしめたら、かえって取り回せないものなのよ。


 剣二振りの重さと、二人分の斬撃の力。

 それに耐えきれずセレスティアンの手から剣が落ちてしまった。

 というのが今の状況だ。


 片膝をついたセレスティアンの首元に、すかさず俺は切っ先を突きつける。

 勝負あり。


「……斬れ」


 負けを認めたセレスティアンが命じたが、もちろんそんなものに従うつもりはない。


「誤解に基づいて殺生をする気はない。俺がレオンティーヌ嬢と知り合ったのはほんの数日前だ。不倫もへったくれもないんだよ。伯爵公子」

「…………」


「けど、それでも俺はあんたを叩きのめさないといけないと思った。彼女の決意と覚悟を軽んじる言葉を吐いたからだ」

「…………」


 レオンティーヌは、誰かの影響で剣に生きたい思ったわけではない。

 女は男に従い、子を産み育てるのが唯一の生き方である貴族社会から抜け出すには、剣で身を立てるしかなかったからだ。


 そうまでして、彼女は自由が欲しかったのである。


「だが自由を得るということは、それと同じだけの質と量をもった不利益も被るということだ」

「…………」


「判った上でなお強くあろうとするほどの良い女があんたの婚約者なんだ、それを誇りに思うくらいの度量をみせなよ。セレスティアン」

「……平民に打ち負かされ、説教まで垂れられるとはな。我が身の未熟を恥じるばかりだ」


 剣を納め、差し伸べた俺の手をセレスティアンは握り返した。

 痛いほどの力で。



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