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「ねぇ、どうして私だとわかったの?私の変身魔法は上級魔術師試験の監督官でも見破れなかったのよ?」


夫レイナルドにフィリミナ=ハリスに成りすまして勤めている事がバレていると知ったその日の夜、リゼットは変身を解いてレイナルドと夕食を共にしていた。



「俺がミス・ナンオイザウにキレかけた時、魔力を使って窓を開けただろう?その魔力がリゼットのものだと直ぐに分かったんだ。変身魔法を使っているのだろうと思ったから、この中の誰なのかを消去法で考えていって、残ったのが新しく入って来たフィリミナ=ハリスだろうと当たりをつけた。あとは書類を渡してくれた時に話し方と歩き方で確信した」


「なんてことなの。魔力も上手く隠せていたと思ったのに」


「いや実際巧みに隠せていたよ。でもやっぱり目の前で魔力を使われると、俺には分かるよ」


「どうして?」


「リゼの夫だから」


「夫恐るべし……」


「あはは。これで論文が一本書けそうだ。

“妻の変身魔法は愛する夫の前では通用しないという事例の考察と立証”というタイトルにしようか」


「どうぞ幾らでも書いてください」


「ぷっ……まぁそれは置いといて。さて?聞かせて貰おうか?どうして領地にいるはずのキミが、他人に変身して魔法省に勤めているのかを」


「はい……ご説明いたします」


リゼットは事の経緯を包み隠さずレイナルドに打ち明けた。


「そうか……うん、お義父さんならやらかしそうだ。それにしてもそんな昔の貸しを今になって言ってくるとは…ハリス部長、明らかにいつかそれを利用するために取っておいたんだろうね」


クロウ子爵家(ウチ)なんて、よく利用しようと思えたわね」


「これはあくまでも仮説だけど、リゼが高魔力保持者として生まれて来た事を、ハリス部長は早々に聞きつけていたんだろうね。それでいつかそれを利用しようとあえて借金を放置した」


「どうやって知ったのかしら?」


「交友関係があったなら不思議な事じゃないよ。共通の友人から聞いた可能性も大いにあるしね」


「なるほど」


そう言ってリゼットは自身が注文したカツレツを口に運んだ。

お肉が柔らかくサクサクの衣と相まって最高の美味しさだ。

トマトベースのソースの酸味と甘味がカツレツの香ばしさをより引き立てている。

塩加減も絶妙だ。

このレストランのシェフ、やりおる……とリゼットは口の中では舌鼓、心の中では腹鼓を打った。


「まぁ正直リゼをいいように使われるのは気に入らないけど、引き受けたからには続けるしかないか……後はフィリミナ(本物)が早く完治して戻って来てくれる事を祈るしかないね」


「そう、ね……」


だがジョシュア=ハリスを容疑者として色々と調査をするとなれば魔法省からまだ離れるわけにはいかない。だから本人に帰って来て貰うのは困るのだ。


カツレツを食し終わるまでリゼットは大いに悩み、そして付け合わせの綺麗なパセリまで全部食べ終わる頃にはやはりレイナルドに話そうと決断した。


「あのねレイ、まだ疑惑の段階なんだけど……」


フィリミナはそう前置きを置いてからレイナルドに今リゼットが抱いている疑念を全て打ち明けた。


途中レイナルドはガタンッと椅子から立ち上がり、驚愕に満ちた顔をしてすぐにストンと座り直した。

そしてリゼットが話している間中、レイナルドは眉間に深くシワを刻みつつも冷静に耳を傾けていた。

そして全て説明し終えたリゼットがレイナルドに意見を求めた。


「レイはどう思う?」


レイナルドは腕を組み、依然眉間にシワを刻みつけたまま答えた。


「……まずは一つ、俺から質問させて欲しい。もし俺がリゼの変身に気付かなかったらどうするつもりだった?」


「え?」


「一人で動くつもりだった?」


「うん…まぁ、確固たる証拠が上がるまでは……」


リゼットのその答えを聞き、レイナルドは深く刻まれていたシワを解さんとするように指で眉間を押さえた。

心なしかほんの少し空気が冷んやりしている気がする。


「じゃあ聞くけど、どうやって調査するつもりだった?秘密裏に当時の事やその後の足取りを掴むなんて、捜査一課が受け持つような案件をどういう手段で一人でやろうと思った?」


「それは……データバンクを調べてみたり、当時の関係者に聞き込みをしたり……」


「聞き込みは容疑者に気取られる危険があるし、データバンクは一部の人間しか使用閲覧の許可は下りていない。それに不正にアクセスして得た情報は証拠としては受理されない」


「………はい」


「リゼ」


「ごめんなさい」


レイナルドが言わんとする事はわかる。

なんでも一人で出来ると思うのはそれは驕りだ。

それにより自ら危険に身を晒し、その結果他者に迷惑をかける事になる。


「迷惑とかはこの際考えなくていいんだ」


「え?声に出てた?」


「いや。声に出さなくてもリゼの考える事は大概わかるよ。俺が言いたいのは、自分の身の安全を一番に考えて欲しいという事だ。犯人逮捕は重要な事だけど、何よりも大切なのはリゼの安全だよ。だから一人で何とかしようなんて二度と考えないで」


「……ごめんなさい」


レイナルドの言う通りだ。

リゼだって、レイナルドに何かあったら必ず話して欲しいし頼って欲しい。

自分の知らない所で危険な目に遭っていたらとか思うと心配で堪らなくなる。


「レイ、ごめん、本当にごめんなさい」


自分の浅慮さが情けなくなった。


珍しくしょぼくれるリゼットを見て、レイナルドはため息をひとつ吐いた(のち)、言った。

柔らかな優しい声で。


「分かってくれたならもういいよ。一人で突っ走らないと約束してくれたらそれでいい」


「うん、約束する。これからは絶対に一人で無茶しない」


その言葉を聞き、レイナルドは満足そうに頷いたのだった。


ナイスなタイミングでデザートが運ばれてきた。

レイナルドはレモンのグラニテとエスプレッソ。

リゼットは数種類のフルーツが載ったパンナコッタと温かい紅茶だ。


二人で食事なんて久しぶりで、本当に嬉しい時間を過ごした。


そして帰り際、レイナルドはリゼットに言った。


「ジョシュア=ハリスの捜査はおそらく被害者であるリゼの疑念という理由だけでも充分可能だと思う。十三年経っても犯人逮捕に至っていない事実は魔法省にとっても目の上のたんこぶだしね」


「どうする気なの?」


「まぁ任せて。同期のツテがあるんだ」


「?」


訝しむリゼットに、レイナルドはただ笑みを浮かべただけであった。



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