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陰陽師はナポリタンがお好き  作者: 山いい奈
4章 長年連れ添ったから
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第3話 その考えに至るまで

「私ねぇ、今、熟年離婚なんてものを考えてしもてるんですよ」


 柳田(やなぎだ)さんのせりふに、羽菜(はな)清明(せいめい)お祖父ちゃんも目を丸くした。それはまた、穏やかでは無いお話だ。それが原因でここに来てしまうほどに思い詰めてしまっているのだろうか。


「そりゃあ何でまた。いや、結婚生活も長いやろうから、いろいろ積み重なったもんとかあるとは思うけど」


 清明お祖父ちゃんがひそかに眉をしかめると、柳田さんは苦笑する。


「何かねぇ、急に思い立ってしもたんですよ。子どもらも独立して、心境でも変わったんかしらねぇ」


「そんなおっきい子どもがおるんか」


 清明お祖父ちゃんの時代は、成人は14歳から15歳だった。だが今は18歳、もしくは20歳に引き上げられている。大学進学も当たり前の様な時代になっている。もちろん清明お祖父ちゃんは現代の常識で話しているはずだ。


「ええ。双子でね、今年の春に大学を卒業して、就職して家を出ました。肩の荷が降りましたわ。夜泣きから何から2倍やから、そりゃあもう大変やった」


 柳田さんは自らの疲れをいたわる様に、右手で左の肩を揉みながら首を左右に曲げた。実際肩だって凝ってしまう様な毎日だっただろう。双子の育児の大変さはきっと想像を軽く超える。


「旦那は?」


「なーんもしませんよ。時代もあったんですかねぇ、家事育児は女の仕事やいう価値観ですわ」


 確かに昭和や平成の初期のころはそうだったのかも知れない。男性は外で働いてお金を稼ぎ、女性はお家で家事と育児をする。昔は会社のお休みも日曜日だけだったそうだから、休養日は必要だっただろう。


 しかし、家事と育児には休みが無い。しかも育児には過酷な時期がある。しかも何年も。そう思うと女性の方が負担が多い様に思ってしまうのだが、どうなのだろうか。


「しかもうちの主人ね、外食が嫌いで、スーパーの惣菜とかも嫌がって、1年365日毎日3食作ってきたんですよ。お弁当も作ってね。ほんまに大変で」


「そりゃあ難儀やな。息つく暇もあらへんがな」


 清明お祖父ちゃんはまた顔をしかめる。


 それはまた、本当に大変そうだ。羽菜ならきっと耐えられないだろう。そんな人が旦那さまになってしまったら、きっと離婚したくなる。そこまで行ってしまうと、お料理の好き嫌いの範疇を超える気がする。いくらお料理好きでも、外食や中食のひとつもできないのは、辛いのでは無いか。


 羽菜は清明お祖父ちゃんとふたり暮らしで、家事などは羽菜のお仕事である。その中で唯一手が抜けるといえば、やはりお料理だと思う。お洗濯はしなければ着るものが無くなってしまうし、お掃除も多少はさぼれるけれど、限度がある。


 ちなみに羽菜がいちばん好きな家事がお料理、嫌いな家事が洗濯物たたみである。なので乾いたら畳まずにハンガーのままクロゼットに掛けるという暴挙、もとい、工夫をしている。下着や靴下はセットにして畳まなければならないが、お洋服までたたむことを思えば随分ましである。


 羽菜には清明お祖父ちゃんがいるので、羽菜の外食で放っておくわけにはいかない。なので基本、ごはん作りがしんどいときは、あべのベルタの関西スーパーか専門店のお惣菜屋さんで買って、お家で食べる。清明お祖父ちゃんはそれに一切文句は言わない。清明お祖父ちゃんは長年神霊としてあり続けることで、その時代の価値観を学んでいるからだ。


「そんなことが積もり積もってねぇ……」


 柳田さんは簡潔に言うが、お子さまが独立する年齢なのだから、それはもう何十年ものことなのだと思う。柳田さんは不満も言わず、粛々と旦那さまに尽くしてきたのだろうか。旦那さまがどんな人柄なのかは分からないが、息が詰まることだってあったかも知れない。


 羽菜は結婚していないし、今はお付き合いをしている人もいない。なので結婚生活というものは、自分の両親を見て想像するしか無い。


 羽菜の両親と柳田さんは、多分同年代だ。お子さんの年齢が今24歳の羽菜とそう変わらないはずなので、きっと親世代もそう大きくは違わないだろう。


 羽菜のお父さんは会社員だが、お母さんはパート勤めをしている。お母さんが自分で言っていたのだが、どうにも専業主婦には向かない性格なのだそう。時短パートでも働いて、お外と繋がっていたいと考える人なのだ。


 本当はフルタイム勤務を続けたかったそうだが、お父さんも家事育児は女性の仕事だと考えている節があった。昭和生まれで、専業主婦だった母親、羽菜から見たらお祖母ちゃんに育てられたから仕方が無いのかも知れないが、羽菜から見るとそれがお父さんの悪いところで、そんな男性とは結婚したく無いなと思わせるのだった。


 なのでお母さんは結婚後もフルタイム勤務と家事を両立し、羽菜妊娠を機に退職し、羽菜を幼稚園に入れられる様になってからパートを始めたのだ。


 そんなお父さんとお母さんだが、羽菜の目から見ても仲は悪く無い。そう思う。お母さんがその状況で納得していたことが大きいだろう。


 それと、羽菜が以前、お父さんに言ったことも効いているのかも知れない。


「お母さんかて働いてるのに、家事育児を丸投げするお父さんみたいな人とは絶対に結婚した無いわ」


 お父さんはそれに少なからずショックを受けた様で、家事育児をしないのは相変わらずであるが、お母さんに感謝を示す様になったみたいである。


 そう思うと、羽菜の両親の結婚生活は、お母さん次第で保っているところがあると言える。羽菜も独立した今、お母さんがお父さんと別れたとしても、きっと大して困らない。


 お母さんが望めば今のパート先で社員になれるなんて話も聞いたことがある。お父さんには内緒にしているらしいが。羽菜などは話して少し脅してやれば良いのに、なんて意地の悪いことを思ってしまったり。


 昔は亭主関白なんてものが当たり前だったこともあったらしいが、羽菜から言わせれば、男性が無能なだけである。共働きが多い今そんなことをすれば、男性は女性に役立たず扱いをされて捨てられてもおかしく無い。


 だが柳田さんの旦那さまがまさにそんな気質で、お家の全てを柳田さんが担ってきたのだ。しかも外食やお惣菜も許されないとなると、その負担はかなり大きなものである。


 柳田さんの旦那さまは奥さまである柳田さんにそんな苦労をさせ、何とも思わないのだろうか。それが当然だと思っているのだろうか。羽菜は疑問に思うのだった。

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