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陰陽師はナポリタンがお好き  作者: 山いい奈
1章 名も無きカフェについて
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1章第6話 羽菜のお役目

 阪堺(はんんかい)電車の東天下茶屋(ひがしてんがちゃや)駅が最寄りになる、安倍晴明(あべのせいめい)神社、本殿のその奥。そこが陰陽師たちの修行の場となっている。


 安倍晴明の血筋の赤子が誕生すると、まだ0歳のうちに、陰陽師の能力の有無を裁定される。この力は大小の違いはあれど生まれながらに備わっているものなのだ。修行をしたら発現するなどの類のものでは無いのである。


 羽菜(はな)が運営するカフェもそうなのだが、能力が少しでも無いと、その空間に立ち入ることすらできない。弾かれてしまうのだ。


 安倍晴明の血を受け継いでいても、能力を有するとは限らない。実際、羽菜の場合は父方がその血筋なのだが、お父さんに陰陽師の能力はかけらも無かった。そんなお父さんは今は普通のサラリーマンである。


 陰陽師の能力を持つ大人が赤子を抱き、本殿の左脇から奥へと向かう。向かって右側は神社の裏口につながっているのだが、左側はすぐに突き当たりになっている。そこへ「入る」ことができたらその赤子にも能力があるということ。入れなければ無いという、シンプルな理屈なのだ。


 力の大小を測るのはその後の話なのだが、そうしてある程度大きくなれば、修行が始まる。


 とはいえ強制では無い。やはりその人の人生はその人のもので、陰陽師以外にやりたいこと、なりたいものがあれば、そちらに行くことを阻みはしない。中には陰陽師を副業と捉えて、他のお仕事をしている人もいる。もちろん陰陽師専業の人もいる。三津谷(みつや)さんと渡辺(わたなべ)さん、八木(やぎ)さんは専業だ。だから大阪府の政に関わっている。


 ちなみに、安倍晴明の血筋であることは秘密でもなんでも無い。日常会話に普通に出てくる。お父さんも自然と口に出していたし、安倍晴明と縁の無いお母さんも知っている。羽菜に能力があったことを特別視するわけでも無い。


 能力があった子の大部分は、小学生になったころに修行を始める。不思議なもので、その血筋たるゆえんなのか、嫌がる子はほとんどいないのだ。みんな陰陽師の自覚を持ち、厳しいことがあっても耐え抜くのである。


 羽菜もそうだった。粛々と修行に向き合ってきた。だが羽菜はそのほとんどをこなすことができなかった。能力が低かったのだ。


 そのことが判明したとき、指導係の大人の陰陽師から早々にはっきりと言われた。羽菜は将来、陰陽師としてのお仕事をするのは難しいと。


 ショックだった。この修行の場に入れる力があるのに、生業とするには弱いのだ。だから修行をしても乗り越えることができなかった。


 それでも、力がある限り、そして関わる限り、陰陽道で何ができるのかの知識は取り入れなければならないのだ。


 羽菜は何の達成感も得られないまま、修行に打ち込むしか無かった。良く性根が曲がったり性格が歪んだりしなかったなと思う。一緒に修行をしている子たちと仲が良かったのが幸いしたのかも知れない。みんな能力の低い羽菜を蔑んだりしなかった。対等に接してくれたのだ。


 指導係にはこう言われていた。陰陽師のお仕事はできないが、陰陽師たちをサポートするという大切なお役目があると。


 それが、カフェの運営なのだった。羽菜の様な落ちこぼれは何人かにひとりはいて、そのほとんどは陰陽道に関わらない将来を選んだりするそうだが、羽菜は意地になって続けていた。頑なだったのだろう。当時、他にやりたいことなどが無かったことも作用した。


 カフェの運営を担う様になった今、陰陽師たちと触れ合いつつ、清明お祖父ちゃんにナポリタンを作るこんな生活も悪く無いと思っている。




 このカフェは安倍晴明ゆかりの陰陽師たちのためのものなのだが、ときおり普通の人間が迷い込んでくることがある。


 普通の人間、というのは語弊があるかも知れない。その人たちも陰陽師の血を引いているのだ。陰陽師は安倍晴明だけでは無い。その時代には何人もいて、政に関わってきた。


 陰陽師としての能力があるのに、そうと知らずに過ごしている人は大勢いる。そんな人たちの中で、悩みを持ったりしている人がふらりと訪れるのだ。


 そんなとき、羽菜や清明お祖父ちゃんができることは、温かなお食事やドリンクを提供して、お話を聞くことぐらいである。何とも無力だと思うが、話すだけで心が軽くなる様で、みんな来たときとは打って変わって晴れやかな表情で帰っていく。


 結局、人は悩みながらも実は結果は出ていて、背中を押す存在や、考えを整理する話し相手を必要としているのだな、と感じるのだ。


 そう思うと、これも陰陽師をサポートする者のお役目のひとつなのかな、となるのである。


 羽菜は今日も粛々と、それを果たすのだ。

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