第1話 左遷先、競馬事業部
2週間前前に「馬鹿じゃないの?なんで言い返さないの?」と嫁にこっぴどく叱られたのがまるで昨日の夜のようだ。家の扉を開け列車に乗り府中にあるリアルエステート府中支社までタクシーで移動する。
「なんで、こんなところにいるんだろう、俺。」
素直な疑問だ、しかし今はそんなことはどうでもいい。まずは事業部の実態把握をしなければ。
そんな情熱の事業部に付けばすぐに薄れた、古びたデスク、のみかけの缶コーヒー、部屋こそきれいだが美品はどれも古びて中には錆びついたものさえある。
「ああ、丸山さんですか」とうしろから声をかけてきた男こそ、競馬事業部のリーダー「橋本中也」だ。
「本日付で本社より移動となりました、丸山龍次郎と申します」と返す、続けて「いきなりのお願いで恐縮なのですが競馬事業部の支出の分かる書類などはありますでしょうか?」
橋本は少々驚いた様子で「それならここにあります」といってファイルを取り出し丸山に見せた。
そこには驚愕の内容があった。
7億円使用!?一体に何に金をかけているんだ?」と純粋に言葉が出てしまった、橋本は少々苛ついた様子で「競走馬の購入費、委託料、飼料その他諸々でここまで膨れ上がりました。」
「とりあえず、所有馬も見してください」
橋本はまたファイルを取り出し丸山に見せる。
「名義はリアルエステート、所有馬は....4頭。一番若い馬は5歳!?今まで1勝しかしていない.....ここ最近は怪我が原因か全く結果を残せていない」
橋本がため息を付きながら一言
「終わった馬ですよ。」
その一言を聞いてもう一度その馬の写真を見る、たしかに見た目はさながら諦めた顔に見えるが体の奥には投資が灯っているようにも見えた。
「この馬は一体どこにいるんですか?」と丸山は聞く。橋本は返す。「滋賀県にある栗東トレーニングセンターってとこだよ、そこの山本厩舎ってとこに行けば会えるよ。「電話番号を教えてください」と丸山。「あぁ、電話しなくても大丈夫だよ。」
「なぜですか?」
「俺たちゃ社会の底辺みたいのもんさ、あっちの山本さんところも底辺中の底辺だ。底辺と底辺は仲良くしなかだめやろ」
新幹線と普通列車を乗り継ぎその後レンタカーを使いついにやってきた栗東トレーニングセンター、場内馬優先15kmの看板をまじまじと見つめながら付近の駐車場へと向かう。車を降り数分後見えてきたのは木造の馬小屋、中には見覚えのある茶色の馬や白毛の馬がいた。
「どちらんさんですか?」と声をかけられた、とっさに「競馬事業部丸山です」と答える。その男は考えたあとに「担当さんが変わったのか、あの人良かったんだけどな」と一言。
「なんだコイツ」と喉奥まで出かけた言葉を飲み込み「電話もなくズカズカと押し入ってしまい申し訳ありません」とまずは謝罪の一言。その男は「いいんや、別にこんなところに電話なんかしなくたっても。とりあえずせっかく来てもらったんなら馬でも見てってくださいな。」と案内され馬小屋の中へ。
中には9頭、そのうち5頭がリアルエステート競馬部の所有馬だった。その中にはもちろん写真の馬もいた。
「この馬の名前はなんですか?」と丸山が指を指した先には写真で見た馬がいた。
「こいつですか、名前は」
「リアルエステイト号です」




