表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】いつの間にか溺愛されてましたとは言うけれど。  作者: 江入 杏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/23

恋のキューピッドは難しい

恋のキューピッドは難しい

「えっ、私がカルロス様の後妻に……!?」

「そう。私とカルロス様はあくまで体裁を保つための婚姻で、三年後には離縁する話になっているのよ。再婚なら身分についてもそこまで煩く言われないでしょうし、シーナさんならあの男――じゃなくてカルロス様もきっと喜ぶんじゃないかしら」

 リアーナの作戦はこうだ。

 ここぞとばかりにシーナを焚き付け、その気にさせる。そして前世の美容道具を使ってあの男好みの容姿にし、接触させる。

 その時にシーナが幼馴染であること、淡い初恋を打ち明ける。

 幼かった幼馴染が自分好みに美しく成長し、自分を初恋だと言うのだ。これで落ちない男はいない。

 計画通り、と言わんばかりの顔をしながらリアーナは前世の自分の化粧スキルを思い返していた。

 残念ながらそこまで得意ではなかった。詰みである。

「くっ、私の完璧な計画に狂いが……!」

 前世でそこまで化粧に興味を持たなかった弊害がここで出てくるとは。更に、リアーナは化粧いらずのすっぴん美人であることも今回ばかりは仇となってしまった。

 シーナも当然美少女なのだが、どちらかと言えば可愛い系の顔立ちだ。正統派ヒロイン寄りのビジュアルである。

 対してリアーナは見た目だけは幸薄系の儚げ美人。しっとりとした色気があるビジュアルだ。

 花は確かに総じて美しいが、薔薇と百合に同じ美しさがあるかと問われたら誰もが首を振るだろう。

 そう、美しさの系統は千差万別。そして残念ながら、リアーナには薔薇を百合に見せる化粧の腕はなかった。例えあの男の好みのタイプをリサーチしたとしても、シーナのような系統ではなかった場合即試合終了なのである。

 ワンチャン賭けてリサーチしてもいいが、ノーチャンスだった場合のリスクが大き過ぎる。

 ここは幼馴染という付加価値で勝負するべきか、それともサブリミナル効果を期待して常にリアーナに付き従わせてあの男の潜在意識にシーナの存在を刷り込ませるか。それともミラーリング効果で好感度アップを期待するか。

 いや、あの男は見栄っ張りそうだしここは恋のさしすせそが一番効果的な気もする。

 ひとまず、シーナの魅力アップが先決か。そこであの男が興味を持てば御の字。

「お姉様、大丈夫ですか……?」

 百面相しているリアーナを心配したのか、何やら不安そうな顔でシーナがこちらを見ている。

「大丈夫よ、問題ないわ」

 全然大丈夫ではなさそうな返事だが方針は固まった、後は行動あるのみ。とりあえずシーナには少し席を外すように告げ、スキルで自室に戻る。ありったけの美容道具と折畳式のミニテーブルと過去に意味も無く買っていたブルーシートを引っ掴み、すぐに屋根裏部屋に戻る。

「あら!?」

 が、持っていたはずの美容道具が無くなっていた。慌てて部屋に戻ると、全て元の場所に置かれている。

 何度か試してみたものの、やはり屋根裏部屋に戻ると持っていた物が全て消えていた。どうやら部屋の物は外に持ち出せないらしい。

「まずいわ、そろそろシーナが戻って来るしどうすれば……そうだ!」

 そうと決まれば即行動。直ぐ様計画の軌道修正を図る。


 戻ってきたシーナに満面の笑みで言う。

「シーナ、私の手を握ってちょっと目を閉じてくれる?」

「はい、こうですか?」

「そうそう。私が目を開けていいって言うまで閉じたままでね」

 シーナの手を握ったまま限りなく小さい声でホームと口にする。すると手を繋いでいたシーナも一緒に部屋へと入れたのである。

 旅行鞄をこの部屋に持ち込んでいたことに気づいて試してみたのだが、人も対象のようで良かった。どうやらリアーナが触れているものであれば、この部屋に持ち込めるらしい。

 ひとまず玄関で靴を脱いでもらい、未だ目を閉じたままのシーナの手を引いて誘導する。そのまま脱衣所に入り、そこで目を開けるよう伝える。

 シーナの瞳に、青一面の床が飛び込む。無駄に大きいサイズを買ってしまったため、持て余して押し入れの肥やしとなっていたブルーシートが役に立つ日が来るとは。きっとブルーシートも日の目を見て泣いて喜んでいるに違いない。

「お姉様、ここは? この床の青い物は?」

「屋根裏部屋の隅にね、隠れるように更に小さい部屋の扉があったの。そしてこれはブルーシートよ。この部屋は埃っぽいから直に座るわけにもいかないし、荷物から出してきたの」

「そうなのですね、流石お姉様です」

 そんな部屋あったかしら、と内心シーナは考えていたがドヤ顔のリアーナが素敵だったためその疑問は思考の片隅へ飛んでいった。

 設置したミニテーブルの前へシーナを座らせ、前髪クリップと化粧用ケープを着けて準備完了だ。可愛さをより際立たせるには、前世では若い世代に人気だった量産型風メイクが良いだろうか。地雷風メイクも可愛いけれど、今回は万人ウケしやすい量産型で決めていく。

 前世で興味本位で見た量産型風メイクの指南動画の記憶を頼りに、それっぽく仕上げていく。化粧品の中にピンク系の物がいくつかあって助かった。

「仕上げにヌーディーピンクのリップでピュアな雰囲気を出して……よし、完成ね!」

 クリップとケープを外し、鏡をシーナに渡す。久しぶりの化粧なので少し手際は悪かったが、それなりに上手くいったのではないだろうか。

「凄い、なんだか私が私ではないみたいです。不思議な感じ」

「化粧ってそういうものだから、そう感じてもらえて何よりだわ。じゃあ早速、あの男に見てもらいましょうか」

 これは中々良い掴みになるのではないだろうか。再びシーナに手を繋ぎながら目を閉じてもらい、玄関まで誘導してしっかり靴を履いてから屋根裏部屋に戻った。

 逸る気持ちを抑え、昨日の職務怠慢執事にあの男が書斎で書類仕事をしている確認を取って向かう。

「カルロス様はお忙しい身、貴様のような女に使う時間は……おい、何処へ行く!」

 執事が何やら得意げな顔で嫌味を言っていたが、それに付き合っている暇はない。シーナを引き連れ、いざ出陣!

 書斎の扉をノックした後、返事は待たずに開ける。カルロスは何やら驚いた顔をしているが、昨日は自分本位に話を進めたのだ、こちらだって待ってやる義理はない。

「ご機嫌いかがでしょう、カルロス様。私ですか? ええ最悪です、何せ使用人達の態度が女主人に対するものとは思えないんですもの」

 捲し立てるように使用人に対するクレームを告げると、少ししてリアーナのペースに呑まれていたカルロスが眉間に皺を寄せる。

「使用人にそういった態度を取られるのであれば、そちらの素行に問題があるのではないか?」

「私はまだ何もしておりませんわ。なのに来て早々にこんな手厚い歓迎を受けてとても驚いておりますのよ」

「我が家の使用人は皆優秀だ、手厚く歓迎されたのなら気にすることは何も無いだろう?」

 バチバチと火花が散るような舌戦に、付き従うシーナは目を白黒させていた。まだリアーナとの付き合いは短いが、カルロスがここまで目の敵のように彼女を扱う理由が分からない。

 シーナもリアーナが来た当初こそ初恋の相手の妻の座に収まる憎い恋敵として遇していたが、いざ接してみると噂のような女性にはとても思えなかったのだ。カルロスのあまりの態度に口を挟みたくなったが、リアーナから手出し無用と言われているため押し黙って会話の応酬を聞くしかない。

「……話になりませんわね。シーナ、戻りましょう」

 わざと大きなため息をつき、これ以上は不毛だとばかりに会話を切り上げる。その時になってシーナの存在に気づいたのか、その鋭い瞳が彼女を捉えた。

 その目が暫し釘付けになる。作戦成功の手応えを感じたリアーナは内心でガッツポーズを決めてほくそ笑んだ。

「そこの使用人」

 カルロスがシーナを呼び止める。途端、まるで少女漫画のようなキラキラフィルターが二人の間に現れた。実際はそんな物は発生していないが、リアーナにはそう見えたのである。期待に胸が高鳴る。

 これは本当にヒロイン交代するのでは……!?


「目の下にナメクジが付いているぞ」


 しかしその期待も虚しく、あの男は全てを台無しにしたのである。


 ◆ ◆ ◆


「な・み・だ・ぶ・く・ろ! 涙袋メイクじゃボケェ!!」

 令嬢らしからぬ荒い口調でリアーナは缶ビールを握った手をテーブルへと怒りのままに叩き付けた。

 あの後、なんだァ? てめぇ……とリアーナがピキッた姿を見てシーナが慌てて連れ出したため事無きを得た。

 本当に危なかった。リアーナが格闘家だったら今頃カルロスの命は無かったかもしれない。

 リアーナは非常に気が立っていたため、シーナに気を遣わせないように本日は解散としたのであった。屋根裏部屋に入った瞬間爆速でスキルを使い、今は自室で酒を飲みながらぐだを巻いている所であった。

「あの男、私の渾身の涙袋メイクをナメクジですって? ノンデリにも程があるわよ、デリカシーをママのお腹の中に置いて来たのかしら!?」

 誰も聞いてないのを良いことに悪態をついた後、ぐいっと缶ビールを呷る。こんな気分の時には飲まなければやってられない。この国が十八歳で酒を解禁していて本当に助かった。

「絶対に許さん……!」

 空になった缶ビールをグシャリと握り潰し、座った目つきで冷蔵庫を見る。いそいそと新しい缶ビールを取り出す背中からは、憤怒のオーラが滲み出ていた。怒りの酒盛りは続く。

面白かったら評価を押して頂けるととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ナメクジ!わかる笑笑 初めて見た時は隈に見えて、思わず体調悪いのかと当人に聞きましたもの。 リアーナさん、あんまり策を弄するととんでもないことになりそう。先が楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ