思い出が全部消える前の話〜話を聞いていたのが家の人だった場合
ラブシーンってきついよね
僕は、母様に会いに行った、母様は50歳、十分生きた方ではあると思う、でも…
きっと母様はきょうには死んでしまうのだろう…
父様が死んでから母様は記憶を無くした
父様が若くて、母様が体が弱いのを秘密にしていた時期に母様はその時期を何度も繰り返していた
僕はずっとその姿から目をそらしていたが、母様はある日突然言った
私、きっと明日には死んでしまうわね…
そんなふうに、自分のことは自分がわかっていると言っていた、そしてそのとおりになった
だから、今回も本当だろう
母様が乙女の顔をして父様のことを言うものだから、思わず伝言を請け負ってしまった
自分の息子のことを、父様に似ているというから、思わず泣いてしまったけど
僕は難産だったらしい、体の弱い母様に、父様は後継ぎは養子を取るから気にするなと言って…
あなたの子供がほしいのって母様は喚いたらしい、それに押された父様が許可をして…
僕は母様が45歳のときに生まれたって…
ねぇ、母様…僕が最後を看取って本当に良かったのかな?
僕は、父様も、母様も、二人共が死んじゃって悲しいよ…
父様母様、どうか僕も連れて行って?
ーー
母さんが死んでから僕にも大切な人ができた
父さん、母さん、つれていってほしいなんて言ってごめんね
連れて行ってほしいって言ったけど、僕、もう少しあとに父さん母さんのところに行くよ、僕の大切な人はおいていけないからね
母さんみたいに記憶を失ったりしたら可愛そうだから…
なんて言って、本当は僕が一緒にいたいだけなんだけどねっ!
「ねぇ、なんで泣きながら笑ってるの?」
心配されちゃった、ねぇ、僕は今、大切な人がいるんだ…
「幸せだなって思っただけだよ…いつもありがとね、****」
「そうなの…あのね…」
「なに?」
「私も幸せだよっ!」
「そっかぁ…ありがとう…」
音が聞こえた、声のような、ただの風の音のような…
でも確かに、聞かれた気がして…
ポツリ…思わずつぶやく
「しあわせだよ…ありがとう、父さん母さん」
「なんか言ったー?」
「何でもないよ、気にしないで」
「えー気なるなぁ」
「ふは、でも秘密だから…」
だけどさ、父さん母さんも…幸せだった?
一度だけ聞いてみたかったんだ、聞けなかったけど…
だから…今度あったときには聞いてやるんだ!
幸せだった?ってね!
ぜったいに!