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電車の音に紛れて…

作者: HAYATO


この物語はボクが とある地方で働いてたときの物語である。


この話は地方から地方へ、異動する4ヶ月前のことだった。



職場内ははっきり言って、いい思い出はない。


真夜中に帰れる日は、早く帰れるからまだいい方だ。

いつも帰宅時間は、明け方が普通で、1、2時間睡眠を取って、

また昼に出勤する毎日だった。


まるで 生きたまま死んでいる・・そんな毎日だった。


今ではブラック会社と思われがちかも知れないが、

当時、仕事の段取りに問題があると、ボクが悪いと思い、

会社には恨みもなかった。

というか、恨むとか辞めるとか、そんな気持ちを思う暇も無かった。

ただただ、1日1日を生きるのが精一杯だった。




今日は早く仕事終わった、夜中2時に終わった。

明け方じゃなくてラッキー。


少し気分浮かれながら、帰ろうとしたとき、

ドアの前にちょこんと「こねこ」が座っている。

なんかをねだるように、じーっとボクの顔を見つめる。


ボクは思わず

「お前は捨て猫か?まだこんなに小さいのに寒いだろ?」


「ボクも捨て猫みたいだよ、仲間だね」


そして、子猫がチョコチョコと、ボクが着ていたコートの中で丸くなっていた。


飼ってやりたいが、ボクは寮暮らし。連れて行くわけ行かないんだよね。


ゴメンね。



ここからちょっと離れたところに、ダンボールで猫小屋を作り自電車で帰った。



たまたま夜中道に迷い、ここにたどり着いたんだろうな。




次の夜も、その次の夜も、毎晩職場のドアの前でボクの帰りを待ってるように、座っている。

キャットフードをあげたら、もう夢中で食べていた。

よほど腹を空かしていたんだろう。


こんになつく猫は珍しい。


ボクの楽しみはわずかな睡眠だったが、

それ以上に この捨て猫と時間を忘れるぐらい遊んでるのが楽しみだった。

時には明け方になるまで遊んでいた気がする。


そう言えば、名前を決めてなかったな。


何しようか?


子猫の体の色が黄色っぽい。


そうだ!「ぴか」にしよう。

名前を「ぴか」にした。

当時はピカチュウが流行っていたから、「ぴか」と名づけた。




何よりもちょっとつらかったのは、ボクが帰る時だった。


「ボクも明日仕事だから、帰らなくちゃ、ピカも小屋に帰って休みな、また明日な」


言うと、小屋から顔だけ出し 悲しそうな鳴き声で、


「にゃん、にゃん・・」


ボクは自電車で帰ろうとすると、小屋から出てきて鳴きながらついてくる。

そして、ボクがダッシュで走り出すと、さらに喉がかれるほど大きな鳴き声で、叫んでいた。


「にゃーん!にゃーん!」


あの鳴き声は今でも耳の奥にこびりついている。


二、三ヶ月ぐらい続いたかな。


そして西暦1999年から2000年に変り、

相変わらず雨の日も雪の日も、ぴかはボクの帰りを待っていた。


2000年3月俺は転勤が決まった。次の職場は隣の県。

転勤3日前ぐらいの事。


「ぴか・・ボク、隣の県に行く事になったよ」


ボクは正直つらかった。

連れて行きたくても連れて行かれない、唯一心の支えになったから。

職場のアルバイトの誰かに飼ってもらおうと思った。


そして別れの当日、最後のお別れを告げに行こうとした。

だが、毎晩俺の帰りを待っていた ぴか。

今夜はなぜかいない。

ボクの作った小屋にもいない。真夜中そのあたりを探したが、どこにもいない。

別れを告げられぬまま、最期を迎えてしまった。



猫という動物は、飼い主と別れ間際になると、

飼い主に分からないように、去って行くってよく聞く。



これでよかったんだ。おそらくいい人に面倒を見てくれる事になったんだろう。

ボクは自分でそう言い聞かせた。


そして荷造りも終えて、荷物を引越のトラックに乗せて、

ボクは身の回りの荷物だけを、自分で持ち電車で、次の職場に向かう。



動き出した電車の中、窓を見ていると、ボクの職場が通り過ぎる。


職場のとなりには大型駐車場。その木の影から、子猫が見えた。


「ぴか?」


その子猫は別れを告げるように、鳴いてるようにも見えた。


その子猫が、ぴか かどうか定かではないが、ボクは ぴかだと信じていた。



ボクも電車の音にまみれ、こっそり泣いた。


「ぴか・・ありがとう、そして、さよなら・・」






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