年の暮れ
窓の向こうに聳え立つ山と街並みはすっかり雪化粧に染まっており、現在も領地内ではしんしんと雪が降っている。最初は初雪だとテンションが上がったものの、今ではまたか……という気持ちにしかならない。
街の市場は畳まれ、屋台も店先で温かい物を売る程度に留まっている。春になれば芽吹きの季節を祝う祭りが行われ、領地内も結構な盛り上がりになるとのことなので情報収集は春までお預けになりそうだ。
暇を持て余して作った雪うさぎをあの男が居ない隙に書斎に置いていったりもしたが、特にこれといった反応は無い。
後日こっそり見に行ったら窓の外に置いてあったので、一匹では寂しかろうと量産しておいた。執事が躍起になって犯人探しをしていたが、当然名乗り出る者は誰も居なかった。
一時期疑わしげにこちらを見てきたりもしたが、素知らぬ顔をしたので事件は迷宮入りである。
「そういえば、前世で雪を色々な形に出来る玩具が売ってたわよね」
シーナと一緒に量産して屋敷の入口前にでも並べようかと商品一覧を眺めてみれば、様々な型が売られていた。
中には小学生が大好きなとぐろを巻くあの形もあったが、流石に今度こそ本腰を入れて犯人探しが行われそうなので無難に雪玉を量産する玩具にした。大小それぞれ一つ買い、近々屋敷の敷地内に雪だるまを大量生産する予定だ。
「今日は屋敷内が騒がしいわね」
今日も今日とて二人でしょんぼりとした顔でドアマットアピールをしながら屋敷を練り歩いていると、慌ただしく使用人達が掃除だ片付けだと動き回っている。
「もうすぐ一年の終わりですからね、一年分の溜まった汚れを落として新しい年を迎えるのがこの辺りの仕来りなのです」
「へえ、こっちにも同じような風習があるのね」
この世界の時の流れは前世の世界と同じらしい。一年は三百六十五日で、一日は二十四時間だ。日本も今頃は年末に向けて街が飾り付けられ、店頭にはクリスマスや年越しの商品が並んでいるのだろう。
前世でも年末になると大掃除だなんだとやっていた記憶がある。クリスマスも終わり頃に投げ売りされたホールケーキを買ってそのおこぼれにあずかったりもしていたが、当然この世界にはクリスマスというものは存在していない。
そういえばこの世界の神様の生誕祭もあるのかと聞いてみれば、領地内でそういった行事はないようだ。雪国であることを活かしてスキーやクリスマスマーケット的なものをやれば観光地として集客も見込めるだろうに、なんとも勿体無い。
よくよく考えれば神様の誕生日が冬ではなかった場合や、スキーもチェアリフトを作るだけの技術がこの世界にあるかも分からないので難しいかと思い直す。
「屋根裏部屋もあの部屋も掃除は必要無さそうだし、私達には無縁の仕来りね」
「何か手伝うべきでしょうか」
「今は私の専属侍女だし、これまで散々業務を押し付けられていたんでしょう? 今年からは二人で美味しいものを食べてゆっくり過ごしましょう」
「お姉様と居ると、どんどん悪い子になりそうです」
「何言ってるの、シーナは今までが良い子過ぎたのよ。今後は二人で立派な悪い女になりましょうね」
「はい、頑張って悪い女になります」
シーナの屈託のない笑顔に目を細める。前までは後ろめたさもあったのか控えめな笑みだったが、最近はこうやって自然な笑顔が見られるようになってきた。
どうせ屋敷を出るのだ、どう思われようと気にするだけ無駄というもの。自分を嫌っている相手にわざわざ歩み寄る必要もない。
「今日も寒いわね、そろそろ戻って鬼太郎電鉄でもやりましょうか」
「私はいただきロードをやりたいです」
「いいわね、マップと目標金額はどうする?」
「勿論一番広いマップで、目標金額も高めでやりましょう。この間はタッチの差で負けましたが次は負けません」
「ふふ、今回も華麗に勝たせてもらうわ」
すれ違った執事が何か言いたげな顔をしてこちらを見ていたが、女主人として扱ってくれないのはそっちだ。
相変わらず使用人の態度は最悪だし、あの男とも話にならない。支度金も貰っていないのだし、役目を果たす義務も義理も無い。
ああでも、シーナを専属侍女として付けてくれたことだけは感謝しよう。
「……まあ、厨房にこっそり焼き菓子を置いておくくらいは良いかもね」
「お姉様、何か言いましたか?」
「いいえ、何も」
折角だからシーナと二人で何か作ろうか。この季節らしく、ジンジャークッキーなんてどうだろう。
心優しいシーナのことだ、サンタの話をしたらきっと目を輝かせて一緒にお菓子のラッピングも手伝ってくれるに違いない。
「この忙しい時期に呑気に屋敷を散歩とは、良い御身分だな」
「…………」
出会い頭に嫌味である。心に芽生えた優しい気持ちが秒で枯れていくのを感じた。
前言撤回だ、あの男の分は庭の石でも詰めてやろう。
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