中間考査前試験勉強
みんな頭良いです。
「だから、三国干渉はロシアとドイツとフランスだって。中国って何? バカなの? 死ぬの?」
「さらなりは現代語訳で言うまでもないって意味だよ? ほら言ってみて? 凰花ちゃんが可愛いのはさらなり!」
「あーもう、うるせぇな天才ども! なんでお前ら、同じ授業受けてるはずなのに、そんなに賢いんだよ!」
「いや、先生授業中に言ってたし……」
「教科書に書いてあったから……」
「……あーもういいよ、OK。分かった……」
二人の天才に挟まれている俺は何をしているかと言うと、中間考査に向けて、絶賛テスト勉強中だ。
事の発端は昨日に遡る。
江永の部屋を出て、エレベーターで1階まで降りた後。
「明日の予定って何かあるの?」
「明日か、まぁ学校はないだろうし、素直に一斉送信メールに従ってテスト勉強でもするかなぁ」
「ふーん、そっかぁ。私、暇になっちゃったなぁ」
「そうか、たまにはゆっくり休めよ。またな」
ホテルから立ち去ろうとする俺の前に、凄い勢いで凰花が立ち塞がる。
「ぬぉっ!」
「私、暇になっちゃったなぁ……」
手を後ろに組んで、上目遣いでチラチラとわざとらしく、何度も見てくる。
ホテルの医務室で応急処置はしてもらったものの、今日は相当ダメージを負ったから早く家に帰って休みたいんだが。
「わーたーし、暇になっちゃったなぁ!」
「……凰花も明日、一緒にテスト勉強するか?」
「うん! する!」
根負けした。こうでもしないと、家の前まで同じ動きを彼女がしそうだったから。
それに凰花は優秀だ。テスト前の丁度良い機会だし、分からない所を教えてもらおう。
その後、また学校から一斉送信メールが届き、次の学校の再開は中間考査当日ということになった。その際の試験範囲の大幅な短縮もPDFファイルで合わせて送られてきた。短くなった試験範囲だが、俺はいつもと違い、今回は大幅に準備が足りていない。凰花に少し、助けてもらうか。
「また明日ね!」
「おう」
そして、今に至る。
今、こうしてホテルの部屋の一室を借りて、天才二人と俺の三人はテスト勉強に勤しんでいると言うわけだ。ちなみにムクは、江永さんとの顔合わせも兼ねて呼んだ。
「ねぇ、南くん。ピザとピッツァの違いって竈で焼いたかどうかなんだって!」
「へぇ〜そうなんだ〜」
「お前ら勉強しろよ……」
凰花はベッドに寝転んで、スマホをポチポチ。ムクは椅子に腰掛けて、分厚い求人誌をパラパラと捲っている。
結局、真面目に取り組んでいるのは俺だけと言う有様だ。
ふと思い立った時に、二人は俺のすぐ近くまで来て、何か小馬鹿にして元の作業に戻るが、基本は三時間ほどずっとこの調子だ。
「なぁ、ムクが優秀なのはよく知ってるけどさ、凰花、お前はテスト大丈夫なのか?」
「凰花ちゃんは大丈夫でしょ」
「何でムクが知ってんだよ」
「前に友達から、うちの学年1位は凰花ちゃんだって、教えてもらったから」
「はぁ!?」
俺はシャーペンを乱暴に机に置き、ムクに振り返る。ムクは微動だにせず、ずっと求人誌から目を離さない。
こいつ中学生なのに、バイトでもする気かよ……というか、そんなことより、凰花が学年1位って本当か?
俺は立ち上がり、今度は寝転がって、スマホを見てる凰花に目線を向けた。
「……凰花、さっきの話ってマジか?」
「うん」
軽すぎる。テスト直前のこの時期に悠々とスマホを弄ってるこいつが学年1位だと。
衝撃が隠せない。俺の中の何かが揺らぎそうだ。
「マジ……かよ」
「そんな驚くとこかなぁ。それにテストの順位ってそこまで大事じゃないでしょ?」
やはり強者は言うことが違う。ムクもムクで「そうだよねー」と相変わらず、視線を移さず、適当な相槌を打っている。
ちなみにムクは学年2位だ。つまり、俺はテスト前のこの時期に学年1位、2位と同じ部屋にいると言うことになる。急に部屋の空気がまずく感じてきた。
「けど、鶫くんも前回11番だったんでしょ? 十分じゃん」
「そうなんだ。背番号と一緒って、鶫らしいね」
換気をしようと窓を開けようとする俺に、さらに追い討ちが掛けられる。
「あーもういいよ、喋るなお前たち」
クスクスと笑う凰花とムク。
俺だけが確実に要らないエネルギーを消費した。
ノックの音が3回部屋に響き渡る。
「どうぞ」
俺の声で江永が入ってきて、凰花がうつ伏せで横たわるベッドに腰掛けた。
俺とムクはそれぞれ、江永と相対する形で同じように座った。
江永の実年齢は分からないが、見た目は大学生のように若い。
相変わらず凰花は横になったまま、スマホの画面を忙しなくスクロールして、何かSNSでも確認しているようだ。
俺とムク、そして江永の三人はベッドに腰掛けて向かい合っている。側から見れば、修学旅行の夜に仲良く談笑するクラスメイトのように見えるかもしれないが、もちろん本質は違う。
「ところで若人たちよ、試験勉強は順調かい? 学生の本分は勉強にあるからね」
何が学生の本分は勉強だよ。中学生をこき使って、テロの片棒を担がせようという連中の言うことじゃない。
ムクが親指を立てて話す。
「もちろん順調ですよ、バッチリです」
「嘘つくな。これのどこが順調なんだよ」
江永が参考書が並べられた机、広げられた求人誌、寝転がる凰花を順番に見ていく。
「うん。順調そうで何よりだ」
駄目だ、この人。多分、この人も少し、いや、だいぶ色々とズレている。
この光景のどこが順調なんだよ。俺の机以外、間違いだらけだろうが。
ただ、これくらいズレておかしくならないと、真面目に国家転覆も狙わないんだろうな。
「それで俺たち、いやこの場合は俺だけか、絶賛テスト勉強中なんだが、どうした?」
「いや、君たちに次の課題を与えようと思ってね」
神妙な面持ちで俺らに告げるその一言は、福音ではもちろんない。かといって、教師が出す、ぬるい課題でももちろんない。
この場にいる俺たち以外の、きっと誰かを不幸にするそんな課題。
「そう怖い顔をするなよ。鶫くん、君は過去二回に渡って、私の期待に応えてきたんだよ? 十分に誇っていい」
「……早く言え、次に俺は、俺たちは、何をすればいい?」
「そうだな、次はね……」
江永が両手を合わせる。
「学校を機能できなくして欲しい」
「それって、校舎を破壊しろってことですか?」
「それは違う。校舎は実に多機能で、これからの時代でも、ずっと有用な建築物だ。破壊するだなんて、勿体無い」
間髪入れずに話すムクに、言葉を返す江永。
機能できなくか、前回の“消す”と言う言葉よりも、さらに広い解釈を取ることができる。
「期限はいつまでだ?」
「だいぶ強気でいいよ。できないだなんて、微塵も考えないその姿勢、素晴らしいね。どのくらい欲しい?」
「そうだな……」
頭の中でいくつもプランを組み立てる。
どれも脆い。まるで再現性がないものばかりで辟易する。
それでも頭をフル回転させて、再現性が最も高いものが思い当たる。
ただそれは、最も再現性が高いと同時に最も残酷な方法に他ならない。
「答えは出たようだね。聞かせてもらおうか」
「……夏休みまでだ。それまでに決着をつける」
「そうか。それまで気長に待つとしよう。それと凰花」
「はーい」
「何か援助が欲しかったら、今後はスズメに言ってくれ」
「分かりましたー」
江永が立ち上がり、俺らに軽く手を振り去る。
彼が出るのと同時に、小柄な女性が入ってきた。江永の腰から少し高いくらいの女性。
「スズメさん、そういうことだからよろしくね」
「承知しました。凰花様、今後ともよろしくお願い申し上げます」
声音も凄く幼い印象を受ける。
まさかだが……。
小学生か?
学生の本分は勉強です!




