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9.初外交

 さてガイドブックを発行してよろこんでから一か月。

 そろそろ夏に差し掛かるそんな時。

 お昼を家族ととっていたとき、王様がぽつりと話し出す。


「おい、ミレル。いいか、隣国エバーランド王国の大使が会いたがっている」

「え、僕? なんで?」

「薬草ガイドとモンスターガイド、作っただろう」

「え、うん」

「エバーランドでも冒険者の能力を上げたいとのことだ」

「なるほど?」


 ガイドブックを発行して一か月。

 採れる薬草の量と質、それからモンスターの収入も増え、さらに死傷者の数が減っているという報告が上がっていた。

 つまり冒険者全体のレベルが上がったのだ。

 さすが隣国。そういうところもちゃんと見ているらしい。

 原因はガイドブックだろうとすぐに目をつけてきた。


「別に真似すればいいじゃないですか」

「いやミレルに会って助言が欲しいらしい。それから直々に許可をいただきたいと」

「まったく律儀ですね。仕事熱心なことで」

「まあそうだが、会ってやってくれ」

「夜会ですか? パーティーは嫌なんですけど」


 ミレルだって女の子なので冒険者みたいな格好というわけにはいかない。

 パーティーになればドレスだ。

 実は嫌いというほどではないけど、ずっと立ってなきゃいけなくて退屈だったりして、けっこうキツい。

 まだ七歳児がフルタイムで参加するような行事じゃないのだ。


「いや、昼間、外交官として会いたいと」

「いいですよ。冒険者の格好でいいなら」

「ああ、そう言っておこう」


 ということで予定は埋まりとんとんと進んでいった。


 当日。簡単な冒険者の服とミニスカートの格好で待つ。

 内宮で小さな昼食会が開かれた。


「エバーランド王国の大使、入ります」

「ああ、通していいよ」


「エバーランド王国大使クドア・ミッケランドです」

「クドアの娘のハキーナです」


 軽く挨拶して座る。

 クドアはナイスミドルの男性。ハキーナは可愛らしい女の子だった。僕たちと同じくらいだ。

 こちらは僕ミレルだけでなく、ナーシーも隣に座っている。

 それから後ろにはラーナが控えている。


「ミレルちゃんは可愛らしい娘だと聞いていましたが、確かに」

「あはは、ハキーナちゃんもかわいいよ」

「ありがとうございます」


 ハキーナちゃんが椅子から再び立ち上がり、カーテシーをして見せる。

 大人しいかと思ったら、顔をグイグイと近づけてくる。


「それで、どうなのですか? 売れ行きは」

「すごい売れてて、今増刷してるところなんですけど」

「じゃあ大儲けなのですね」

「それが、貧乏でも買えるように原価ギリギリなんだ」

「なんだ、そうなのですか」


 ちょっとしょんぼりしてしまう。


「少しだけ利益もあるので、懐は温かいですよ」

「それはよかったわ」


 ハキーナちゃんが今度はにっこり笑う。


「マイマイの甘辛ダレです」

「わぁ、マイマイだって。私はじめて」

「実は、これ僕が取ってきたものでして」

「まぁ、そんなことまでしているの?」

「ええ」

「危なくはないの?」

「王宮の裏の森なので、安全ですよ」

「なるほど……そういえば、あなたたち、水の精霊の匂いがしますわね」

「え、分かるの?」

「はい。私も王家に連なるものなので、多少は」

「そっか。秘密なんだけど、その、水の精霊様が森の奥にいて」

「まぁ、そうなんですね。さすがにそれは国家機密ですね」

「そう、ですね、たぶん」


 それから、実際に発行している薬草ガイドとモンスターガイドを取り出して、色々質問を始めた。

 薬草に絞ったことや初心者向けにモンスターの解説をしてある点などについて説明をした。


「なるほど」

「ドラゴンの説明とかみんな見たいだろうけど、見たところで興味はあっても初心者には関係ないでしょ」

「そ、そうですね。文献とかは多いのですが」

「うん。でもそれに紙面を使うと倍の値段になっちゃう」

「確かに、情報を絞るのですね」

「そういうこと」

「賢いですわ」


「それにしても、マイマイ美味しかったわ。また食べたいわ」

「ええ、またご一緒しましょう。大使様はしばらくこちらに?」

「はい、あと数年はいるかと」

「そうなんですね。ではまた、ぜひに」

「あの……今度はマイマイを取るところからご一緒したいです」

「ハキーナちゃんがですか?」

「だめ、ですか?」

「うーん。王様に確認しないと。さすがに絶対安全とは言えないんだ。野犬とかもいるって」

「野犬っ!」


 びっくりして目線をさ迷わせる。

 犬にでも追いかけられたことがあるのだろうか。

 人に懐いている犬ならいいけど、野良犬はその限りではない。


「ま、まあ、今度です。参加したいですわ」

「そこまで言うなら、お願いしてみるよ」

「よろしくお願いします。ではまた」


 エバーランド王国にはサンプルのガイドブックを送って、向こうの国にあったガイドブックを製作することになった。

 現役の冒険者にちゃんとチェックしてもらうことも伝えてある。

 これで堂々とガイドブックのコピーが作れることになったのだ。

 僕たちは作者名のところに連名で名前が入れられると決まった。

 ちょっと恥ずかしいけど、これくらいは一応ね。


 ハキーナちゃんは上機嫌だけど用事があったみたいで急いで帰っていった。



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