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ガム  作者: アブ信者
1章
15/56

工作

 盗賊と言いはしたが、やっていることはそれを詳しく聞けば聞くほどに、どこかヤクザじみていて、何でも今日の夜遅くに所謂みかじめ料的なモノを徴収しに来るのだそうだ。当然全戦力を差し向けてくるわけではないとは言え、下手に逆らえばただの村人では抗いようもないという。これはマズいのではと思った。


 もう既に辺りは暗いが、ここから数時間後にはそいつらがやってくるのだ。そしてそこでもし何かが起これば、俺も確実に巻き込まれてしまう。何も起きなかったとしても、この村の住人は俺を叩き起こして前に立たせるのだろう。


 意志薄弱と言うか、キッパリと物を言えなかったことが悔やまれる。


 そうして少し考えて、俺は一つだけ何とかできそうな方法を思いつくと、確認のために尋ねた。


「そいつらは普段何人くらいで、どこから来るんですか?」


 これが百人規模だとどうしようもないのだろうが、十人とかその程度なら何とかは出来るのかもしれない。まだ時間はあるようだし、何かしらできることはある──かもしれない。


 彼らが言うには、人数はまちまちだが、最近は逆らうことも少なくなってきたことで、それに応じて向こうも向かわせる人数を減らしているのだとか。確かに戦闘になれば大人数の方がいいのだろうが、そうでもなければわざわざ大所帯で向かわせるほどでもないのだろう。もし数人で来たからと手を出したとて、盗賊をやっているような人間と村人とではまともに遣り合えるはずもない。


 それを聞いて、それから今度は盗賊達が村の北側、その森の奥からやってくるのだという話を聞いた。見に行ったものはいないが、恐らくはその奥に棲み処か何かがあるのだろうとのことで、彼らは毎度北から来て北に帰っていく──来た道を戻っていく。


 ただ話で聞くだけでは分からないこともあるので、俺はその家を出ると、森というのがどのようになっているのかを見せてもらうことにした。村を囲う柵の外、雑草やら低木やらの中に一か所だけ、人が踏み固めた跡があり、その奥には整備こそされていないものの、人が歩けそうな道が続いていた。


 常日頃から誰かしらがここを通っていなければこうはならないのだろうから、その盗賊達はここから出てくるとみていいのだろう。


 だとすれば、今宵もそいつらはここを通る。


 なので必要なことはするとして、その前に。


「じゃあ作戦を立てるとして──幾ら出せるの?」


「い、幾ら……とは?」


「いや、報酬。そいつらをどうにかしたら俺は何か貰えるんでしょ? まさかただでやれなんて言うはずもないし」


「報酬ですか……ですが、我々には差し出せるようなものはもうなくてですな。それこそ奴らが持って行ってしまいましたから……」


「たとえそうだとしても俺はただではやらないよ」


 路銀が心許ないのだ。


 無いことはないが、やはり貰えるものは貰っておかないとマズいというのはつい最近教わったばかりなのだし、いくら何でもこの短期間ではそれを忘れることもない。働きに対する対価は受け取っておくべきだというのなら、例え経緯がどうであれ、俺はその権利を主張する。


「分かりました。集められるだけ集めてみましょう」


「それから──」


 俺は向こうが一つ吞んだことでこれなら行けそうだと確信し、盗賊を相手にする上での人手を借りることにした。


 当然、全員だ。


 時間が無いのだから文字通り猫の手でも借り受ける勢いで全員に手伝わせることにした。何も全員である必要性はないような気もしたが、そもそもこれはこの村の──この世界の問題であって、俺の問題ではないのだ。


 宿を取ることを諦めるというのであれば今すぐにでもこの村から全力で逃げ出せばいいというだけの話であって、盗賊退治など本来俺がするべきことではない。この村でもどこでも、何か一日でできるような仕事を手伝って金をぼちぼち稼いでいくのは目的でもあったが、それがこんな仕事である必要もなかったのだ。


 そんな仕事をしなければならない時点で異常だというのに、俺がそれを一人でやらなければならないなどたまったものではないのだ。無論、彼らには戦う力が無いというのだから、それを戦えと言うのではない。俺だって戦えやしない訳で、それ故に罠を張ろうと考えていたのだから、その手伝いをしろということでの人手だ。


 そうして人を引き連れては森の比較的浅い場所まで連れて行くと、適当にではなく適当な場所を選び、そこに仕掛けを作り始めた。地面はそれなりに柔らかく、村人の中に泥を作るスキルを持つ人間がいたことで、その穴掘りは比較的スムーズに進んでいった。当然一人いただけでは間に合わないので、その人にはひたすら地面を泥にしてもらい、他の総出でその泥を別の場所に運んでいくという作業になる。


 穴を人がギリギリ登れない高さまで掘り下げていくと、それだけでも十分な労働ではあったが、そこからが本番になる。この穴を隠さなければならない訳なのだが、ここで少し問題が起こった──というよりは、問題点と言うか欠点のようなものに気が付いた。


 この落とし穴、例え隠したところで人が落ちないのだ。


 落とし穴と言うのは人ひとり分などであればその効果を発揮するもなのだろうが、集団で来ることが想定される相手だとそうもいかなくなる。落とし穴の蓋は人の重みで崩れ去るようなものでなければ意味が無いのだが、そうなったとき、先頭を歩く人間が一人落っこちた時点でそれ以外の全員が脚を止めてしまい、それこそ横並びで来てくれでもしない限りは全員を一気に穴に叩き落とすことなど出来ないのだ。


 その蓋をある程度頑丈な、それでいて大人複数人の重さに耐えきれない程度の板に変更したとて、相手の具体的な体重や人数の分からない現状では調整のしようが無い。村人で試してみようかと思ったが、流石にそれは出来ないし、そんなことをちまちまやっていられる時間もない。だが偽装はしなければなるまいということで俺は考え、そこで一つ思いついた。


 俺は少し離れると、足をガムに変化させ、その穴を覆うように伸ばして広げていった。そこから頑張って色を変化させていく。これがなかなかスッといかないもので、緑になって、水色になって、紫になって、それからようやく茶色──コーラ味になった。地面との色は少し違うが、周囲の村人の反応からして、やはりこの世界の人間はこれが何なのかさえ理解できてはいないのだから、多少違和感を持たれたところでそれまでだろう。


 俺はその伸ばしたガムを板ガムのように硬質化させると、その上に何人か立ってみるように言う。十五人ほど乗せて、それでも特に問題がなさそうなことを確認すると、村人をどかしてから、俺は一度ガムを解除した。


 パッとその場からガムが消えると、俺の足に戻る。


 問題はなさそうだと、俺は試験的に立っていた今の場所から、きちんと身を隠すための場所を探し直す。良い感じに生い茂った木を見つけると、村人の肩を借り、そこによじ登っていく。葉の所為で下からも見えにくく、辺りの暗さも手伝って、俺がいると分かっていなければ、その姿を認識することは出来ないのだそうだ。


 そこまで確認すると、俺は先程同様、木の上からガムを垂らしていった。あまり目立つようにもできないと、始めは慎重に、地面に着いてからは一気に広げるよな形で、そしてそれを板にすると、上から土や木の葉を被せて隠蔽する。そしてそれが違和感にならないよう、周囲もそれに合わせて雑多に整えていくと、準備はそこで終わった。


 村人は逃げるようにして村へと帰っていき、辺りはひっそりと、その時を待つ。向こうがどんな連中なのかは知らないのだが、盗賊というくらいだし、それらしい恰好をしているだろうと願いたい。


 そうでなくとも、とりあえずここに来た奴らを落とすだけなのだが。


 そして、それから数時間ほど待って、その時は来た。

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