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【連載版】いつの間にか溺愛されてましたとは言うけれど。  作者: 江入 杏


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情報収集

 イギオン領は国の辺境に面しているだけあって、その地は広大である。シーナの話では二年前からはクリストフ領の管理もしており、ますます忙しいだろう。

 屋敷から見える標高の高い山の向こうには隣国があり、今は国同士友好的な関係を築いているけれどいつ何があってもおかしくはない。

 又、山から降りてきた動物による獣害があるため、領地内には兵士が至る所に立っている。街の中に兵舎もあるらしく、この街の犯罪率は低いようだ。領主であるあの男がこの街に居ることも要因の一つだろう。

 この街は領地内において中心地であり、一番栄えているようだ。下町には市場があり、活気で溢れている。

「原作知識から分かる情報はこのくらいかしら」

 追加で分かっているのはクリストフ領も管理していることくらいか。名産品や観光地は特にないようで、集客面で盛り上がりに欠けるのが現状といったところか。

 確か、原作だとリアーナの知識で名産品が作られ観光地も新たに出来上がる。動物から毛皮も作られていて、ファッション面でもリアーナが一役買っていた記憶がある。

 こうして思い返すとリアーナの手腕が凄過ぎる。転生者ではないにも関わらず、知識と見る目がプロのそれだ。

 元々実家で当主となるために色々学んでいたのだから当然と言えば当然かもしれないけれど、下手をしたらあの男よりよっぽど仕事が出来るのではないだろうか。

 何気にハイスペックで容姿も良いときた、これが男だったらさぞモテたことだろう。

「……ある意味、性別のせいで完全に割を食ってしまった感じね」

 リアーナが長男だったら全て丸く収まっていた可能性すら有る。というかロマンス小説のヒーローにもなれたのではないだろうか。

「記憶を取り戻す前のリアーナが優秀過ぎて、今の自分が残念に感じてしまうわ」

 いくら嘆いても今の自分でどうにかやっていくしかない。まあ、あの男の利になることをするのはお断りだが。じゃないと目を付けられてフラグが立つかもしれない。それだけは絶対に避けなければ。

「お姉様、問題なく着れましたか?」

「ええ、サイズもばっちりよ」

「それなら良かったです」

 シーナに頼んで用意してもらったお仕着せ姿で屋根裏部屋から出る。髪は自分でやるのは難しかったので、頼んでセットしてもらった。

「これなら誰にも怪しまれずに屋敷を抜け出せそうね」

「そうですね。でも、なんだか悪い事をしているみたいでドキドキしてきました」

「別に悪い事じゃないわよ。だって肩書は辺境伯夫人だもの、領主の妻が領地内を見て回るのは当然のことだわ」

 そう言ってふふんと胸を張ると、シーナが楽しそうにくすくすと笑う。いい笑顔だ、今後もこうやって笑う顔が増えるといい。

「じゃあ下町に行きましょうか。道は分かる?」

「はい、時々足りない物を買いに行っていたので道はちゃんと覚えています」

「それは何よりだわ。下町に着いたら市場も見て回りましょう、ちょっと調べたいこともあるから」

 隣国に面しているなら、隣国に関する情報も得られるかもしれない。良さげな国だったら離縁後の次の目的地の候補に入れてもいいだろう。


 難なく屋敷を抜け出し、シーナの案内で下町の市場に着いた。あまりにもあっさり過ぎて拍子抜けする。

 普通、屋敷に見慣れない使用人が居たら不審に思わないのだろうか。好都合だが、離縁するまであの屋敷で暮らしていく身としては少し不安になる。この街の犯罪率が低いことがせめてもの救いか。

 下町の市場は賑わっていて、様々な人が行き交っている。まずは旅装に出来そうなマントや鞄、衣服を物色した。離縁後の備えだ。

 自前の服は質素なドレスとはいえ、平民の物に比べたら質は高い。良いとこの婦人に見られて悪い輩に目をつけられたら困るので、屋敷を出たら基本的に着ることはないだろう。

 女だというだけで一人旅は何かと危ないし、出来るだけ性別が分からないような色味とデザインの服を選んだ。荷物になってしまったので、後で自室に置きに行かなければ。

「すみません、お姉様。お姉様が着替えている時に用事を言いつけられていたので、少し行ってきます」

「分かったわ、市場に居るから終わったら声をかけて。気をつけてね」

「はい、お姉様も」

 用足しのため、シーナとは一旦別行動になる。

 その間に古本屋を見て回り、隣国から来たと思わしき領民の衣服と少し違う服装の行商人から話を聞く。

 魔法に関する書籍は古本屋に置いてなかったものの、行商人から興味深い話を聞けた。

「つまり、隣国にも魔法は無いけど海の向こうにある大陸にはあるかもしれないってこと?」

「ああ、海の向こうから来たっていう行商人からそんな話を聞いたよ。この辺りじゃ見ないような不思議な物も取り扱っててね、まあ目玉が飛び出るような値段だったから手は出せなかったが」

 不思議な物とは、魔道具だろうか。それがあれば魔法が使えるのだろうか。

 あまり根掘り葉掘り聞いて怪しまれると困るので、御礼としてそこで取り扱っている商品を購入してその場を離れた。

 やはり他国になら魔法がある。それが分かっただけでも大きな進展だ。

「それにしても、魔法が使える条件って一体何なのかしら。生まれ持ってのもの? 土地特有のもの? それとも魔法が使える国は土台からして使えない国と違うのかしら」

 使えるなら使ってみたい、と思ってしまうのは前世の記憶の影響か。これぞ異世界! というものを目の当たりにするとテンションが上がるのも仕方ない。

 魔法に関して有益な情報を得たので、後はあの男に関する情報収集といこう。とりあえず市場から離れることは出来ないので、一旦シーナを待つべきか。

「食べ慣れた味が一番だけれど、やっぱり屋台から香ってくる良い匂いにはぐっときちゃうのよね。お昼は買い食いも良いかしら」

 昼時が近いため、混雑してきた屋台の通りを眺める。肉の焼ける香ばしい匂いが空腹を刺激して、ついそちらに視線がいってしまう。

 少ししてシーナと合流出来たため、早速二人で屋台の食べ歩きをした。もう一つの目的を忘れてしまったことに気づいたのは、帰路に着いた時だった。

 期限まで時間もあることだし、後日ちゃんとすればセーフ。

 誰にでもなくそんな言い訳をしながら屋敷に戻るのだった。

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