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【連載版】いつの間にか溺愛されてましたとは言うけれど。  作者: 江入 杏


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チートスキル

 やはりスキルの説明は不親切だ。あまりにも説明不足が過ぎる。

「とはいえ、これは大きな収穫だわ」

 玄関で靴を脱ぎ、ぐるりと前世の自室を見渡す。見慣れた家具の配置、愛用の家電製品たち。部屋の間取りも記憶そのまま。間違いなく、ここは田中恵子の部屋だ。

 嬉しさと懐かしさが込み上げる。一通り室内の中を見て回り、最後はベランダに出られる窓の前に立った。

「部屋の外には……駄目ね、窓が開かない」

 鍵はかかっていないのに窓が開かない。外は明るいが、それだけだ。窓の外に見えるのは前世で毎日見ていた景色だが、あまりにも静かだった。まるで時が止まっているかのように音が一切しない。

 よくよく考えてみれば、転生しているのだから前世の部屋に行けるということ事態がおかしい。一緒に暮らしているわけでもない、亡くなった身内の部屋を家族はそのままにしておくだろうか?

 あの家族なら絶対にそんな事しない。とっくに売れる物は売って部屋を引き払っているはず。

 ならば、ここは本当の部屋ではない。似せて作られた仮想空間のようなものだろう。

 試しに水道の蛇口を捻ると、水が出てきた。電気もつく。冷蔵庫の中にはいつも買い置きしていた食料や調味料が入っていた。お気に入りの食器も服もそのまま記憶通りにあるべき場所にある。

 なんだか泣きそうになった。記憶にある自分の部屋そのままなのに、全て本物ではないのだ。でも、今は自分の部屋に戻れたことが嬉しい。

 

「……ただいま」


 すん、と鼻を鳴らす。呟いた声は少し震えていた。

 本当はずっと心細かった。本来のリアーナのためにも頑張らなければと気を張っていたけれど、味方が誰もいない孤立無援の状態で過ごすのは不安だった。

 でも、このスキルがある。自分だけのお城が手に入ったのだ、これから何だって出来る。

「きっとこれは神様がくれたチートスキルね、異世界転生特典ってやつかしら」

 チートスキルというと実戦向きなものを想像するけれど、これで良い。いや、これが良い。リアーナにとってこの上ないくらい最高のスキルだ。

 俄然やる気が湧いてきた。まずは食事、そして洗濯だ。衣服も心も綺麗にしなければ。この長旅でろくに風呂に入れなかった。仕方ないとはいえ、やはり乙女として身綺麗に出来ないのは辛い。

 お風呂を沸かしながら、冷蔵庫にあるもので簡単に食事を作る。室内着に着替え、ドレスは洗濯ネットに入れてオシャレ着洗いだ。

「室内干しかあ、臭いとか大丈夫かしら」

 いざとなればドライヤーで乾かすか、なんて考えながらローテーブルの上に出来上がった料理を並べる。冷蔵庫から作り置いていた麦茶をコップに注いで座ったら、手を合わせて食べ始める。

「……なんか、自然にいつも通りに過ごしてたけど本当に全部前世のままね」

 水道光熱費とかどうなっているのだろう、と考えたが気にしないことにした。きっと神様が上手いことやってくれているのだろう。チートスキル様々だ。

 料理を食べ終えた所であのメロディーと共にお風呂が沸きました、とアナウンスが流れる。お風呂に心が浮き立つのは、心は日本人だからだろうか。

「失って初めて気づくって言うけれど本当よね。前世では当たり前に過ごしてたけれど、この生活がいかに凄いことだったか今ならよく分かるわ」

 まず、インフラが整っていること。これが一番凄い。この国には魔法が無いから電気なんて通ってないし、発電機も無いことから恐らくその概念も無い。それにガスも。夜は暗くなったら眠るか、蝋燭を灯すかだ。火は火打石があるからそれで点けるとして、水は基本的に井戸か川から汲んでくるしかない。貴族であれば使用人がいるのでもう少し違ってくるけれど、平民の生活は殆ど自給自足と言ってもいい。

 蛇口を捻れば水が出て、スイッチ一つで明かりも点く前世とは大間違いだ。

「魔導具があればまた違うんでしょうけど。というか、別の国なら魔法や魔導具もあるのかしら」

 離縁するまで時間はいくらでもある。領地内で情報収集をしてみるのもいいかもしれない。独り身になったら世界中を旅して回るのも楽しそうだ。

 衣食住はこのスキルで全て賄える。流石に前世の服で出歩くわけにもいかないので、服を買う必要はありそうだが。後は交通手段だろうか。陸地は良いとしても、海は泳いで渡るわけにもいかない。

「そういえば、スマホも使えるかしら。記憶のままならベッドの枕元にあるはず」

 ベッドに備え付けられていたコンセントに充電プラグを挿して、そこからいつも充電していた。記憶通りの場所にスマホが置いてあり、まさか前世の万能機器まであるなんて……と感動してしまう。大丈夫だろうか、チートアイテム過ぎて禁止アイテムになってしまわないだろうか。

 挿しっぱなしの充電ケーブルを外して電源ボタンを押すと、画面が明るくなる。通話アプリやメッセージアプリ、よく遊んでいたソシャゲは入っていないけれど、カメラアプリと見慣れたアイコンは残されていた。前世でもよくお世話になっていた大手通販サイトのアプリが。

「……え、これ使えるの?」

 まさか。生活基盤が整ってるこの部屋に加えてネット通販まで出来たら、もうチートどころではない。現代文明無双ではないか。勝ち確どころか約束された勝利である。完全なる勝ちイベ、後は消化試合だ。

 震える指先でアプリを押すと、見慣れた通販ページの代わりにメッセージが表示された。


 『レベルが不足しています。この機能はホームLv5から解放されます。』


「ですよねぇ……!」

 初期レベルでもチート過ぎるスキルに加えてこの機能があったら、最早鬼に戦闘機。これがRPGゲームであれば、主人公が強過ぎてつまらないとクレームが来るレベルのバランス崩壊を起こす所だった。とても危ない。

「スキルの隣にレベルが表示されてるのが気になってたけれど、ここに繋がってくるのね」

 通販機能が使えるなら、スキルのレベルを上げる必要が出てきた。これは早急にやらなければならない。

「とは言っても、スキルのレベル上げってどんな方法があるのかしら。ゲームだと強化イベントのクエストをこなすか熟練度や実績解除、ソシャゲだと素材とお金でレベル上げをするのは見たことあるけれど」

 試しにステータスからスキルの項目を押してみるが、レベルを上げる方法については書かれていない。これはあまりにも不親切が過ぎる。

 サポート問い合わせやヘルプの項目が無いか探してみたけれど、それも見つからない。どうしたものか。

「そうだわ。このスキルを与えてくれたのは神様なんだから、お願いしてみましょうか」

 聞き届けてくれるかは分からないが、ものは試しだ。その場に膝をつき、手を組んでお祈りの格好をする。

「天におわします我らが神よ、聞こえているでしょうか。この素晴らしい能力を授けて下さり心から感謝致します。神の溢れんばかりの慈愛を感じ、感無量です。加えての要求になってしまい大変心苦しく思うのですが、どうかステータス機能を改善頂けないでしょうか? 人如きでは神の深いお考えを理解出来ず、忸怩たる思いでいっぱいなのです。この愚かなる人間の願いを聞き届けて頂けないでしょうか。どうかよろしくお願い致します」

 これが本当の神頼みである。聞き入れてもらえるかどうかは分からないが、何もやらずに文句を言うよりはご意見ご要望をちゃんと送ったほうがお互いのためになると思うので。

「……まあ、やらないよりはマシよね。そうだ、お風呂が沸いてるんだった」

 食器を洗って片付け、鼻歌交じりに浴室へと向かう。久しぶりに湯船に浸かれる、前世が日本人で本当に良かった。

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