新たなスキル
前回までのあらすじ。
シーナを救うと創世神一行に大見得を切ったら、このままだと国が滅ぶという重大なネタバレをくらったのであった。
えぇ……という気持ちで創世神一行を眺めていると、御付きが再び大仰に語り出す。
「しかしご安心下さい、我々が出来る限り力になると言ったはずです。創世神様より新たなスキルをリアーナ様に授けましょう」
「まあ、新たなスキルを頂けるんですか!」
それは素直に嬉しい。困惑気味だったリアーナの顔が途端に明るくなる。
今持っているスキルも十分過ぎるほどに便利だ。正直もうこのスキル無しでは生きていけないのだが、どちらかと言えば生活に特化したスキルであり戦闘向きとは言えない。緊急回避の手段として使うなら有用かもしれないが。
国が滅ぶというのなら、今後それなりに身の危険もあるだろう。であれば、対抗する手段があると大変心強い。
これはもしかしたら、魔法が使えるようになったりするのかしら。なんて、少し胸を躍らせてしまう。
バリバリの前衛スキルも格好良いし冒険者の花形だけれど、リアーナは前衛向きの性格ではない。何より、前世では世界中でも治安の良さが抜きん出ている国に暮らしていた。犯罪とは無縁の暮らしをしていたし、人や動物の命を奪うなんてとてもとても。まあ、害虫は駆除していたがそれはそれとして。
「それで、どんなスキルを頂けるのでしょうか?」
浮き立つ気持ちのままに尋ねれば、相変わらずビッカビカに輝く創世神が何やら御付きに伝えている。心得たとばかりに頷き、リアーナに向き直った。
「創世神様よりリアーナ様に授けるスキルは二つ。『ストレージ』と『アナライズ』です」
「ストレージにアナライズ」
どちらも前世で聞いたことのある言葉だ。特にストレージの方はどんな能力か語感で察する。二つ目についても、ゲーム中でアイテム名だったりキャラがスキルとして使っていたりしたためこちらもどんな能力なのか検討をつける。
「収納に鑑定、でしょうか?」
「御名答。流石です」
自分の予想が当たっていたことに内心ガッツポーズを決める。どちらも魔法系統のスキルであり、異世界転生お馴染みの超便利二大スキルだ。攻撃系のスキルではないものの、今後大いに役立つのは間違いない。
貴族は時として毒を使用することも前世の異世界転生モノで履修済み。逐一銀製の物を用意するのは大変なので、正直これはとても助かる。
収納スキルについても、恐らくこの世界で入手した物や通販で購入した物を自由に出し入れ出来るようになるのだろう。ホームで自室を経由しなくて済むのでこちらも大変有り難い。
部屋に物が増えてきていたので、通販機能が解放された際に追加されていた、部屋の増設機能を利用するべきか悩んでいたところだ。勿論その機能もしっかり有料だったので先送りにしていたのだが、どうやら正解だったらしい。
「どちらも大変便利なスキルですね、創世神様のお心遣いに感謝致します」
流石最推し神、ぐう有能。圧倒的感謝。
なんて考えていたら創世神の輝きが強まった。リアーナの信仰心が強まると創世神が光り輝くとは聞いていたが、いざ目の当たりにすると中々の迫力である。
最早目潰しとして使えるレベル。サングラスが欲しいくらいだ。
「創世神様、光の強さを抑えて頂けると。リアーナ様が眩しそうです」
「あ、その光って調節可能ですのね」
御付きからの指摘に光の強さが弱まる。抑えても尚眩しいので、最大はこんなものではないのだろう。怖いもの見たさで一度最大の眩しさを知りたい気持ちも過ぎったが、リアルに目がぁっ! となりそうなのでやめておいた。閃光弾並みの光を受けるのは目への負担もリスクも高過ぎる。
「さて、あまり長居をするとこの世界への過度な干渉と見做されてペナルティを受けかねません。我々はそろそろ御暇させて頂きます」
「――――」
「創世神様も『今日はとても楽しかった、ありがとう』と仰っております」
「もうお帰りになるんですの? 私ばかり頂いてばかりで申し訳ないですわ」
「――――」
「創世神様が『異世界転生者は、この世界にとって大きな変化をもたらす存在。気にかけるのは当然のこと。それに、君のおかげで随分と力が強まった。これはその御礼だから気にしないで』と申しております」
「創世神様……」
こんなにも器の大きい神を信仰せずして、誰を信仰しろと言うのか。リアーナの中で創世神の株が上がり続け、止まることを知らない。
また創世神の光が強くなったが、今度は御付きが指摘する前に調節された。気遣いまでバッチリとは完璧過ぎるのではないだろうか。
「いつか、創世神様の真の御姿を拝見させて頂きたいです。恐れ多いお願いかもしれませんが」
「――――」
「創世神様が『いいよ、ちょっと待ってね』と仰っています」
「えっ、そんな軽いノリでお願いを聞いて下さるんです?」
あまりにもフランク過ぎて逆にこちらが心配になってしまう。これが母性……? と戸惑いのあまり斜め上のことを考えていると、光の集合体の中から徐々にシルエットが浮かび上がってくる。
「――――」
「創世神様が『どう? ちゃんと見えてるかな?』と仰っています」
「びっ!」
「リアーナ様?」
変な鳴き声を上げてしまった。創世神一行が心配そうにこちらを見ているのに、言葉が出てこない。
御付きもこの世のものざる美しさを持っていたが、創世神はそれ以上だった。本当に美しいものを見ると人は言葉が出てこなくなると言うが、どうやら本当らしい。
そういえば前世では一部に熱狂的な支持を受けていた邪神達も美し過ぎて顔面が発光するとか、発狂するレベルの美しさだとか聞いたことがある。そちらも本当なのかもしれない。
「す、すみません、言葉を失っておりました。その、創世神様が美し過ぎて」
不覚にも惚けてしまった。我に返って慌てて言葉を返す。
リアーナも美人の部類に入るが、創世神一行はそのレベルではない。まさに天と地の差。比べるのすら烏滸がましい。
「――――」
「創世神様が『嬉しい、ありがとう。君も綺麗だよ』と仰っています」
「ひえっ!」
創世神スマイルがもろに直撃する。あまりにも神々しくてその場に跪きたくなるが、そこは鋼の精神でぐっと耐えた。目の前で突然そんなことをしたら確実に困らせてしまう。
「……っと、これ以上は本当にいけませんね。創世神様、参りましょう」
「――――」
「創世神様が『また一緒にラーメン食べようね』と仰っております」
「ええ、是非。次は四つ用意して頂ければ御付きの方の分も作りますわ」
「お心遣い、痛み入ります。それでは」
リアーナが瞬きをする。次の瞬間には創世神一行が消え去っていた。
「……凄い時間だったわね」
恐らく創世神一行が滞在していた時間はそこまで長くない。なのに疲労を感じるのは、とても濃くて重い時間だったからなのだろう。
「スキルの確認に、あの男への協力要請。やることが沢山ある」
やるべきことが山積みなのは分かっているのに、未だ眠っているシーナの隣に寝転ぶ。安らかな寝顔を見ていたらこちらまで眠くなってきた。
「思考が上手く纏まらないし、一度寝ましょう。それで目が覚めたら、スキルの確認をして、それから……」
段々と重くなっていく瞼を閉じると、途端に眠気が襲ってくる。飽和していく意識を手放せば、そこからはあっという間だった。
それから少しして、室内に規則的な寝息が二人分響く。並んで眠る二人の姿は、大人になりきる前の少女そのものだった。
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