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第128話 えきしびしょんまっち

「よーし行くぞおぬしら! えきしびしょんまっちの開幕じゃ!」


「おーっ!!」


 ハイネの号令とともに、全員が魔獣へと突進していく。凄まじい勢いで魔獣を翻弄し、たちまち追い詰めていく様はさすが武闘会出場者といったところか。彼らの動きは素人目に見ても洗練されているのが分かった。

 しかし魔獣も負けてはいない。鋭い爪と牙を駆使した反撃で出場者達を一網打尽にし、容赦なく追い込んでいく。だが決して致命傷にはなっていないのは、やはり手負いだからだろう。

 個の力こそ魔獣が上回っているが、数はハイネ陣営が圧倒的に上だ。

 魔獣の攻撃はどうも単調で、しだいに疲れも見え始めて隙が生まれてくる。

 ハイネはその隙を突き、鱗が剥がれ落ちた生身の部分に攻撃を叩き込むと、魔獣の巨体がぐらりと傾いた。

 

「行けます! 行けそうですよ!」


 戦況はハイネ達が押していた。七人の戦士が縦横無尽に駆け回る光景に、エルシャも観客席で拳を握って興奮を滾らせる。武闘会なんて見て何が楽しいのかと正直言って疑問だったが、今ならその熱狂にも納得できる気がした。


「いやー、それにしても壮観ですね。大会出場者が勢揃いで……これは私も助太刀しなきゃいけない流れな気がします」


「え! だ、駄目ですよ!」


「止めないでくださいエルシャさん。他の出場者の方々が頑張っているのに、私だけ上で見てるだけなんて出来ません」


「だってヨミさん、名目上は武闘会には出てないでしょう!?」


「それは詭弁ですよエルシャさん。ここで私が行かねば誰が行くのですか?」


「そ、そんなこと言ったって……あっ」


 ヨミはエルシャの制止を振り切り、闘技場のフィールド内へ飛び込んでいく。そして迫りくる魔獣の攻撃を薙ぎ払いつつ、挨拶代わりの一太刀を浴びせた。

 出場者一同は突然の乱入者に少しだけ動揺していたが、ヨミは全く構うことなくハイネに合流する。


「お、おぬし……ベルーネの町で会ったあの旅人か? というよりその太刀筋、やはり決勝戦の――」


「ハイネさん。申し訳ありませんが、今は談笑に花を咲かせている場合じゃないので」


「……む。確かにそうじゃの。わしとしたことが、気を抜いておったわい」


 ハイネは視線を魔獣に戻す。

 すると魔獣は、何やら怪しい動きをしていた。

 

「グウウウ……フウウゥゥ……」


 魔獣の口から噴出される熱い吐息。

 だがこれが灼熱のブレスが来る予兆であることを、ヨミはすでに知っている。。

 

「みなさん、魔獣の正面から避けてください。ブレスが来ます!」


 ヨミの言葉に従い、全員が魔獣の正面から離れる。その刹那、魔獣は激しく吼えた。口から放たれる灼熱の炎が、戦士達の傍を掠め通っていく。間一髪だった。ヨミの指示がなければ、今ごろ戦力の半数が焼け焦げていた所だった。


「予想通りですね。やはり大技の後は、動きが止まる……」


 そして炎を吐いた後、魔獣には隙が生まれていた。この好機をヨミが見逃すはずがない。


「今のうちです。総攻撃といきましょう!」


「よーし!」


 ヨミの号令と同時に、八人全員が魔獣へと突撃する。畳み掛ける。


「残りの鱗も全部はがしちゃいましょう」


 ヨミは魔獣の足元へ駆け込むと、斬撃を何発も重ねていった。その凄まじい切れ味に、魔獣の鱗は次々と剥がれていく。そこへハイネが走り込み、無防備になった腹部に渾身の一撃を見舞う。

 他の出場者達も負けじと続く。ヒットアンドアウェイを徹底し、魔獣が反撃に転じれば即座に離れる。そんな戦法を繰り返し、確実に弱らせていった。

 そして――。


「グワオオオオーーーッ!」


 魔獣は断末魔を上げ、今度こそ完全に沈黙した。

 八人の戦士達は勝利を確信し、高らかに歓喜する。


「おおおおおーーっ!」


 観客達も後に続くように歓喜し、闘技場全体が一体となって勝利を称える。こうしてエキシビションマッチの幕も下ろされた。結果は言うまでもなく、ヨミ達の完全勝利だ。


「そーっと、そぉーーっと……」


 するとそんな歓喜の輪に入りたそうに、ベルトランがどこからともなく近づいてくる。いったいどこへ隠れていたのか知らないが、いい所だけ(・・・・・)持っていきたいベルトランの甘ったれた精神には誰もが薄々勘付いていた。


「なんじゃおぬし。今までどこに行っていったのじゃ?」


 ハイネがベルトランにわざとらしく尋ねる。


「ど、どこでもいいだろ。そんなことより魔石の回収を早く――」


「その必要はない」


 唐突に誰かの声が響き渡る。


「だ、誰だ! 次期国王候補の俺にそんな口の……あっ?!」


 ベルトランは反射的に反論したが、声の主の姿を確認した途端、口上が尻すぼみになってしまう。観客席の入り口に、一人の白髪を交えた壮年の男が立っている。

 

 その人物の正体は、国王ザラムだった。そしてその傍には、メルティーナの姿もある。国王親子の登場に、ベルトランだけでなく観客達の様子も明らかにどよめき始める。


「な、なぜあなたがここに……」


「我が娘の結婚相手を見定めに来て何が悪い。まあ……その必要はもう無きに等しくなったがな」


「そ、それはどういう……!」


「性根だけでなく察しも悪いのか。ならば分かりやすく言ってやろう。……貴様に我が娘はやらん!! 分かったか!!」


「ひ、ひええええーーっ!」


 国王ザラムの剣幕に、ベルトランは全速力で逃げ出してしまう。だが逃げていった方向には、彼の父であるグラハムが立っていた。


「家臣からすべて聞いたぞ……剣の鍛錬もせずいつもどこかで遊んでいたそうだな。魔獣退治もほとんど私兵にやらせていたとか何とか……この恥さらしが! この私が直々に根性を叩きなおしてやろう!!」


 ベルトランにはもう逃げ場はない。

 前にも親父。後ろにも親父。

 二人の親父たちににらまれながら、ベルトランは泣き崩れる。


「うわーん! こんなことになるなら真面目に鍛錬しとくんだったー!」


 こうして闘技場は笑いの渦に包まれ、武闘会は真の閉幕を迎えるのだった。

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