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第84話 嬉しくない再会

 本当はヨミが紹介した店で買い物を済ませるつもりだったが、すでに閉店していたのなら仕方がない。一行は別の店を探すことにした。歩きながらマリーベルが呟く。


「さっきはスルーしちゃったけど、20年前が云々っていうのは本当なの?」


「もちろん本当ですよ。エドガーさんにお会いしたのもちょうどその時期ですから」


「そういえばお父様もそんなこと言ってたわね。今まではっていうか、今でも半信半疑だけど……こうも積み重ねられるとちょっと信じざるを得ないわね」


「ふふふ~。ようやく信じていただけましたか?」


「完全にってわけじゃないけどね。けど、だとするとやっぱり気になる。あなたはいったい……何歳(いくつ)なの?」


 マリーベルは実に懐疑的な視線をヨミに向けた。無意識に気にしないようにしてきたが、はぐらかされっ放しというのもやはりどこか気分がよくない。ヨミは少しだけ間を置き、ふと足を止めて答えた。


「……実を言うと私自身も分からないんです。私は時の流れから零れ落ちた存在ですので」


「え? どういうこと?」


 思わずマリーベルは聞き返した。何を頓珍漢なことをと思ったが、ヨミは至って真剣である。というか、いつもの無表情なのか微笑んでいるのか分からない微妙な表情だ。


「どういうことと言われましても、言葉通りの意味です」


「その言葉の意味が分からないんじゃ質問の返答にはならない気がするだけど……」


 またしてもはぐらかされたのだろうか。それとも大真面目に答えてくれたのか。おそらく後者な気はする。しかし、今のマリーベルではとても理解できる気がしなかった。


「ねえ、エルはどう思う?」


 ビュゥゥー……!


 エルシャの意見を伺おうと思い、横を向いたその時だった。目を覆いたくなるほどの強い突風が吹き、三人の顔を突き抜けた。マリーベルは髪を押さえ、エルシャは帽子をぎゅっと押さえる。


「うわ、すごい風。エル、大丈夫だった? また帽子飛ばされてないわよね?」


「はい、なんとか無事でした……」


 さすがに二度も同じ迷惑はかけられない。前回の経験が生きたのか、今回は帽子を飛ばされずに済んでいた。風が吹き止むと、エルシャは押さえつけていた帽子を被りなおした。


「この町はいい風が吹きますね~」


 ヨミは呑気な様子だった。気づけば目的の店はもう目前。入り口の扉に手をかけたところで、エルシャは遠目で何かに気づく。


「あっ。皆さん、先に行っててください」


「どうしたの?」マリーベルが聞き返してくる。


「向こうで女の子が困ってるみたいで……さっきの風で帽子が木に引っかかっちゃったみたいです」


「ははあ、なるほどね。この前のエルと同じ感じね」


 見てみると、確かに向こうの方で小さな女の子が木に向かってぴょんぴょん飛び跳ねている。枝には帽子が引っかかっていた。女の子の背丈ではとても届かなそうだ。


「だから、なんだか放っておけなくて」


「いいですよ。取ってきてあげてください」ヨミは言った。


「ありがとうございます。行ってきます!」


 そうしてエルシャは女の子のところへ向かった。エルシャの背丈であれば少し背伸びをすれば帽子は難なく取ることが出来た。


「はい、どうぞ」


「感謝いたします。わたくしだけの力ではどうすることも出来ませんでした」


 妙に丁寧な言葉遣いの女の子だな、とエルシャは思った。同時にどこかで聞き覚えのある声だとも思った。考えを巡らせ、思い至る。その瞬間、エルシャは青ざめる。


(この声、この顔は――!)


 だが、気づくのが一歩遅かった。女の子の手元には、その容姿には恐ろしいほど似つかわしくない物が握られている。銃だ。


「お久しぶりですね」


 女の子は……いや、ジェミナは呟く。確かに久しぶりだ。久しぶりに思い出してしまった。地下牢に響いた、あの乾いた発砲音を。


「な、何をする気ですか?!」


「別に何もしませんよ。あなたの態度次第ですけどね」


 銃口をエルシャに向けたまま、ジェミナは冷たく囁く。明らかに黒い思惑を秘めた言葉と口調だ。しかし、この状況ではどうすることも出来ない。


「……あなたの要求はなんですか?」


「理解が早くて助かります。とりあえずわたくしに付いてきてください」


 有無を言わさぬジェミナの視線。今のエルシャに選択肢は存在しなかった。どこで見知ったのか両手を上げ、ジェミナの命令に従う。一度だけ後ろを振り向いたが、ヨミたちはとっくに店の中へ入った後だった。

 


 ◇

 

 

 結構な時間を歩いた。ジェミナに連れてこられたのは、町のはずれにある一軒家だった。家の外観は綺麗なものだ。修繕もきちんと行っているのか、古さを感じさせない。周囲には家らしい建物がなく、空き地と家との境界線が曖昧になっている。

 

「入ってください」

 

 ジェミナはエルシャを家の中へ招き入れた。外観から想像した通り、中も綺麗に整っている。ただ、家具や小物の類いが一切置かれていないためか、どこか生活感に欠けていた。まるで空き家をそのまま使っているような印象だった。


「あの、ここは何ですか?」


「見ての通りですよ。わたくし達の家です」


「はぁ、そうですか」


 試しに尋ねてみたものの、有益な情報は得られなかった。家、それ以上でもそれ以下でもない。ただ、思い返してみるとジェミナは気になることを口走っていた。


(わたくし()……もしかして、あの人もいる?!)


 その口ぶりからして他に誰かがいるのは明らか。そして、それが誰かなのかもエルシャには予想がついていた。出来れば当たってほしくない予想だが、他に誰かがいるとも思えない。


(なんだろう……後ろに、誰かいる気がする……!)


 嫌な想像をしてしまったせいか、背筋がゾクゾクとする。恐る恐る振り返ってみると、そこには――。


「よくぞ来てくれた。心から歓迎しよう」


 いつの間に背後に立っていたのか、そこにはリブラスが立っていた。

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