第1話 衝撃の出会い
「ごめんレティシア、ちょっと意味がわからない」
にこにこ満面の笑顔を浮かべながら説明する冒険者ギルド職員を、俺は右手をあげて制した。
「あれ? 判りづらかったですか? アルベリクさん」
「いや話はわかりやすいよ。いつも通り理路整然としていて、俺でもイヌでも判ると思う」
話はわかるけど、意味がわからないんだよ。
なんだよ指導員って。
冒険者ギルドで、そんなもんきいたこともないぞ。
「ですから、新人を指導する役割です」
「なんでそんなもんを新設することになったのかって話だよ」
ギルドは学校でも託児所でもない。
指導が必要な新人なんぞ、強くなってからきてくださいって追い返すような場所だ。
「そりゃもう、ばっちり裏事情があるからですね」
「そうでしょうとも」
笑顔を絶やさないレティシアに、俺は大きく息をつく。
この笑顔の裏側には、絶対に厄介ごとを押しつけてやるって固い意志が隠れているんだろうなぁ。
「とあるやんごとない身分の方が、冒険者になろうとか頭おかしいことを言いだしたんですよ」
「うっわ……」
やんごとないってたぶん貴族とかだよね。
貴族が冒険者とか頭おかしすぎる……。
「それで護衛ってことか……」
「護衛ではなく指導です。護衛なんか必要ないってゴネられましたので」
あー、レティシアさんけっこうピキってますね。
ギルドとしては貴族の加入を認めたくないだろう。でも断るなんてできるわけがない。
で、そのお貴族さまが受けた依頼で怪我をしたり死んだりしたら、とんでもないことになってしまう。下手したらギルド幹部の首が飛ぶ、物理的に。
そりゃあ護衛くらいつけるよね。
依頼料がギルド持ちになったとしても、死なれるよりマシだもの。
にもかからわず、護衛なんかいらないと言われてしまったと。
うん。
俺がギルドの幹部でもぶち切れですよ。
「貴族が冒険者のルールなど判るわけもないですからね。いろんなノウハウを伝授する人間が必要だろう、という名目で指導員という役割を納得させました。ぎりぎりでしたよ」
「ご愁傷様です」
苦労が忍ばれすぎたんで、思わず頭を下げちゃった。
「名目が名目なので、ユーグさんやイアサントさんを斡旋するわけにはいきません」
交易都市アンジェリクの冒険者ギルドで一、二を競ってる二人だけど、かなりの強面だからね。いかにも歴戦の強者だし、護衛としてつけられたってのは子供にだって判るだろう。
「それで俺、か」
「アルベリクさんは腕も立ちますし、経歴だって十年選手です。実力も実績も充分ですから」
見た目がごつくないのも良いですしねと付け加える。
まあ、俺にはこの黒髪と一緒で東方の血が入ってるんだろうな。鍛えてもユーグみたいな筋骨隆々にはならない。
あいつらに比べたら、護衛じゃないよって言い分も通りやすいだろう。
「……わかったよ」
ふうとため息。
ギルドもかなり困っているようだしな。あっしには関わり合いのないことでござんすと逃げるわけにはいかない。
冒険者とギルドは持ちつ持たれつだし。
「助かります、アルベリクさん」
あからさまに安堵した顔のレティシアだ。
「ただ、いつまでも無限にってわけにはいかないぞ」
お貴族さまのお守り、なんて仕事、長期にわたったらストレスで胃が溶けてしまう。
「どうせすぐに飽きるだろうって上は読んでますよ。わたしも同意見です」
「なるほど、たしかにな」
肩をすくめ、俺は差し出された依頼書にサインする。
新人冒険者の指導、という、謎すぎる仕事だ。
「貴殿がアルベリク卿ですね。よろしくお願い申し上げます」
数日後、冒険者ギルドで挨拶を受けた件のお貴族さまは、クロスアーマーにブレストプレートという軽装鎧に長剣を佩いていた。
おかしなところはまったくない。
むしろよく似合っている。
くすんだ金髪と青灰色の目だって、まったく異常ではない。
ただ一点を除いては、なんにも問題はなかった。
「お初にお目にかかります、アルベリクです。少しだけお待ちくださいね」
頭を下げるという東方風の挨拶をしてから、俺はレティシアと肩を組んだ。
そりゃもうがっしりとね。
息がかかるくらいの距離まで顔を近づける。
「……女だなんてきいてないんですけど? レティシアさん?」
「ええ。言ってませんから」
こ、こいつ……。
しれっと応えやがったな。
どうしよう。
どうしてくれよう。
「だって、教えたら断るじゃないですか」
「当たり前だ」
お貴族さまに聞こえないよう、こそこそと会話を交わす。
雲の上の存在を相手にするってだけで苦行なのに、それが年若い女性だとか、苦行を通り越して拷問ですよ。
「つまりなんですか奥さん? あたしはこの美少女全開なお姫様を連れてダンジョンとか潜らないといけないって話ですか?」
「ええ、そうなりますね」
「よしケンカだ。表に出ろレティシア」
「わたしを殺しても現実は消えませんよ。往生してください」
互いにだけ聞こえる声で激しくやり合う。
「おふたりは仲良しなのですね。もしかしてご夫婦ですか?」
困ったような顔で曖昧に笑うお貴族さま。
「「絶対にちがう!」」
俺とレティシアの声が重なった。
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