三つの世界
「もう二つの世界?」
思わず聞き返すと、御付きが神妙な様子で頷く。
「ええ。貴女は元々、別の世界にも存在していたのです」
「前世のことですか?」
「いいえ、田中恵子とリアーナ・ストラーダは別の存在です」
ここまではっきり否定されるとは思わなかった。今世の自分はあくまでも前世の記憶を持つリアーナ、ということか。
「本来、貴女が迎えるべき結末は別にありました。創世神様が観測した限りでは、リアーナ様が存在する世界は三つ有るのです。ここでは分かりやすく平行世界、と呼びましょう」
「平行世界」
そう例えられると途端に納得してしまった。前世のゲーム知識に感謝である。
「ご理解頂けたようで何よりです。
三つ存在する世界の一つは、貴女の知る本来のリアーナ様がカルロス・イギオンと結ばれる世界。
もう一つが前世の記憶を取り戻したリアーナ様が何も行動を起こさず、侍女のシーナ・クリストフが断罪されたのちそのままカルロス・イギオンと離縁する世界。
そして、最後の一つがこの世界なのです」
「……シーナが断罪される世界が、もう一つあるのですか?」
記憶を取り戻したのに何も行動しなかったなんて、別の世界のリアーナはどうやって毎日を過ごしていたのだろう。
その世界のシーナはその後どうなったのか。考えた所でどうすることも出来ないのに、勝手に想像して胸を痛めた。
彼女に肩入れし過ぎている。勿論自覚はあるけれど、この世界で唯一心を開いて接することの出来る存在だ。気にしないほうが難しい。
「貴女が何も行動を起こさなければ、本来はこの結末を迎えるはずでした。しかし貴女がシーナルートを解放したことで分岐点が生じ、この世界が生まれたのです」
「まさか、あの時のフラグがそこまで重要だったなんて」
あのフラグが切っ掛けで世界が新しく生まれるなんて、誰が予想出来ただろう。少なくともリアーナには出来なかった。ほんの軽い気持ちでシーナにおもしれー女をやっただけなのに。
これがバタフライエフェクト、なんて考えていると御付きが話を続ける。
「貴女のスキルも本来、ここまで強いものではありませんでした。しかし貴女がシーナルートを解放した時、シーナ・クリストフとリアーナ・ストラーダの運命が深く絡み合ってしまった。
更にシーナ・クリストフを取り巻く因果から彼女を救い出すと決意したことで、貴女の持つ力が強まった。そうですね、分かりやすく例えるなら主人公力、とでも言いましょうか。
力の高まった貴女が創世神様を崇拝することにより、比例して創世神様の力も強まった。突然創世神様が光り輝くようになったのもそれが原因です。その結果、創世神様が貴女に授けたスキルも飛躍的に強くなったのです」
「……ごめんなさい、丁寧に説明してもらったのに何がなんだか」
特に光り輝くの辺りが未だに理解出来ない。どういった原理なのだろうか。
「構いませんよ、突然説明されても理解の及ばないことでしょう。しかしこれはあくまで前提の話、本題はここからです」
「本題?」
この時点で既に理解が追いつかないのに、まだ続きがあるというのか。
そう言いたげなリアーナを見ても、御付きが話を止める様子はない。
「創世神様の力が高まり、本来なら知ることのなかった平行世界を観測出来るようになりました。断片的にですが、未来も同様に。その上で分かったことを貴女に伝えるため、創世神様はここへ来たのです」
「分かったこと、ですか」
「ええ、どうか心してお聞き下さい」
「本来の世界からこの世界は既に大きく逸れてしまっている。この先起こることは未知数であり、どのような結末を迎えるか分からない。
けれど断片的に観測した未来では、近々シーナ・クリストフに大きく関わる分岐点が訪れる。これは本来起こり得なかった、シーナ・クリストフの因果に纏わる分岐。
この分岐点にはカルロス・イギオンも大きく関わっており、彼の力が必要になるだろう」
「……あの男の力が必要になる?」
即座に拒絶反応が出た。けれど、協力してもらわなければならない程の何かが起こると言うのなら、覚悟を決めなければいけないのかもしれない。
シーナの幼馴染であることが関係しているのだろうか。この間の執事の発言といい、気になることが多過ぎる。
「あの男の力を借りれば、シーナを救えるのですね?」
「――――」
「創世神様が『それは分からない、ごめんね』と申しております。そもそも、創世神様も断片的な未来しか観測出来ていません。貴女の行動次第で未来は如何様にでも変わるのです」
リアーナの行動次第、という言葉に瞑目する。
自分の行動が原作から大きく逸れた頃から、いつかその影響が起こるのではないかと思っていた。
ついにその時が来てしまった、ということなのだろう。
「何故自分が、という気持ちもあります。きっと貴方が仰っていた主人公力、というものが大きく関わっているのですね。
良いでしょう、受けて立ちます。シーナを救うと決めた時から腹は括っておりますわ」
正直、大見得を切ってしまったと少し後悔している気持ちもある。それでも引いてはいけない時がある、今がまさにその時なのだ。
「その心意気、確かに受け取りました。創世神様も私も出来る限り力になりましょう。私共としましても、この国が滅びてしまうのは看過出来ません」
「今なんと?」
「その心意気、確かに受け取りましたと言いましたが」
「いえ、もっと後の」
「私共としましても、この国が滅びてしまうのは看過出来ませんと言いましたね」
「……えっ、この国滅びますの?」
「はい、このままだと滅びます」
当然のように頷かれてしまった。どうやら聞き間違いではないようだ。
身の破滅どころか国が滅びるとは、影響が大き過ぎないだろうか。その責任が肩に重く伸し掛かるのを感じ、言葉もなく立ち尽くした。
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