表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/140

第63話 化けの皮

 焼きキノコを食べ終え、一行は再び森の中を歩き始める。それからさらにしばらく歩き、ようやく目的地と思われる開けた場所へと着いた。


「ここに泥棒は逃げ込んだの? それにしては何もないけど……」


 周囲を見回しながらマリーベルは言った。ここは森の深まった場所であるため、村人だろうと易々足を踏み入れることは出来ない。隠れ家にするにはうってつけかも知れないが、どこを見ても寝床のようなものすら見当たらない。

 加え、一番重要な物……ヨミの刀も見当たらなかった。


「確かに泥棒はこっちの方へ逃げていきました。もしかしたら盗んだものをどこかに隠しているかもしれません。辺りを探してみましょう」


 トージョの言うことには一理ある。泥棒だって馬鹿ではないのだ。人目のつかない森の奥とはいえ、盗んできた物を野ざらしにしているわけがない。


「そうね。探してみましょう」


 マリーベルの一声を皮切りに、他の二人も周辺の草むらや木の陰などを手分けして探し始める。もちろんトージョも捜索に加わるが……。

 

(くくく、探せ探せ。どうせここにはないんだけどな。そして隙を見せたら……まずはあの眼鏡女から殺してやる!)


 当然、真面目に探すつもりなど毛頭ない。探すふりをしながら、チラチラとヨミの様子を窺っている。孤立した瞬間を狙って、不意打ちを仕掛けてやろうと考えていた。

 中々そのチャンスはやってこないが、トージョはじっと待ち続ける。

 そしてしばらく時間が経ったのち、ようやくチャンスが巡ってきた。


「私はあっちの方を見てきます」


 ヨミが奥の方を探してくると言い出し、一人になったのだ。

 少しの間を置き、トージョも忍び足で後を追う。

 そしてヨミの死角へと移動し、後ろから襲おうとする。隠し持っていたナイフを手にしながら、タイミングを見計らい始めた……その時であった。

 急に周囲の草木がざわめきだし、鳥が一斉に羽ばたいた。


「……トージョさん」


 ヨミは振り向くことなく、背後に現れたトージョの名を呼んだ。

 完全に気配を消していたはずがバレていたのか?

 思わずトージョの動きが固まる。

 ナイフはとっさに懐へ隠した。


「どうかしましたか? トージョさん」


「ああいえ、お手伝いでもしようかと」


「ここは狭いので私一人で大丈夫です」


 相変わらずヨミは振り向くことなく、淡々と言い続ける。

 トージョからしてみれば不気味なことこの上ないが、せっかくそう言ってくれたのだ。ここはお言葉に甘えて引き上げよう。


「そ、そうですか……。じゃあぼくはこれで失礼します」


「あ、待ってください。一つお尋ねしたいことがあるんです」


「……! な、なんですか……?」


「どうして『刀がなくなった』と聞いて『細長い何か』という言葉が出てきたんですか? それって刀がどういう物か知っていないと出てこないはずです。この辺じゃ刀なんて流通してないですよね?」


 今朝の出来事だ。

 こんな森の奥深くにいるのも、トージョが「細長い何かを持った男が森の中に駆け込んでいった」と言ったのがきっかけだった。


「そ、それは……本で見たんです! 本の中に、刀という名前の武器があるって書いてあったんです!」


 トージョの額に冷や汗が浮かぶ。

 まさかヨミは自分を疑っているのか?

 いや、そんなはずはない。自分の擬態は完璧なはずだ。どこからどう見ても人間の子供にしか見えないはずだ。


「そうでしたか。トージョさんは物知りなんですね」


「あ、ありがとうございます。では本当にぼくはこれで失礼し――」


「それともう一つ。トージョさん、あなた……さっきから殺気が駄々洩れですよ?」


「――ッ!」


 次の瞬間、トージョは攻撃を繰り出していた。

 懐に仕舞っていたナイフを取り出していては間に合わない。

 そう判断し、擬態を解いて鉤爪を露出。

 勢いそのままに首筋を狙ったが、紙一重でヨミは回避する。


「ちっ、避けられたか……!」


「なるほど。それがあなたの本当の姿ですか。……実にらしい(・・・)ですね」


 鋭い目つき。尖った形状の耳と鼻。全身は黒色の体毛で覆われたその姿は、言うなれば黒狐だった。そう、これこそが魔獣の正体だったのだ。


「うるせぇ! 刀のないお前に何が出来る!」


「確かに今の私では何も出来ません。ですが今の私には、頼もしい仲間が二人もいます」


 ヨミがそう言った直後だった。

 魔獣のすぐ横を、二発の火炎球が掠め通っていった。

 後ろを振り向くと、そこにはエルシャとマリーベルが立っていた。


「そこを動かないでください」


「動いたら次は脅しじゃ済まないわよ」


 二人の手には次の火炎球がすでに生成されており、魔獣へ狙いが定められている。いつでも追撃は可能だった。


「くそ、こんなはずでは……!」


 不意打ちに失敗したどころか自分の正体すら曝け出してしまう羽目になってしまい、魔獣のフラストレーションは溜まっていく一方。しかも獲物を追い詰めていたはずが、いつの間にか自分が追い詰められているではないか。

 認めたくはないが、ようやく自分の誤算に気づいた。

 どうやらここは逃げるしかなさそうだ。

 一か八かで魔獣は跳躍を試みる。

 エルシャとマリーベルの頭上を飛び越せたら成功。

 飛び越える前にに火炎球で撃ち落とされたら失敗。


「うおおおおーーーッ!」


「あっ!」


 二人は思わず声を上げる。

 まさか魔獣がこんな強硬手段に出てくるとは思わず、判断が遅れてしまった。

 二人が放った火炎球は、虚しくも空中で消滅する。


「くくくく……! この博打はオレ様の勝利だ!」


 大跳躍を決めた魔獣は、三人から遠く離れた位置に着地。そして即座に走り出し、後ろ姿は間もなく見えなくなってしまった。


「あーもう! 逃げ足だけは速いんだから!」


 魔獣を取り逃がしてしまい、マリーベルは憤慨する。


「こうなっては仕方ありません。いったん村に引き返しましょう」


 ヨミの冷静な一言に、エルシャたちは賛同することにした。熱くなった頭を冷やし、作戦を立て直す必要がありそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ