清明お祖父ちゃんとナポリタンの出会い
日本発祥のケチャップ炒めのナポリタンスパゲティ。戦後、神奈川県横浜の洋食レストラン「センターグリル」さんで、進駐軍のアメリカ兵がスパゲティにトマトケチャップを掛けて食べていたことを発想に作られたらしい。
実はその前に、同じ横浜のホテルでトマトソースのナポリタンが作られているのだが、それは今は省略するとして。
清明お祖父ちゃんが神霊としてこの世に蘇ったのも、戦後から数年後のことである。安倍晴明ゆかりのいくつもの神社が整い、何年もの月日を経て、清明お祖父ちゃんは姿を取れる様になったのである。
当時、清明お祖父ちゃんは自分が祀られている神社を渡り歩いていた。大阪、京都、名古屋など、その場所は多岐にわたる。
「あのころは、暇なんか忙しいんか、よう分からんかったわ。当時は京都のですらそこまで人が多いわけや無かったし、でも参拝客の願いは伝わる。けどなぁ、どの神さんでもそうやけど、願いを叶えるっちゅうよりかは、後押しちゅうか見守るっちゅうか、そういう存在や。でも願いを聞いたら叶えたらなって思ってまう。わしも当時は未熟やったわ」
清明お祖父ちゃんはそんなことを言いながら、懐かしげに目を細める。
「ま、正直言うて、努力のひとつもせんやつの願いを叶えたろうとは思わんけどな。ろくに練習もせんのに勝ちたいとか何々になりたいとかな。そんなん天から降って沸いてくるわけ無いやろ。幸運、強運ちゅうんは自分で勝ち取るもんや。何や、例えば実家が金持ちやらなんやらで自分の思うがままにできてるっちゅうやつがおっても、そんなんはたいがい井の中の蛙や。近いうちにしっぺ返し食うもんや。積み重ねるからこそ運が上向く。そういう人やからこそ、神さんも後押ししたくなるんや」
辛辣とも言える清明お祖父ちゃんのせりふだが、その通りなのだろうなと羽菜も思う。実際に、頑張っている人は報われて欲しいと思うのが人情というものだ。
そうしてお祖父ちゃんは参拝者の人となりを見ながら、年月を過ごしていたのだが。
それは、大阪の安倍晴明神社にいたときのことだった。境内は無人で、賽銭箱にどっかりと腰を掛けてぼんやりしていると、ひとりの参拝客がやってきた。その人は中年の女性だったそうだ。その女性は普通の人間なので、清明お祖父ちゃんの姿は見えないはずである。なのに。
「ちょ、あんたさん、そんなとこに座ってたら罰当たりや無いの!」
そう咎めたというのだ。それが清明お祖父ちゃんと、お祖父ちゃんの子孫である何代か下の孫との出会いだった。
清明お祖父ちゃんは女性にことの次第を説明した。するとやはり孫娘、すんなりと信じてくれたそうだ。血のなせる技だろう。
それから女性の親族できうる限りに清明お祖父ちゃんを会わせ、今の陰陽師たちのあり方の土台となったのだ。
今のカフェの前身、当時でいうところの喫茶店を運営する様になったのは、その数年後。一般人には見えず入れないその建物は、清明お祖父ちゃんの陰陽術で成り立っている。
力を持って生まれた子孫たちが大阪の安倍晴明神社で修行を始め、それまで大阪府政に協力していた占い師たちと交代したのはさらに数年後。そして、今に至る。
当時の喫茶店は、最初はドリンクだけの提供だったそうだ。だがお腹を空かせて来店する陰陽師たちもいて、当時の運営者がありもので作ったのがナポリタンだったのだ。
今や清明お祖父ちゃんお気に入りのナポリタンだが、実は当時の運営者の好物で、まかないにしようと材料を用意していたのだった。
それを羨ましがった清明お祖父ちゃんも作ってもらった。するとトマトケチャップのパンチに魅了されたのだ。平安時代には無かった味だった。ケチャップがアメリカから日本に伝わったのは明治時代のことである。
それから、ナポリタンは喫茶店の定番メニューになり、他の軽食も少しずつ増えて行ったのだった。
「せやからわしは、代々の運営者が作るナポリタンを食べてきた。言うても戦後からやからそんな作り手が多かったわけや無いけどな。おもろいもんやな、年々旨くなるんや。作り手の技術向上もあるんやろうけど、材料やら調味料やらも進化しとんやろうなぁ」
その通りである。昔は苦かったのに、今はそれが和らいでいるお野菜があったり、さらに甘くなっているお野菜があったり、調味料だってきっと美味しくなっている。農家さん、製造者さんの尽力の賜物だ。受け取り側である羽菜たちはそれをありがたいと思っている。
保存法だってそうだ。以前はお野菜ひとつ冷凍保存するにも、茹でるなどの手間がいった。だが今は葉物野菜でもカットだけで冷凍できるのが常識である。忙しい現代人が少しでもお手間抜きできる様に、いろいろな技が考えられている。羽菜も恩恵を受けている。
加熱するときはフライパンなどをしっかりと熱してから、というのも、選択肢のひとつになっている。素材を柔らかく仕上げるためのコールドスタートも広まっているのだ。根菜を火通しするのはお水からというのは変わらないが。
「せやから、今は羽菜のナポリタンがいちばん旨い。ここのお役目はまだしばらく羽菜やろ? これからも頼むで」
「うん」
これからも清明お祖父ちゃんや陰陽師たちに報いるためにも、美味しいナポリタン、そしてお食事を提供できる様に、羽菜にできることなら何でもしよう。あらためてそんな決意を固めるのだった。
最終話となります。ここまでご覧くださり、ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)




