新術完成
いつもご訪問ありがとうございます!
レイナルドの悲願というべきか、彼がずっと取り組んでいた新術の術式が完成した。
レイナルドによりほとんど完成寸前にまで構築されていた術式に、フィリミナが回復魔法を基礎に構築し直した術式を組み合わせ、見事望む効果を生み出す術式を完成させたのだ。
新たなる魔術の誕生である。
フィリミナとレイナルド、そして開発に協力してくれた数名の職員と共に成功の喜びを分かちあった。
後はその新術を魔法省内の検証委員会に掛け、問題なしとされれば魔術として登録する事が出来る。
そこで初めて使用が認められるのだ。
新術の権利は魔術師協会に登録後、魔法省に移行される。
今は新術検証が少ない時期らしいので比較的直ぐに結果が出て、認可が下りるだろうとレイナルドは言った。
その間もレイナルドは彼の同期のとある職員と秘密裏にジョシュア=ハリスの調査を行っていた。
何もしていないリゼットがこれ以上レイナルドの頭を悩ませるような発言をして良いものかと思ったが、なんでも相談するという約束をしたのだから仕方ない。
おそらくジョシュア=ハリスであろうと踏んでいる十三年前に起きた魔力強奪事件。
その被害者の一人であるリゼットが、自衛の為に喪失した記憶の中に重要な事がある気がしてならない事を全て伝えた。
「何か重大な記憶の欠落?」
「そうなの。あの時、魔力を奪われた時……何かを見たような気がするの。忘れてしまいたくなるような、そんな何かを」
「リゼはその欠落した記憶に犯人逮捕の鍵があると考えてるんだね?」
「多分。でも何だろう?何を忘れていると思う?やっぱり犯人の容貌?」
リゼットにそう訊かれ、レイナルドは思考を巡らせながら答える。
「その可能性が一番高いとは思う……けど、それだけではないようにも思える」
「レイもそう思う?」
「……リゼが本当に望むなら、記憶をサルベージする方法もあるんだ」
「記憶を……サルベージ?」
魔力を体内からサルベージ方法があるのは知っている。
でも記憶まで引き上げられるのは聞いた事が無かった。
「以前、殺人事件の証人が殺されて、その証人の記憶を保存されていた証人の証人から記憶を引き出すという事例があったんだ。その時に記憶のサルベージ方法が試みられ成功した。“記憶喪失”と言うけれど、本当に記憶が脳内から消えてしまう訳じゃないからね。頭の中のどこかにある記憶を見つけ出し、引き上げるという方法だ。そしてそれが証拠として公に認められている」
そこまで言って、レイナルドはリゼットをじっと見つめた。
その意味ありげな瞳にリゼットが問う。
「レイ、なに?」
「……でもそれが本当にキミにとって最善なのか、よくわからないんだ。事件解決の為には一番良い方法だとはわかるけど、それによりリゼの精神が傷付かないかそれが心配なんだ。手放してしまいたくなるほど怖かった記憶をわざわざ呼び戻さなくてもいいんじゃないかと」
魔法省の職員としてなら、多少の犠牲は覚悟の上で事件解決に取り組むべきなのだろう。
だけどレイナルドの行動の基本理念は全て妻であるリゼットを守る為にある。
そんな彼が不安に思うのは無理からぬ事だ。
そんなレイナルドにリゼットは小さく微笑んだ。
「レイが一緒なら、きっと大丈夫だと思う。……そばにいてくれるんでしょ?」
リゼットのその言葉を聞き、レイナルドは頷いた。
「もちろん。もちろんだよリゼ。……ああ…なんで今、リゼはフィリミナなんだ。おかげで手を握る事も抱きしめる事も出来ない」
悔しそうに言う夫にフィリミナは冷静に返す。
「そんなところを誰かに見られたら、今度はフィリミナとオシドリ夫婦だと言われちゃうわよ?」
「……それは二度とごめんだ。普通に接していても行動を共にする事が多いだけであんな風に言われるなんて」
「ふふ」
レイナルドが心底忌々しげに言うのを見て、今は仕事中でフィリミナの姿をしているリゼットがまた笑った。
「とりあえず記憶のサルベージの件も預からせてくれ。色々と協力を要請してる同期は特務課に籍を置いてる奴だからそちらの方も相談してみるよ」
「うんわかった。よろしくね」
そしてそれからほどなくして新術の認可が降りた。
その事とジョシュア=ハリスの調査結果と合わせて対策を練りたいと、
レイナルドに協力してくれていた同期の友人…とやらと会う事になった。
終業後にその同期とやらが指定した店へとレイナルドと共に向かう。
今日はリゼットとして会うのでフィリミナの変身は解いていた。
指定された店は小ぢんまりとした東方の国の料理を食べさせてくれる小料理屋であった。
店内に入り予約していた旨を伝えるとすぐに“ザシキ”へと通された。
靴を脱いで室内へ入るなど初めての経験だ。
“タタミ”という、室内に一面張り巡らされた分厚い敷物の上に設置された足の短いテーブルに合わせて直に座るのも生まれて初めて。
まあ直といっても、お尻と足が痛くならないように“オザブ”という平べったいクッションの上に座るのだが。
リゼットは物珍しさにキョロキョロと辺りを見回していた。
その時、“ナカイサン”という店員が告げてきた。
「失礼いたします。お連れ様が見えられました」
“ショウジ”という扉にしては何とも頼りない物の向こう側から“ナカイサン”がそう言い、“ショウジ”を開けた。
レイナルドが立ち上がり、“ナカイサン”が言った“お連れ様”を出迎えた。
もちろんリゼットも立ち上がる。
「モンドノスケ、わざわざすまなかったな」
レイナルドが“モンドノスケ”と呼んだその相手と握手を交わす。
相手は肩を竦めてこう言った。
「まぁお前さんには新人研修で散々世話になったからなぁ。それに今日はただメシが食えるんだろ?」
「ふ、お前は相変わらずだな。ああ。今日は一連の礼も兼ねてたらふく食ってくれ」
「やった。ちょっと前に東和で祝言があって、ご祝儀やら何やらで懐がスッカラカンなんだよ」
現れたのは黒髪に黒い瞳の長身の男であった。
東方人なのは間違いないだろう。
じっと見つめるリゼットにレイナルドが言った。
「リゼ、紹介するよ。彼の名はモンドノスケ=キリュー。準職員だけど俺の同期で新人研修で同じ班だったんだ」
「おっとレイナルドのご内儀ですかい。桐生主水之介です、以後お見知りおきを」
そう言って力強い大きな手を差し出してきた。
リゼットはその手を握って握手を交わした。
ーーなんか……怖い雰囲気の人が来た……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レイナルドの同期で友人というのは主水之介でした☆
ちなみにレガ氏とハルジオは高官候補なので新人研修は別枠だったそうな。
モンドノスケ=キリュー?桐生主水之介?っておま誰やねーんと思われたそこのあなた、
是非作者の拙作「さよならをあなたに」をお読み頂けますと光栄にございます。
もちろん、読まなくても本作には問題ありません。
(≧∀≦)♪
誤字脱字報告、ありがとございます!