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第89話 とある錬金術師とその弟子2

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ――――――

 

 ――――

 

 ――

 

 二十年前。


「よーし撮るぞー。ほら、もっと笑え笑え。リブラス、お前は笑顔が固いんだよ。……まあいいや、はいチーズ!」


 バシュゥゥン。

 静かで薄暗い部屋の中に、カメラの閃光音が鳴り響く。その小さな四角い箱が捉えていたであろう景色の中には、三人の(・・・)兄妹の姿がぎこちない笑顔と共に切り取られていた。

 カメラを構えていた男は安堵のため息を漏らし、三人の兄妹に向き直る。

 

「写真の出来は及第点といったところかな」


「師匠、チーズとは何ですか?」


 そう尋ねるのは、笑顔が一番硬かった細身の少年。名はリブラスという。三兄妹の長男で、数か月前から『師匠』の下で錬金術の勉強に勤しんでいる。


「気になるか? ならば今日の晩飯で食わせてやろう」


「いいのですか? というか、食べ物のことだったのですか!?」


「そうかそうか、お前はチーズの旨さも知らずに13年間も生きてたのか。実に哀れで勿体ない人生だ」


「そ、そこまで言われるほどの旨さなのですか……!?」


 リブラスはさっそくチーズの味に興味津々だった。しかし、それは自分が食べてみたいからではなく、二人の妹に食べさせてやりたかったからであった。


「チーズ、食べてみたい……」「わたしもわたしも!」


 二人の妹は双子だ。歳はリブラスより4つ下。名はそれぞれジェシー、ミーナという。


「そうかそうか、お前達も気になるのか。よしいいだろう、今日の晩飯はチーズ祭りだ!」


「え、いいの……?」「やったやったー!」


 姉妹の歓声に、師匠は満更でもない様子だ。

 リブラスはそんな和やかな光景に目を細める。

 少し前までの自分達は、生きていくのでさえやっとだった。

 両親に捨てられ、住む家もない。食べる物も満足に買えず、時には雑草や泥を啜って飢えをしのぐ日々を送っていた。

 全てを失った。自分は何のために生まれてきたのだろうとさえ考えたこともあった。

 そんな自分達に手を差し伸べてくれたのが師匠だ。

 あの暖かい手は今でも覚えている。

 とても、とても寒い日のことだった。



 ◇

 


「……――! ……――ッ!」


 誰かが叫んでいるのが聞こえた。

 数日間何も食べていないせいで目が開かない。

 すきっ腹に響くからやめてほしいと思った。

 声はものすごく必死だった。


「おい! しっかりしろッ!」


 頬に刺激が走った。

 どうやらビンタされたらしい。

 ひどい奴がいたものだと思った。

 けど、おかげで視界が鮮明になった。

 いや、そのせいとでも言い直そうか。

 出来ればそのまま楽にさせてほしかった。


「おお、目覚めたようだなぁ」


 あんたは誰だと尋ねると、男は『師匠』とだけ答えた。

 れんきんじゅつ……とやらの師匠らしい。

 助けてやった代わりに弟子になれと言ってきた。

 正直迷惑以外の何物でもなかったが、師匠は妹達にも手を差し伸べてくれた。

 

 ジェシーとミーナは唯一の家族だ。

 

 大切な家族の命の恩人だから、無視するわけにはいかなかった。

 リブラスは師匠の手を取った。

 そして、この日がリブラスが歩む錬金術師の道の第一歩となった。



 ◇



 後日、撮った写真を師匠が本棚の上に飾った。写真立ての中には元々別の写真が入っていたが、師匠の手によって三兄妹の写真に差し替えられた。


「師匠、いいのですか? 元は奥さんの写真が入っていましたよね?」


「いいんだ。あいつはもう死んじまったからな」


 そう言って師匠はぎこちない笑みを浮かべ、妻の写真を懐へと仕舞いこむ。まるで記憶から無理やり消去しようとしているようだった。

 

「本当にいいんですか?」


「今の私はお前達の方が大事なんだ。だから気にすんな」


「で、ですが……」


「あーもう、湿っぽい話はやめだ! ほら、もう遅いから寝ろ!」


 強引に話を打ち切られ、リブラスは強制的に寝室へ押し込まれた。先に部屋に入っていたジェシーとミーナは、まだ目を開けていた。


「お兄ちゃん。師匠と何の話をしてたの?」


「なんだお前達、まだ起きてたのか。早く寝ないと師匠に叱られるぞ」


「ねえ、なんで話してくれないの?」


「お前達には関係ないことだからな」


「嘘。お兄ちゃん、何かしようとしてる。最近ずっと夜中に部屋から抜け出して何かしてる。師匠のために何かしようとしてるんじゃないの?」


「……もしかして、見てたのか?」


「「お兄ちゃんのことならなんでも知ってるよ」」


 ジェシーとミーナは声をそろえる。妹達にはすべて筒抜けだったようだ。リブラスはハッと驚くと、観念したように事情を白状した。


「師匠のために何か恩返しがしたいと思って……こっそり材料をかき集めてたんだ」


「恩返し?」


「ああ。僕達は師匠に世話になりっぱなしだからな。師匠に何かプレゼントをしようと思って、そしてどうせなら師匠が一番欲しいと思ってるものをプレゼントしてあげたかったんだ」


「師匠が一番欲しいものって、なぁに?」


「……死んだ奥さん(・・・・・・)だよ。師匠はああ言ってるけど、本当はすごく会いたがってる。だから僕が会わせてあげるんだ。師匠から習った錬金術の力でね!」

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