神サポート
お風呂から上がり、火照った身体でベッドに横になった瞬間、めちゃくちゃ爆睡したのであった。
お布団が 『ここに居ろよ』と 囁くの
思わず心の一句を詠んでしまった。そのくらいには布団の虜である。
まあなんて素敵な朝焼け……と、しぱしぱする目で窓の外を眺める。相変わらず環境音は一つも聞こえないが、どうやら外の明るさは現実の時間と連動しているようだ。体内時計が狂わずに済むので、この細やかな気遣いが有り難い。
ふと、昨日の問い合わせがどうなったのか気になりステータスを開く。昨日とは明らかに様変わりしたUIに目を瞠った。
「凄い、改善されてる……!」
シンプルだったフレームデザインはスタイリッシュになり、フォントもドットからオシャレフォントになっている。
ステータスの項目もワンポイント入ることで更に見やすくなり、説明文もより詳細に分かりやすくなっている。
右上にはver1.0.0と表示されていた。今後もアップデートが入るのだろう。
凄い、これは神サポート過ぎる。神運営だ、これにはユーザーもにっこり。文句無しの満点星五、絶賛レビューを書き込みたくなる。
あまりの神対応ぶりに手を組み、感謝の意を伝えた。どうか届け、この熱い思い。
感動の気持ちが落ち着いてきたら腹の虫が騒ぎ出したため、朝食を作るために冷蔵庫を開ける。やはり前世が日本人である以上、朝食にはアレが食べたかった。この世界では絶対に食べられないアレが。
「やっぱり日本人といったらこれよね……!」
茶碗に盛った白米、その上に生卵を割り入れ、醤油をかける。そう、その名はTKG。日本人なら誰もが知っていて、実は日本くらいでしか食べられないあのシンプルイズベストの料理。
「お、美味しい……! 卵かけご飯美味しい! 美味しい!」
もりもりと黄色い宝石を食した後、インスタントの味噌汁を啜る。ありがとう神様、このスキルを与えてくれて本当にありがとう。
この世界の衛生観念では絶対に食べられない生卵。実は作る直前、この生卵も安全だろうかと不安が過ったけれど神様のくれた食材なら安全に違いない! と判断してゴーサインを出した。
明日は梅おにぎりが食べたい。でも梅干しは冷蔵庫にあったかな。
既に明日の朝食を考えながら炊飯器の蓋を開いた。お分かり頂けただろうか、おかわりだ。走り出した食欲はもう止まらないのである。
「……あら? ご飯が減ってない?」
先程ごっそり減ったはずの炊飯器の中身がいっぱいになっている。もしやと思い冷蔵庫の中も確認すると、一つ減ったはずの生卵が元に戻っていた。
「もしかして食材は使ったら補充されているの? 無限湧き? え、じゃあ食費もかからない……ってコト!?」
なんということでしょう、生活費の中で今後一番の懸念事項だった食費がまさかのゼロ円。しかも前世の衛生観念の食材で、だ。
「こ、これは、まさしく神スキル! 神スキルだわ!!」
水道光熱費無料、食費無料!
脳内で小さなリアーナが駆け寄ってきて、勝訴と書かれた紙を満面の笑みで広げている。
もうこのスキルがあれば、あのドアマット生活にさよならバイバイである。快哉を叫ぶリアーナであったが、たった今重要な事を思い出した。
「……しまったわ。一晩ここで過ごしたけれど、食事とか運ばれてきてたんじゃないかしら」
あまりの快適生活に忘れていたが、リアーナは一晩あの部屋に戻っていない。使用人が粗末な食事を運んできてこれから頑張ろうと意気込むリアーナの出鼻をくじくはずが、逆にこちらがいびってやろうと意気込む使用人の出鼻をくじいてしまった。
つまり、初手からやらかしたのである。一応途中までは原作通りに動いていたが、原作崩壊レベルのことをやってしまった。今頃、リアーナが逃げたと屋敷内で騒ぎになっている可能性が出てきた。
「えー……もう、ここでずっと過ごしちゃ駄目かしら」
神の神サポートぶりに盛り上がっていたが、これにはリアーナの機嫌も急転直下。突如発生した面倒くさいイベントを前に、がくりと項垂れるのであった。
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