第6話 力があっても無くても
どうして、自分はこんなにも無力なのだろうか。
羽菜の陰陽師としての力がまるで及ばないのは分かっている。けれど、せめて。
「……三津谷さん、渡辺さん、八木さん、今日は私のために、来てくれはったんですね。お仕事のあとやのに」
すると、3人が顔を見合わせる。少し困った様な表情に見えるのは気のせいだろうか。
「ま、ごはんのついで? おハナのナポリタン、食べたかったし」
「あたしも」
「俺も、ここのカレーはいつでも食べたいし」
3人が気遣ってくれていることが分かる。清明お祖父ちゃんへの恩や義理もあるだろうが、それでも疲れているであろうお仕事終わりにこうして来てくれる手間だってあったはずだ。
三津谷さんたちは確かにこのカフェに良く来てくれるが、それはそれぞれ自分の意思である。今回の様に呼び出されたりすることなんて、本来はほとんど無いのだから。
「ごめんなさい、私がせめて、自分の身を守れるぐらいの力があったら」
羽菜がしょんぼりとして言うと、3人は今度はきょとんとした顔を見合わせた。
「いやいやいや、これは羽菜ちゃんがどうこういう話や無いから。あたしひとりでも無理やから」
「そうそう、俺でも無理やわ。あんなばけもんふたりの間に入れられて、無事で済むわけあるかい」
「ボクでも無理やわ。せやからそんな気に病まんといて。それにな、おハナ」
三津谷さんは柔らかな笑顔で、羽菜の頭をそっと撫でてくれる。
「おハナはボクらの憩いの場を守ってくれてるやん。毎日綺麗にしてくれてさ、清明おじいの世話もしてくれてさ、ボクらには美味しいナポリタンやカレーを出してくれる。そんなおハナをボクらが守るんは当たり前や。むしろ清明おじいからLINE来たとき、よっしゃって思ったわ。ボクらの力もそこそこ当てにされてんねんなって」
三津谷さんの優しい表情。渡辺さんも八木さんも微笑んで、うんうんと頷いてくれる。本当にありがたい。そして誇らしい。羽菜のことをそんな風に思っていてくれていたなんて。
「せやから、おハナにはいつもの様に可愛く笑っててもらわな。ボクらの癒しなんやから」
そんなことを言われ、羽菜の目頭がじわりと熱くなる。心が暖かいもので満たされる。
羽菜なりに精一杯やってきたつもりだ。時には竹林さんに嫌味を言われ、でも優しい人たちに囲まれて、その人たちの憩ってもらいたいと。
羽菜の存在、行動にはちゃんと意味があったのだ。落ちこぼれであっても、ここにいて良いのだと。羽菜はちゃんとお役目を果たせている。そう言ってくれているのだ。
「ありがとうございます」
羽菜ははにかんだ。三津谷さんたちは微笑んだまま羽菜に頷いてくれた。
「羽菜は自分を過小評価しとんやわな。道満とは正反対や」
清明お祖父ちゃんのせりふで、羽菜はさっきのことを思い出す。
「清明お祖父ちゃん、あの、蘆屋さんは悪い人や無いと思う」
「分かっとる。悪いやつや無い。単に自尊心ちゅうか自己顕示欲ちゅうか、そういうのが強いんや。せやからこうして何年かごとにこんなことやらかす。道満が当時、今の加古川の陰陽師集団におったことは知ってるやろ」
「うん」
「あいつも実力者であるんは確かやから、そこでは間違い無く頂点やった。せやから自信満々で京に上がってきたはずや。それやのに、わしがおった。あいつのやることなすこと全て、わしへの対抗心や。せやからわしが負けたら満足して成仏もするんやろ。いうたかて、わしかて簡単に負けたりはせんけどな」
うん、羽菜も清明お祖父ちゃんが負けるところなんて見たく無い。清明お祖父ちゃんにはいつでもトップでいて欲しい。過度な期待なのかも知れないし、それが清明お祖父ちゃんのプレッシャーになるかも知れないから、決して言わないが。
「ほんまは相手をしたる義理も無いんや。でも一応弟子やったし、あのまま鬱憤溜め続けられて、よそで八つ当たりとかされてもたまったもんや無い。ま、これもわしの役目のひとつとして、やり過ごすまでや」
「清明祖父ちゃんやったら大丈夫やろ。そこはあたしらも信じてるし」
「せやな。ある意味俺らもええ勉強になるわ。今は昔に比べてあやかしの力も弱まっとるから、俺らもそこまでの強い力を必要とせんからな。清明の祖父さんも、こんなときぐらいしか全力出さんやろ」
「道満相手に全力はいらんて」
そう。時代に伴って文明や科学が進み、発展して、自然が少なくなるほどに、あやかしの力も弱くなってきていた。それに比例する様に、陰陽師の調伏力も弱まってきている。まるで陰陽師とあやかしが呼応する様に。
ただし、占術については昔からの能力が脈々と引き継がれていて、だからこそ今も政に重宝されているのだが。
実は、羽菜も占術だけなら並の陰陽師と引けを取らないのだ。だから占いを生業にする道もあった。修行をきちんと納めたからだ。実際そうしている人たちもいる。当然ながら当たると評判だ。
だが羽菜はこのカフェの運営者を選んだ。それは修行のとき、周りの人に恵まれたからだ。この人たちを支えたい、そう思ったからだった。




