抗えないもの
最初こそ赤の他人と毎日一緒なのはと少し不安だったけれど、それも杞憂に終わった。
気を許した相手と過ごすのは案外楽しく、すっかり前世のオーバーテクノロジーな生活に慣れたシーナはもうこれ無しじゃ生きていけません! と炬燵にしがみついている。
シーナの気持ちはとても分かる。炬燵は前世でも一度入ったら出られないと言われるほどの吸引力だった。
特に冬場なんてもう、一度足を入れたら最後。気づけば手の届く位置にリモコンやら何やらが置かれ、少しうたた寝なんてしようものなら気づけば朝……なんてこともしばしば。
チート部屋らしく室温は一定なのだけれど、エアコンで部屋の温度自体が変えられるので暑くも寒くも出来てしまう。
今のイギオン領の季節は冬。
雪がちらつくまではいかないものの、ここにやって来た時よりも気温はぐっと下がり、吐き出す息も白い。屋敷内は外に比べればマシだけれど、それでも寒いものは寒い。
常にぬくぬく常夏のような室温に出来なくもないけれど、外に出た時の寒暖差で体調を崩したくないので、室温も季節に合わせて少し低めにしている。それに、前世知識からヒートショックという単語がちらつくので。
常備薬はあるけれど、血圧由来のものは素人では対処出来ない。医療従事者でも咄嗟の対応は難しいだろう。
この世界の医療水準がどのくらいなのか分からない以上、やはり体調は万全で過ごしたい。何をするにしても元気が一番だ。
「さて、そろそろ準備しないとね」
「そうですね」
そう言いながら二人で温かい蕎麦茶を啜る。
シーナ愛用のマグカップには猫のイラストがプリントされている。元々食器類は一人分しかなかったため、先日ついに解放された通販で購入したものだ。
他にも必要な寝具やら何やらも購入し、二人暮らしの生活基盤が徐々に整いつつある。通販機能様々である。
試したところ、通販で購入した物はどうやら部屋の外に持ち出せることが判明した。スキルのレベルが上がったからだろうかと元々部屋にある物でも試したけれど、そちらは相変わらず持ち出せなかった。
部屋から持ち出せる基準は購入した物かそうでないか。実に分かりやすくていい。
シンプルかつ使いやすいスキルに追加機能、本当に完璧過ぎる。この世界の神様が有能過ぎて信仰心が天井知らず。もう一生推すしかない。
それにこの通販機能があれば、通販で安く仕入れてこの世界で物を売ることもできそうだ。
足がつくと困るので一箇所に留まってやるのはとても危ないけれど、この屋敷を出たら各地を旅して回る予定なので適度にやるのもいいだろう。
確か、前世でも昔は胡椒が金や銀と同等の価値で取引されていたはずだ。この世界でも香辛料が貴重なら、それも可能だろうか。
「……炬燵、温かいわね」
「そうですね」
まるで臀部に根が張ったかのように炬燵から動けない。もう一度、二人で蕎麦茶を啜った。
「そうだ、異世界ドラマの続きでも見ない?」
「良いですね、そうしましょう。惹かれ合っていたカズヤとハルミが実は生き別れの双子だと思ったらそうじゃなかった、という所で話が終わりましたもんね」
「まさかの展開よね、ハルミが赤ん坊の頃に病院で取り違えられていたなんて。そして恋のライバルであるアカリこそがカズヤの双子の妹なんて予想外過ぎるわよ」
ドラマを観る前に、残り少しだった蕎麦茶を飲み干した。もう一度淹れ直すためにシーナが立ち上がる。リアーナも炬燵のお供であるみかんを用意する為に炬燵を出た。
先程までの様子が嘘のように二人はいそいそとドラマ鑑賞の準備を始める。人はやりたくない事を放棄した瞬間、途端にフットワークが軽くなるのだ。
炬燵にみかんをセット。そして淹れ直した蕎麦茶をそれぞれの前に置き、再び炬燵へと潜り込む。
炬燵と言えばみかん、最早日本人の言わずと知れたニコイチコンビ。更に、その後には冷凍庫にアイスも控えている。炬燵の定番ツートップの構え。
みかんを剥きながらテレビをつければ、後はもう二人はドラマの世界に浸るだけである。
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