4話 水着とプールとトラブルと。
何だかんだで前の話から2年経っていました。時間が過ぎるのが早いですね。っと、そんな冗談は置いておき、お待たせしました。最新話です。楽しんで貰えたら幸いです。
「......んっ.....あっ.....さ...佐倉...く....ん.....もう....限界...」
「茜音ー?いないのー?」
「はぁ....はぁ.....お....折原.....さ..ん...き....きつ....い」
「おっかしぃな。確かに茜音の声が聞こえたんだけどなー」
「んんっ!.....う..動かな...い...で...声....出ちゃう....から...」
「桜木ー?悠人達見つかったのか?」
「いやー?見つかってない」
「先にレストランに行ったんじゃねぇのか?」
「うーん、こっちから聞こえたんだけどなー」
「いてもいなくてもその内出てくるだろ。行こうぜ?俺、腹減ったし」
「はぁー、仕方ない。今回は中村の提案に乗ってあげる」
「何で仕方なくなんだよ!」
「別にー」
「ご、ごめ....ん...俺の....せい...で....こんな事に」
「だ、大丈夫.....私の方....こそごめ....んね」
そう、俺は今、折原さんと一緒にクローゼットの中にいる。何処かで読んだ気がする漫画みたいなシュチュエーションだった。向き合って密着していて、俺の脚が折原さんの太ももの間に挟まっており俺が動こうとする度に、男子高校生にはかなり刺激が強い声が近くで聞こえて来る。しかも折原さんは上は何も着けていないのだ。なので、ダイレクトに折原さんの柔らかい物体の感触が俺の体に伝わってくるのだ。隠れてからどれくらい経ったのだろうか、とにかく暑い。俺と折原さんは汗をかいていた。こんな状況とはいえ目の前の折原さんはかなり色っぽい、更に時折聞こえてくる息づかいも相まって俺は色んな意味で限界が近かった。二人が部屋から出て行った事を音で確認し俺と折原さんは勢いよくクローゼットから飛び出した。
「はぁ.....はぁ.....お....折原さん、大丈夫?」
「う、うん.....はぁ...はぁ....だ...大丈夫だよ」
「折原さん...たてっ!?」
手を貸そうと振り向いたら無防備な折原さんと目が合った。それに不可抗力とも言うべきか折原さんの、何と言うべきか、二つの立派なたわわを見てしまった。目のやり場に困った俺は焦り顔をそらすことしか出来なかった。そして、自分の姿に気付いたのか折原さんは顔を真っ赤にして咄嗟に胸を隠して俯いた。
「み、見た?」
「ち、違うんだ!け、決して!そんなつもりは!」
かける言葉が見当たらずそんなことしか言えなかった。見てない!神に誓って俺は見ていないぞ!.......ごめんなさい、少し見ちゃいました。だって!これは不可抗力という奴だ。俺は見たくてみたんじゃない!これは事故だ。そう自分に言い聞かせた。しかし、折原さんにとっては恥ずかし事この上ないだろう。プルプルと震えている折原さんに「大丈夫?」と声をかけようとした次の瞬間「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」と折原さんの叫び声と共に手が視界に映ったかと思うと次の瞬間、視界がブレた。
「へぶっっ!?」
「あっ....さ、佐倉君!佐倉くーん!」
一瞬何が起きたか分からなかった。頬にじわじわと痛みが現れ、平手打ちを食らったんだと気付いた。折原さんが近づいて来て、心配そうに俺を見ている。薄れていく視界と共にあぁ、なぜこんな事になったのだろうと後悔をしながら意識が途絶えた。
...............................
遡ること数時間前。目的地に着いた俺と裕人はその敷地内の広さにびっくりしたが、執事の高木さんに案内された目の前に見えるホテルにもびっくりした。入り口にはこのホテルの従業員と思われる人達が何人も並んでいて俺達を歓迎してくれた。中に入っても本当にレジャー施設にあるホテルか?と疑いたいくらい並の高級ホテルより豪華だった。ロビーは広く、待ち合わせ用のソファーがいくつもあり落ち着いた茶色系でどれもシンプルかつアンティークな雰囲気があり高そうだった。天井も高く、立派なシャンデリアがいくつもぶら下がっていた。正面にはフロントがあり受付の人が二人立っていた。そこまで案内されると。
「ようこそいらっしゃいました。茜音お嬢様、佐倉様、桜木様、中村様、お待ちしておりました」
「え、えーと俺達、ホテルに泊まる予定は無いんですが」
「私が頼んでおきました」
「高木さんが?どうして?俺達、そんなにお金持って無いですよ」
「いえ、お代は頂きません、ご安心を。ルームサービスなど、その他サービスもご利用頂けます」
「そんな、そこまでして頂かなくても」
「いえ、これは茜音お嬢様からの提案でして。日頃お世話になっている級友の方々にお礼がしたいと」
「ちょっと!?爺や、言わないでってあれ程言ったのに!」
「これは、失礼致しました。しかし、言っておかないと納得しないと思いまして」
「もぉー爺やってそういう所は昔から変わって無いんだから」
「それは、お嬢様も一緒では?」
「爺やー?」
「おっと、これ以上は。そういう事ですので、どうか当ホテル及びレジャー施設をお楽しみ下さいませ。何かあれば私か、全施設の従業員に言って頂ければ、対応致します」
「悠人、そういう事なら楽しもうぜ!」
「中村のくせにたまには良い事言う〜」
「桜木はいつも一言余計なんだよ!」
またこの二人は。数分前にも言い合っていたのに、またここでも言い合いをしている。本当に飽きないなと思い、やれやれと言わんばかりに頭に手をあて首を振った。その際にふと折原さんの方を見ると、頬を指でかき照れた様な仕草を見せた後、微笑んだ。またしてもその顔にドキッとした。自分でも何回ドキッとするんだ、とそんなツッコミを言う余裕は今の自分には無かった。そういえばルームサービスがどうとか高木さんが言っていたが、部屋の鍵以前に部屋番号すら知らなかった。すると、フロントの人から。
「佐倉様、お部屋はどう致しますか?スイートルームにご案内する様に言われておりますが、人数分ご用意させて頂くことも出来ますが」
「あ、いえ、一つで大丈夫です。泊まるわけじゃ無いんで」
「そうだね、荷物置くくらいだもんねl
「えーあたしは泊まってもいいけどなぁ〜」
「今度、泊まりにくればいいんじゃねぇか?」
「たしかに!いい提案するじゃん!」
「騒がしくてすいません。そういうことなので鍵貰ってもいいですか?」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
この時、部屋を二つ借りておけばあんな事にはならなかったのに。と思う筈もなく俺は躊躇わずそう言った。それを聞いたフロントの人がカタカタとパソコンに何かを打ち込み、[1101]と数字が書かれたカードを渡された。
「こちら人数分のカードキーになります。このカードキーは当ホテルを含めた全ての施設のサービスをご利用頂けます。ドアはオートロックになっておりますのでくれぐれもお気をつけ下さい。それと最後に、只今プールエリアにある更衣室が工事中でして着替えの方は大変申し訳ないのですが、お部屋の方でして頂くことになります」
「中村達にはお風呂場とかで着替えさせればいいでしょ」
「真央ちゃん、流石にお風呂場は可哀想だよ」
「いいの、いいの」
「俺らの扱い雑じゃね?」
「何?女子にお風呂場で着替えろって言うの?」
「そうは言ってないだろ」
「まぁ、桜木達の方が色々と時間が掛かるから別に大丈夫だ」
「流石、悠人!どこぞの中村とは違い話が早くて助かる!」
「俺を見るな!俺を!」
「夫婦漫才してないで行くぞ」
「「しとらんわ!!」」
「息ぴったりじゃないか」
「ふふっ」
何回目になるか分からないやりとりを横目にフロントから右に真っ直ぐ行くとエレベーターがあり、それに乗り目的の階である11階に向かった。渡されたカードキーで部屋に入った。もう、驚かないだろうと思っていたがまたしても驚いてしまった。まず目に入ったのが廊下だ。広く豪華な絨毯が敷かていた。入ってすぐの右側の部屋は衣装部屋とその隣は寝室になっていた。左側は、バスルームとトイレだった。奥は広いリビングやキッチンに大きな冷蔵庫、壁の中に埋め込まれた大型のディスプレイ、クイーンサイズのベットに広いバルコニーとプールまであった。ずっとここに住んでいたいくらい豪華で完備された部屋だった。
「「ひっろっ!!!」
「何回、同じ様な反応すんのよ」
「いや、どれも想像以上だから」
「逆に驚かない方がおかしいぜ」
「あたしはもう、とっくの昔に慣れてるから」
「何でだ?」
「茜音とは幼馴染だもん」
「折原さんと桜木が!?聞いてねぇぞ!」
「中村には言ってないからね」
「悠人は知ってたか?」
「まぁ、俺も今日知った」
「俺だけ仲間はずれかよ」
「とりあえず、着替えるから。違う部屋に行ってて」
「あいよ。悠人、俺達も他の部屋で着替えようぜ
「そうだな」
俺達は衣装部屋の隣にある寝室で着替えた。服を脱いで下に水着を着るだけなのでそれ程時間はかからなかった。折原さんと桜木達は色々とやる事があると思うので裕人と時間を潰す為にベットに座り話をしていた。
「なぁ、悠人」
「何だ」
「折原さんの事好きだろ」
「なっ!?ゴホッ!!....ゴホッ!!い、いきなりなにを!」
「何となく、そんな気がしただけだ」
「な、何となくって、裕人こそ桜木の事好きだろ」
「なっ!?な、何でわかんだよ!」
「その反応といい、普段のやり取りである程度予想はつく」
「ま、まぁ悠人の言う通りでさ、好きなんだ....桜木の事」
「桜木とは今年からだろ?一緒のクラスになったの」
「あぁ、実は1年の頃に知り合ってさ、何度か下の妹達の世話をしてくれてな」
裕人に妹と弟がいるのは知っていたが桜木と裕人が1年の時に知り合っていたのは初耳だった。桜木は普段あんな感じだが、実はかなりしっかりしていて迷子の子を助けたり、面倒見が良く小さな子に好かれているのを何度か見ていたので納得した。
「で?桜木の何処を好きになったんだ?裕人さんよぉ〜」
「や、やめろって!肘で突っつくなよ」
「まぁ、俺は応援してるぜ。友達だからな」
「へへ、ありがとな。悠人」
そこからは気恥ずかしくなり、話題を変えて話をしていた。暫くして部屋の扉がノックされた。折原さん達だろうと思い扉を開けた。案の定水着に着替えた桜木とその後ろには隠れる様に折原さんがいた。
「中村、どーよあたしの水着姿」
「どうって、似合っていると思うぞ」
「もっと他に言う事あるでしょ?」
「いや、何というか、水着が似合っているのは勿論、髪型も普段とは違い凄く似合っているぞ」
「そ、そう.....。な、中村にしてはまぁまぁの感想ね」
いつもなら怒りそうだが今回の反応は違った。顔が少し赤くなっている気がしたが俯いていてよく分からなかった。裕人は特に気にする様子も無くいつも通りだった。にしても、女子の水着姿を見ても動揺する事なく桜木と普通に話している。本当に男か?と少し疑いたくなったが楽しく話している様子を見ていてそんな事はどうでも良くなった。
「意外と桜木って腹筋あるんだな」
「ま、まぁね、そう言う中村も...えいっ」
「ちょっ!?くすぐったいから!や、やめろ!!」
「えー良いじゃん減るもんじゃないし」
何だ、急にイチャつき始めたぞ。これで本当に付き合ってないから驚きである。それにしても桜木の水着は赤いシンプルなビキニタイプだった。普段、制服を着ていてあんまり分からなかったがモデル並みの体型だった。細過ぎず太過ぎない体のライン、程よく鍛えられた腹筋に健康的な肌色、どれをとってもモデルやグラビアに引けを取らないくらいだった。それに、赤のシンプルな水着だからこそなのか、より桜木の体型を際立たせていた。対して折原さんは何故か上にパーカーを着て前を締めていた。
「あれ?折原さん、水着は?」
「え?も、勿論、ちゃんと着てるよ?」
「茜音ってば悠人に「水着見せるの恥ずかしい」って言ってね、茜音もスタイル良いのに勿体ない」
「ま、真央ちゃん!?い、言わないでって言ったのに!」
「えー良いじゃん、どうせ見せるんだから、悠人も茜音の水着姿見たいっしょ?」
「え!?お、俺!?」
「さ、佐倉君は、ど、どう思う?み、見たい?」
な、何だこの状況!どうしてこうなった!確かに折原さんの水着姿は見たい、いや、かなり、結構見たい!これが目当てと言っても過言ではない。あの折原さんの水着姿が見れるんだぞ?学校の全男子の憧れでもある折原さんの水着姿!何故、憧れかと言うと、俺が通っている高校はプールが無い。それ故に水泳の授業が無いのだ!毎年この季節になると嘆く男子がちらほらいる。それだけ憧れなのだ!しかし、今!俺は折原さんの水着姿が見れる状況にいる。ましてや、学校指定の水着ではなく折原さんの自前の水着姿!見たいと思わない訳が無い。正直、スク水の方も見たいが。しかし!今は、そんな事を考えている場合ではない。緊張か分からないが汗が滴り落ちた。ゴクッと唾を飲み込み俺は意を決して尚且つ気持ち悪くならないように言う事を決めた。
「せ、折角、着たんだし、み、見てみたいなぁ〜折原さんの水着姿」
「さ、佐倉君がそう.....言うなら....」
所々噛んでしまい、かなり気持ち悪い言い方になってしまった気がするが、気にしないでおこう。折原さんもそれどころでないのか、それとも気にしていないのか分からないが、着ているパーカーのチャックを下ろして脱ぎ始めた。何故か見てはいけないもの見ているみたいで自分の心拍数が上がっているのが分かった。折原さんがパーカーを脱ぎ終わるとそこには全男子が憧れるであろう光景があった。少し恥ずかしそうにしている折原さん、それだけでも十二分に可愛いのだが何よりも折原さんの水着姿を間近で見ているという現実がそこにはあった。シンプルなワンピースタイプの水着でワンポイントで可愛いフリルが付いていた、色は天使のような純白な白、折原さんのイメージにぴったりだった。それを引き立たせる美しく艶やかな黒髪。桜木の時もそうだったがシンプルだからこそ引き立つものがあるのだろうか。とにかく可愛いのは確かな事実だった。折原さんも桜木に負けないくらいスタイルが良く、髪型はハーフアップで桜木より色白い肌が何よりも眩しかった。後、胸が大きかった。
「ど、どうかな?変.....かな?」
「ぜ、全然!すごく似合ってるよ!」
「えへへ、ありがとう」
「じゃ、行こっか」
「あれ?裕人は?」
「あそこ」
桜木に指された方向に目を向けるとそこには、死にそうな顔をした友人がベットに横たわっていた。桜木にやられたであろう友人に手を合わせ部屋から出ようとすると。後ろから声が聞こえて来た。
「おい!勝手に人を殺すな!!」
「おぉ、蘇ったか」
「だから、死んでねぇ!!」
「冗談だよ、行こうぜ」
「悠人ってたまに冷たいよな」
「確かに俺は冷え性だが?」
「そう言う意味じゃねぇ!」
「何してんのー!置いてくよー!」
「「今、行く!」」
..............................................
プールがある施設に来た俺達はまたもやその広さに驚いた。温水プールは勿論、小さい子向けのプールや流れるプール、練習用のコース、飛び込み用まで様々な種類のプールが完備されており小さい子から大人まで楽しめるプールになっていた。中でも特に目を引くのはウォータースライダーで、高さ30メートルくらいで全長はかなりの長さがある事は分かる。筒状が右、左に曲がっており時には螺旋状になっている所もあり、人によってはかなり酔うものだという事が一目で分かる。他にも色々なアトラクションや軽食屋もあった。
「おい!悠人!何だあのウォータースライダーすげぇー!」
「どれから遊ぼうかなー!」
「2人共待て。準備体操をしていないだろ」
一目散に遊びに行こうとする裕人と桜木の肩を掴み静止させる。小学校とかで散々言われたと思うがマジで準備体操は大事だ。最悪、命を落とす危険だってある。俺は二人に体操する様に促した。
「てへ、テンションが上がって忘れてた」
「危ないし、ちゃんとやらないとな」
「じゃあみんなで体操してから楽しもうね!」
「「「おーーー!!!」」」
係員は当然至る所にいるが、だからと言ってやらない理由にはならない。入念に俺達は準備体操をした。俺はチラッと、隣に居る折原さんを見た。見れば見るほどその水着姿に引き込まれていた。すらっとした手脚、暑さで少し汗ばんだ肌、綺麗な横顔、汗で髪が顔に張り付いてそれを耳にかける仕草、その一挙手一投足はまさに絵画の様な美しもあり照明の光で更に神秘的に見えた。俺の視線に気が付いたのか折原さんと目が合った。今にも吸い込まれそうな綺麗な黒い瞳が俺の視界に写る。折原さんは首を傾げ不思議そうにこちらを見ていた。んん!!なんて可愛らしいんだ!狙っている様で狙っていない自然な動作、混じりっけ一つない天然の小悪魔か何かなんだろうか。
「ん?どうかしたの?」
「な、何でもないよ!そ、それより、体操終わったからみんなで遊ぼうか!」
「悠人、ウォータースライダー行こうぜ!」
「さんせーい!」
「いきなり、あれ行くのか!!」
「ずっと気になってたし、ほら!茜音も行くよ!」
「え!?ちょ、ま、真央ちゃん!?」
.........................................
例のウォータースライダーにやって来た俺はその高さに絶望した。当たり前だが、下から見た時と上から見た時とは見える景色が180°違う、のだが!流石に舐めていた。ウォータースライダー、見た目からして水が流れている滑り台みたいなもんだろ。と勝手に思っていたが、今改めて見ると筒状になっており、当たり前だが滑り台みたいに景色が見えないのだ。後、かなり流れが速い。筒状の中を高速で滑るのに加えて先が見えない恐怖、男でもこれは怖いと思ってしまう程だ。しかし俺に退くという選択肢は無かった。何故なら、折原さんにカッコ悪い所を見せられないからだ。この状況、はい。かYES 。しか選択肢が無い以上、漢を見せるしかなかった。滑るのに躊躇していて固まっていた俺の後ろから裕人の声が聞こえた。
「で、誰から滑るんだよ、ジャンケンで決めるか?」
ナイスだ!裕人!これで少しは心の準備ができる。折原さんにかっこいい所を見せようと焦っていたがまだ、誰が先に滑るか決めていなかったのだ。ここで、1番以外を回避すれば多少は心に余裕ができるだろう。
「負けた人から滑るで、良いよね?」
「あぁ、良いぜ!」
「俺も異議なしだ」
「ま、負けないよ!」
「「「「ジャ〜ンケ〜ン」」」」
「「「「ポン!!」」」」
「だぁぁぁ!!!俺から!?」
「はい、1番は中村に決定」
「裕人、死ぬなよ」
「中村君、頑張って!」
「ちきしょう!何でこんな時に限って負けるんだ」
何とか1番は免れた。その後、順番を決める為にジャンケンをし桜木、俺、折原さんの順番になった。運良く真ん中になった俺は、これで少しは心の準備ができると思い胸を撫で下ろした。のだがここで予想外の出来事が起きた。1番に滑る予定の裕人が係員の指示の下、準備をしていたのだが中々滑り出さない。もしやこれは俺に心の余裕を作る時間が増えたのか!?そんな事を思っていると、桜木が順番でもないのに滑り口にいる裕人の方へと向かっていった。
「中村、何びびってんのよ。ほら、一緒に行くよ」
「さ、桜木!?ま!待て!色々と!準備が!!」
「あーキコエナイ、キコエナイ、中村は覚悟してあたしと滑るのよ」
「ちょ!あぁ!悠人ぉ!ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「イエ〜イ!!」
桜木が裕人の後ろにくっつきそのまま腰に手を回し密着状態のまま係員さんに押されて滑っていった。何と強引な。友人の断末魔がウォータースライダーの中に響き渡りやがて聞こえなくなっていった。「あぁ、あいつは良い奴だったよ」と言いたくなるが、今はそれどころではない!予期せぬ事態により俺の順番が早くも来てしまったという事だ。本来なら裕人が滑り、その次に桜木、俺の順番の筈が、裕人と桜木が一緒に滑ってしまい心の準備をする間もなく順番がやって来てしまったのだ。さっきも言った通り俺には滑ると言う選択肢しか無い以上無様な姿は見せられない!しかし、怖いものは怖いのだ。恐怖心と格好いい所を見せたいという2つの感情が行き場を無くし右往左往していた。これ以上、モタモタしている場合ではない。早く滑らなくては折原さんに格好悪い所を見せてしまうだけだ。俺は決意しウォータースライダーの滑り口に向かおうとしたその時、左腕が引っ張られた。何だ?と思い後ろを振り向いてみると折原さんだった。俺に応援を言う為に来てくれたのだろうか。それなら、いくらでも滑れる!と勝手に気合を入れていたがここでも予想外の出来事が起きた。
「ね、ねぇ。佐倉君が良かったらなんだけど....」
何だろう?俯いていて表情がよく見えないうえに後半小声で聞き取りづらかった。それにずっと左腕を掴まれたままだ。これでは滑りに行けない。折角、気合を入れて覚悟を決めたのだ、急な気持ちの変化で滑れなくなるのは避けたかった。しかし折原さんを放っては置けない。
「どうかしたの?」
「え、えーと。その」
なんだか歯切れが悪かった。折原さんも怖いんだろうか?まさか!一緒に滑ろうという提案とか?いやいや、ないない。そんな自問自答をしていた。我ながら馬鹿な自問自答だなっと心の中で笑った。何故なら意外と折原さんは怖いもの知らずである。その天然さ故なのか前に4人でスプラッター系の映画を観て怖がっていたが桜木曰くホラー系は全然怖がらないらしい。その為このウォータースライダーも折原さんにとっては大したことないだろうと勝手に思っていたら急に顔をバッと上げ涙目でこちらを見つめる折原さんの顔が映った。頭の上に!?のマークが出せたら確実に出ていただろう。何かしてしまったのだろうか、俺は何も出来ずおろおろする事しか出来なかった。そしてまさかの提案が折原さんの口から出てきた。
「佐倉君が良かったらなんだけど、一緒に滑って下さい!」
「え?」
「そ、その、い、嫌ならいいんだよ?あ、あの....ひ、1人じゃ怖くて....」
「ぜ、全然!大丈夫!お、俺も!折原さんと滑りたいと思ってたんだ!な、なんちゃって!」
「ほ、本当!!ありがとう!佐倉君!!」
勢い余って余計な事を言ってしまった。まるで俺が期待していた言い方じゃないか!ま、まぁ現にしてましたけど?そんな俺の発言など気にも止めず、ぱぁぁと、先程の顔とは打って変わり、まさに天使の様な笑顔を向けて来た。よく、朝倉達が何かのキャラを見て「尊い!」という事を言っていたが、今、その気持ちが分かった。この笑顔は尊いに.....いや、それ以上に匹敵する程だ。というか、こんな満面の笑み初めて見た気がする。確かにいつも笑顔の印象があるがここまでではない。かなり激レアな笑顔を見れたのではないだろうか?。とりあえず俺と折原さんが一緒に滑る事になり、ウォータースライダーの入り口に座って気が付いた事がある。も、もしかして!裕人達みたいに滑るのか!?気が付いた時には時すでに遅し、折原さんが俺の後ろに密着し腰に手を回し脚を広げて座った。むにゅっと水着の布越しでも分かるこの感触、そして石鹸かシャンプーの香りだろうか、程よい甘さで、それでいてキツくない香り、折原さんにぴったりな匂いだなぁっと気持ち悪い事を思ってしまった。それ程いい匂いなのだ。さっきまであった恐怖心は何処かへ飛んでいき、今は、理性を保っていられるか心配になってきた。そんな事を思っていると係員さんの合図の下、押されウォータースライダーを滑った。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!速いぃ!!」
「あははは!佐倉君と一緒だからかな。全然怖くないや!」
思ったより速い。正直舐めてました。あと、さっきより折原さんが密着している、嬉しいけど今はそんな事を思う余裕は無かった。右、左と曲がっているのは分かるが自分が今、何処を滑っているのか全く分からない。これが、かなり怖い。いつ、目の前に水が現れるのか、その恐怖がある。もう何回左右に曲ったか分からない。そしたら急に螺旋状に滑り始めた。遠心力で体が左にもっていかれる。それとかなり三半規管がやられる。遠心力と三半規管がやられるという2コンボを喰らい疲弊していると遠心力が無くなり真っ直ぐに滑り始めたかと思うと目の前に光が見えたのは束の間、勢いよく俺と折原さんはウォータースライダーの出口から飛び出た。刹那の瞬間、浮遊感を感じたが、どぼんと大きな水飛沫をあげながらダイナミック着水した。視界が水の中でぼやける中水面に顔を出し、折原さんを探した。すると「ぷはっ!!」と言いながら折原さんが少し後ろの方から顔を出した。濡れた髪をかき分け、耳にかけた。濡れた黒い髪が水面の反射でキラキラ輝いてる様に見えた。仕草と言い見た目と言い、人魚がいたらこんな感じなんだろうなぁと思わせる程その姿は艶かしく引き込まれる魔力を秘めていた。正直、さっきの事もあり心臓がバクバクだ。その状態のまま俺は動揺を隠しながら折原さんに手を貸す為に水を蹴り近づいた。
「折原さん大丈夫だった?手を貸そうか?」
「うん、大丈夫だよ!ありがとう!一緒に滑ってくれて」
「そんな、大した事じゃないよ」
折原さんに手を貸した後で、何かに気が付いた折原さんがキョロキョロと辺りを見回した。
「そういえば、真央ちゃん達何処だろ?」
「確かに」
言われてみると確かに、最初に滑った2人が見当たらないのだ。何処に行ったのだろう。そんな心配をしていると。
「ばぁ!!」
「きゃっ!!ま、真央ちゃん!?」
「おぉ、桜木」
「悠人ってあんまり驚かないよね」
「全然驚かない訳じゃないけどな」
水面から急に桜木が出てきた。驚かそうとして潜って近づいて来たのだろう。折原さんは驚いていたが俺はそんなに驚かなかった。というより、いろんな事が重なり、驚く余裕が無かったのだ。桜木の姿は今ので確認できたが裕人だけ見当たらない。
「そういえば、茜音と悠人一緒に滑って来たんだね」
「あぁ、まぁ、色々あってな、ところで裕人は?トイレか?」
「え?中村なら、ほら、あそこに浮いてる」
「え?」
桜木が指を差した方を見てみると確かに何か浮かんでいるのが見える。近づいてみると、段々とその浮いている物の正体が俺の知っている友人だという事が分かった。今にも死にそうな顔をしながら仰向けの状態で浮いていた。近づいて抱き上げ声をかけてみると。
「お、おい!!大丈夫か、裕人!」
「お...おぉ....悠人か...お、俺には刺激が強すぎ...たぜ...」
「裕人!裕人ぉぉぉ!!」
ガクッと裕人の体から力が抜けるのが分かる。そんな、お前って奴は。いつも無茶ばっかりしやがって。俺は涙をぐっと堪え友人を......リリースしてやった。すると、ばっ!と起き上がった。おぉ、生きのいい奴め。
「おい!何、魚みたいにリリースしようとしてんだよ!せめてプールから出してくれよ!」
「いや、海に帰してやろうかと、それとめん..ゲフン!ゲフン!」
「今、完全に面倒くさいって言おうとしたろ」
「いや?全然?」
何のことやら、親友に対してそんな事言うはずがないだろ。遠くで俺と裕人のやり取りを見ていた桜木と折原さんが近づいて来た。桜木に関しては、何してんだこいつらという目で見てきた。
「あんた達、何してんの?他の所も行くよ」
「他?他に何かあったか?」
「あぁ、そういえば、案内板みたいなのに色々と書かれていたな」
「そ。て事で他の場所も行くよ!」
「みんなで色々楽しもうよ!」
「「「おぉ!!」」」
特に異論は無くこの施設にあるアトラクションを周る事になった。どれも面白そうな物ばかりだった。サーフィンが擬似的に体験出来る物から水鉄砲を使い、現れたり動いたりする的を撃ち、得点を競い。得点によって貰える景品が変わってくる射的に似たゲームだったり、とにかく、どれも面白そうな物ばかりで目白押しだった。確かにこれは、幅広い世代が楽しめそうな施設だと改めて思った。それだけではなくフードコートもかなりの種類があった。今はオープン前で全部閉まっているが、見た感じ20種類以上あった。色々満喫した俺達は、時間を確認してみると12時過ぎだった。お昼には丁度いい時間でかなり動いたりしたので全員お腹が減っていてお昼にする事になった。
「昼飯どうするよ」
「フードコートは全部閉まっているな」
「あたしは、茜音に「お弁当は作って来なくいいよ」って言われて作ってきてないよ?」
「えぇ!?昼飯どうするんだよぉ〜」
「心配しないで、中村君。ホテルのレストランを予約してあるから」
「おぉ!!流石!折原さん!」
「そういう事。理由聞いても答えてくれないから少し心配したよ」
「ごめんね、真央ちゃん。みんなをびっくりさせたくて」
「それなら、かなりの回数びっくりしてるよ」
「ふふ、そしたら佐倉君、またびっくりしちゃうかも」
「そ、そんなに!?」
ここまででかなり驚いたのに、これ以上驚くことがあると思うとある意味俺の体と心、両方もつのか心配になってきた。でも、折原さんが用意してくれたので危険な物では無いのでそこら辺の心配はない。これが、桜木や裕人だと少し警戒してしまう。それから、俺達は着替える為に一旦、部屋に戻る事になった。そこである事件が起き、部屋を2つ借りれば良かったと俺は後悔をした。
.............................
「じゃあ俺、飲み物買ってくるわ、悠人も何か飲む?」
「あー、俺はいいや」
「じゃあ行ってくる」
「おう、いってら」
飲み物を買いに裕人は部屋を出て行った。部屋に戻ったはいいが、遊びの疲れがどっと体に重くのしかかった。数分間何もせずベットの上に座ってぼーっとしているだけだった。着ている水着は乾いており着替えるだけなのだが、中々体が言う事を聞いてくれない。それから何分経っただろうか、飲み物を買いに行ったきり、裕人が帰って来ない。あまりに遅いので心配なのと、俺も喉が渇いたので裕人を探すついでに自販機で何か飲み物を買う為に財布をリュックから取り出し部屋を出た。
「えーと、小銭あったかな。あっ!」
しまった。小銭を探していたら一枚落としてしまった。コロコロとリビングの方へ転がっていった。なんでこういう時に限って素直に落ちてくれないのだろうか。自販機の下や隙間に入らないだけマシだが、かなり遠くまで転がって行ったようだ。正直拾いに行くのが面倒臭い。そうは言っても財布の所持金が減るのはあまり嬉しくない。仕方ない取りに行くか。幸い俺が落とした100円玉はベットの近くに転がり落ちていた。
「よいしょっと....ん?」
ふと、左から人の気配を感じるので向いてみると、そこには、純白のショーツを履いている途中の折原さんと目が合った。完全に忘れていた、この状況をどうする事も出来ず、頭の中がパニックになり、ただ固まっている事しか出来なかった。一方、折原さんの方は驚いた表情でこちらを見ている。そして我に返ったのか顔を赤くし腕で胸を隠した。
「さ、さ、佐倉くん!??」
「あ!いや!違うんだ!これは!」
頭の中でこの状況を処理出来ず思ったように言葉が出てこない。なんとか弁明しようと言葉を絞り出そうとすればする程、逆に出てこなくなる。まずい、これは非常にまずい!ここでなんとか弁明しなければ折原さんに嫌われてしまう!これだけは何としても避けたい!しかし出てこない!
「え、えーとこれは、そのぉ」
「茜音ー?なんかあったのー?」
「なっ!嘘だろ....」
まずい、最悪の事態だ。もし桜木にこの場面を見られたらなんて言われるか、想像がつく。きっと、「着替えるから、別の部屋に行っててって言ったよね?最低...」みたいなゴミを観るかの様な目で軽蔑されるに違いない。その前に折原さんに軽蔑されていてもおかしくはないが。しかし問題は、この状況を桜木に見つからないようにするのが先決だ。しかし隠れる所なんて何処にも。こうしているうちに桜木の足音はどんどんこちらに近づいて来ている。万事休すかと思うと、折原さんに手を引かれここからでは見えなかったがクローゼットの中に2人で隠れた。
「佐倉君、静かにね」
「ご、ごめん、俺のせいでこんな事に」
「だ、大丈夫だ....よ....んっ....さ、佐倉君..あんまり動かないで...」
「ご、ごめん..」
これは、大変な事になった。狭いクローゼットの中に俺と折原さん密着状態でいるのだ。この状況の方が見られたらまずい。桜木に気づかれないように息を潜めるが、お互いの息遣いが聞こえてきそうな距離でしかも、かなりアウトなんじゃないかと思う体制をしている。急いで隠れたせいで俺の足が折原さんの股の間に挟まる形になっている。そのため少しでも動くと、折原さんの吐息が激しくなっている気がする。時間の進みがいつもより遅く感じ、一刻も早く何処かに行ってくれと願うばかりだ。
「おーい桜木、何してんだ?」
「いやぁー茜音の声が聞こえた気がしたから」
「でも、いないぞ?そういや部屋に悠人もいなかったな」
「中村もそこら辺探してくれる?」
「分かった」
まじか!裕人までもが俺達の事を探し始めた。ここは耐える以外の選択肢は無いがこんな事に巻き込んでしまった折原さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。外の様子は分からないが声は聞こえるのでまだ裕人達が俺達を探していることは分かる。しかし、そろそろきつくなって、体の一部が痺れてきた。それは折原さんも同じなようでさっきよりも息が乱れているのが分かる。
「......んっ.....あっ.....さ...佐倉...く....ん.....もう....限界...」
「茜音ー?いないのー?」
「はぁ....はぁ.....お....折原.....さ..ん...き....きつ....い」
「おっかしぃな。確かに茜音の声が聞こえたんだけどなー」
「んんっ!.....う..動かな...い...で...声....出ちゃう....から...」
「桜木ー?悠人達見つかったのか?」
「いやー?見つかってない」
「先にレストランに行ったんじゃねぇのか?」
「うーん、こっちから聞こえたんだけどなー」
「いてもいなくてもその内出てくるだろ。行こうぜ?俺、腹減ったし」
「はぁー、仕方ない。今回は中村の提案に乗ってあげる」
「何で仕方なくなんだよ!」
「別にー」
2人がいなくなった事を耳を澄まして確認し俺と折原さんは勢いよくクローゼットから飛び出した。
「「ぷはっっ!!」」
「ご、ごめ....ん...俺の....せい...で....こんな事に」
「だ、大丈夫.....私の方....こそごめ....んね」
やっと狭いクローゼットから解放され折原さんに手を貸そうとして....あれ?記憶が途切れていてうまく思い出せない。そこからどうなったんだ?そういえばさっきから誰かの声が聞こえる気がする。
「く....ん....くら....ん....佐倉くん!」
「はっ!!?」
「あっ!目が覚めた?よ、よかったぁ〜」
目を覚ますと目の前に心配そうな折原さんの顔があった。俺と目が合うと、安堵した表情になった。目覚めてすぐ折原さんの顔が目に飛び込んできてびっくりしたがこれはこれで良いなっと思った。しかし、これはどういう状況だ?俺は今、折原さんに膝枕を.....されているのか?後頭部辺りに柔らかい感触がある。起き上がりたいのだが、羞恥心で動けないのともう少しこのままでいいかなっという2つの感情が俺が体を動かす事を拒否しようとしたが、俺は折原さんに謝らなければいけないと思い、体をばっ!と起こし正座して折原さんに向き直った。折原さんはびっくりした様子から申し訳なさそうに謝ってきた。
「その、ごめんね?思いっきり叩いちゃって、痛いよね?」
「いや、折原さんは悪く無いよ、俺の不注意でこんな事になったんだ、自業自得だよ」
「で、でも、こんなに赤く....」
「大丈夫だよ、それと、ごめん折原さん、嫌な気持ちにさせちゃったよね」
「え、えーと、その」
歯切れが悪い。当然だ。そうこの件に関しては全部俺が悪い。記憶が徐々に蘇ってきた。俺が部屋を2つ借りていれば、そうでなくとも、ちゃんと注意していれば防げた事だ。折原さんは何一つ悪くない、当然の反応だ。今こうして会話している事自体不思議だ、嫌われていてもおかしくはない。折原さんは誰にでも優しいし、怒っている所を見たことがないくらいだ。まるで聖女の様な存在だ。だから、今こうして会話しているのもそこから来る優しさなんじゃないかと思ってしまう。折原さんと遊びに行けてる事自体が夢で本当の俺は今頃、家にいるかバイトしているんじゃないか、そういう錯覚してしまうくらい、俺と仲良くしてくれて俺の友達としては勿体ないくらい素敵な女性だ。これは、完全に嫌われたなと1人で勝手に思っていると、折原さんが口を開きこう言ってきた。
「私、佐倉君の事嫌いになってないよ。確かに、その....見られた時は...恥ずかしかったけど....その...佐倉君は私の『恩人』だから!簡単に嫌いになったりしないよ!だから...そんな悲しそうな顔しないで。ね?」
「お、折原さん....」
そんなに顔に出ていたのだろうか。まさかこんな事を言われるとは思ってもいなかった。にしても『恩人』か。そう思われているとは、今でもあの時の事は鮮明に覚えている。だって、俺と折原さんが知り合ったきっかけでもあるのだから。それが無ければ今ここに俺はいないだろう。そんな事より、き、嫌われてなくて良かったぁ〜!嫌われていたらこの後どういう風に接すれば良いか分からなかった。安堵したのか、急にお腹が空いて来た。そういえば裕人達はもうレストランに!まずい!かなり待たせているかもしれない!よく見ると折原さんの服装は白いワンピースに変わっていた。急がなくては、そう思い立ち上がり着替えようと部屋に戻ろうとすると。
「あっ!急がなくても大丈夫だよ。真央ちゃん達には連絡してあるから」
「連絡ありがとう!それとこれからも友達でいてくれて嬉しいよ」
「.....う、うん!これからもよろしくね」
何だろう今、一瞬折原さんの表情が曇った様な気がした。でも、次の瞬間いつもの笑顔に戻っていた。気のせいだと思い着替える為に部屋に戻った。
「佐倉....君....」
.............................
それから俺と折原さんは20分位、遅れてレストランに向かった。ウェイトレスが出迎えてくれて席に案内してくれた。レストランの内装もこのホテルに合ったデザインになっており、広々とした空間にかなりの数のテーブル席があり真ん中には大きな厨房があった。透明なガラスになっており中が丸見えだ。あえて中を見せる事で料理が出来てテーブルまで運ばれる過程を楽しめる、そういう事なのだろうか。意図は分からないがとりあえず案内された席に行くと2人が手を振っていた。裕人と桜木は既に食べ始めており、事情は折原さんがコネクトで連絡してくれているのだが、肝心の内容は、「飲み物を買いに行って広すぎて迷った」という事になっていた。結構無理があるんじゃないかと思ったが裕人も迷っていたらしくそこにたまたま桜木が通りかかり一緒に部屋に帰ってきたらしい。どうりで帰りが遅いわけだ。席に着くと良い香りが俺の鼻を刺激した。桜木が食べている料理はパエリアだろうか。様々な魚介類と野菜が入った米料理だった気がする。対して裕人はシンプルなステーキだった。付け合わせにグラッセされた人参に丸ごと蒸されたじゃがいもが乗っていた。ステーキは塩胡椒で味付けされそれをレアで焼き上げられ付け合わせのソースをかけて美味しそうに裕人は頬張っていた。テーブルは丁度、4人席になっており俺は裕人の隣に、折原さんは桜木の隣に座った。パエリアを食べていた桜木がこちらを向き困り顔で見てきた。
「もぉ〜3人とも迷うなんて、中村はともかく茜音達まで」
「おい!どういう事だよ!」
「そのまんま。中村、あの時あたしが通りかからなかったら一生迷ってたんじゃない?」
「ぐっ!確かに助かったけどよぉ、なんであの時あそこにいたんだ?」
「暇だったから、それに割と覚えるの得意だし」
「桜木は、このホテルの間取り覚えたのか!?」
「す、すごいね、真央ちゃん。私なんて全然だよ」
「そう?簡単じゃない?」
「いや、桜木の記憶力が良いんだと思うぜ」
「ごめんね、真央ちゃん、中村君。待たせちゃって」
「俺もごめん、2人には後で何か奢るからさ」
「そんな、謝んなくても大丈夫だよ」
「悠人達が無事で安心したぜ」
「まぁ、後でアイスとか奢ってもらおうかなぁ〜」
「分かった」
「今回は悠人なんだな」
「佐倉君、私も一緒に出すよ」
「大丈夫だよ折原さん。元はと言えば俺が悪いんだし」
「で、でも」
「なぁ、悠人!このステーキめちゃくちゃ美味しいぞ!」
「そうなのか?なら俺もそれにするか。とりあえず折原さんが出す必要ないよ」
「う、うん、ありがとう佐倉君」
折原さんが申し訳なさそうな顔をしていたが折原さんは全く悪くない上にアイス代を出してもらうなんて男としてのプライドもあり断った。俺は、裕人と同じのを勧められたがとりあえず他のも見ておきたくメニュー表を手に取った。折原さんの分も取り手渡した。ペラペラとめくって料理をみるが色々あり過ぎて、どれにしようかかなり悩んだ。それから10分位、メニュー表と睨めっこしていたがさすがに、お腹もかなり空いていたので結局裕人と同じ物を頼んだ。それからしばらくして、頼んだ料理が運ばれてきた。焼いた肉の香ばしい匂いが漂ってきた。その瞬間、唾液が波のようにどっと押し寄せて来た。ゴクっと音が聞こえそうだったが今はそんな事を考える余裕はなかった。そのまま唾液を飲み込み、料理が目の前に運ばれてくるのをまだか、まだかと餌を前にして待てをされている犬の様な気持ちだった。自分に尻尾があったら激しく左右に振っていた事だろう。そんな事より、今この瞬間だけ時間の進みが遅いんじゃ無いかと錯覚するくらい料理が自分の元へ運ばれてくるのが遅く感じる。ウェイトレスの人が俺と折原さんが頼んだ料理を並べ終え、戻って行くのを確認し、俺と折原さんは手を合わせた。
「「いただきます!」」
いただきますと同時に俺は一目散にナイフとフォークを手に取りステーキをカットし、口に運んだ。噛んだ瞬間肉汁と旨味が口の中に駆け巡り、更には空腹ということもあり俺は、プロのボクサーにストレートパンチを食らったんじゃないかと思うくらいの衝撃が襲った。
「う、美味い!!」
「うわっ!?びっくりした」
「ご、ごめん。あまりにも美味しくてつい」
あまりの美味しさに声が出てしまった。それにびっくりした桜木は持っていたスプーンを落としていた。焼き加減もさることながら付け合わせのソースが俺の語彙力では言い表せない程、深い味だった。使われている材料の全ては分からないが林檎やにんにくが使われている事は何となくは分かった。フルーティかつ奥深い味わいとても家では真似出来ない味だった。付け合わせのポテトサラダも絶品だった。程よくジャガイモの食感が残っており、四角くカットされたベーコン、人参の全てがまとまって素材が喧嘩せずお互いを高め合っていた。アクセントとしてブラックペッパーが振られておりジャガイモやマヨネーズなどの甘味とブラックペッパーの辛さが交互に訪れ飽きる事なく、あっという間に無くなってしまった。俺が食事に夢中になっていると横から裕人がニヤニヤしながら肘で突っついてきた。
「な?うまいだろ?」
「なんで中村がドヤ顔してんのよ」
「本当に美味しいよ。これも折原さんのおかげだよ。ありがとう」
「そ、そんな事ないよ。いつもお世話になってるお礼がしたくて」
「気にしなくて良いのに、昔から変わってないんだから。茜音は」
「いやぁ〜でも折原さんのおかげで美味しい物食べれて俺は満足だぜ」
「裕人は相変わらずだな」
笑いながら俺はそう言った。その後は食事を楽しんだりたわいも無い話や旅行の計画など今後の夏休みの予定について空いている日を話し合った。時間はあっという間に過ぎ、帰る時間が近づいていた。帰る前に施設内にあった売店で俺は遅れたお詫びとして3人にアイスを奢った。このメンバーでアイスをよく食べてる気がする。青春してるなぁーと自分で思いながらそれと同時にこの時が永遠に続けばいいのになと、何処かで聞いたような言葉が喉元まで出てきたが言ったらいじられそうなので飲み込んだ。施設の外に出ると陽の光がオレンジ色に輝き夕日が沈みかけていた。スマホを点け時刻を確認すると18時を過ぎていた。行きと同じ車に乗り駅まで送って貰った。そこで解散し、各自帰路に着いた。帰り道俺は、今日あった事を思い出していた。トラブルがあったが充実した1日だった。来年は3年生になり進学か就職の二択から選ばなければいけない。そのため今日みたいに遊ぶ機会も減ってくるだろう。仕方の無い事なのだが少し寂しく思う。その瞬間、ポンと着信音が聞こえた。なんだ?と思いスマホを確認してみるとコネクトに着信があった。アプリを開いて確認してみるとグループ宛に桜木が写真を送っていた。そういえば写真を撮っていた事を思い出した。4人が笑い合いながら写っている写真だった。追加で桜木からメッセージが届いた。『来年もまた一緒に行こうね』と送られてきた。気が早いなと思ったが、別に遊ぶ機会が少し減ってしまうだけで遊びに行けないわけではないのだ。そんな当たり前のことを忘れていた。来年の俺がどうなっているかなんて分からない。先が見えない不安も多少あるが気にしすぎも良くないと思い、俺は今年の夏は全力で楽しもうと誓った。先ほどの桜木のメッセージに対して返信し家に帰った。その日の夜は疲れているはずなのに折原さんとのトラブルと水着姿を思い出し眠れなかったのはいうまでもなかった。
かーなーり長くなってしまいました。ちなみに次の話は決まっていません。なるべく早く掲載したいと思っています。それと、今回の最新話を執筆と同時に今まで掲載していたお話を一部書き直しています。過去の自分の文の下手さを実感しました。それではまた次回でお会いしましょう。ご機嫌様。