第九十八話
とりあえず、いろいろとお片付けも済ませて、秀星たちはアメリカ政府の魔法社会に関わっている部署に匿名でいろいろと提出して(あのボスはいろいろと戻した)、帰ることにした。
「で、ローガン、本当にあの人数を抱えることが出来るのか?」
「……資金的に言えば問題はないのだが、どう考えても屋敷の中で仕事が足りなくなるな」
助け出して今もぐっすりと眠っている被害者たち。
その人数は百を超える。
「とはいえ、まずは保護だ。カウンセラーを集めないと……」
「……魔法社会ってカウンセラーいたっけ?」
「少ないがいないわけではない。その代わりぼられる」
どうしたものか……。
「セフィアに頼んでみるか」
秀星はそう提案した。
そもそも、保護とは言うが、その保護を行うために必要な費用や人というのは大きいのだ。
しかも、人体実験の被害者と言う状況。
並大抵のものでは無理である。
さらに言えば、一人一人の状況を的確に把握しなければならない。
不安と言うのは、安全な場所にいるからといって取り除かれるわけではないのだ。
「セフィアに……まあ、問題はないのかな?」
「セフィアの『端末』はいろいろと種類があるんだよ。まあ、俺の好みが反映されているからみんな胸でかいけどな……まあそれはいいとして、個人に対して専属で人数を当てることが出来る」
「まあ、秀星の性癖に関しては置いておくとして、端末って……一体どれくらいの人数がいるんだい?」
「十兆は下らんな」
三人は吹きだした。
「……なんでそんなに数があるんだ?」
昇平は頬を引きつらせながらも聞いてくる。
「セフィアの製造目的は確かに主人に仕えることなんだが、常に待機状態だ。みんな暇だから作ってるんだよ」
「……」
「まあ、人数に関しては任せておけ、ちょっと頭が悪いのが混ざってたりするけど」
「それって大丈夫なのか?」
「問題はない……問題はな。うん、結果的にはないはずだ」
三人は『過程が不安』と思ったのだが、これ以上それについて話していても結果が変わるわけではないと判断。
それに、情報漏洩を防ぎたい状況なので、セフィアの端末を用意できるというのならそれは悪いことではない。
「さて、というわけでローガン。お前の家に送り届けておくぞ。端末に関しては……まあ、セフィアに選出させる」
「ああ。わかった」
★
「ふう、仕事終わりのビールはこの年になってもいいものだな」
「むしろ、この年だからだと私は思いますが……」
カルマギアス、東日本支部長室。
簔口亮介が執務室として使っている場所である。
すべての書類を片付け、テーブルの上からは据え置き型の電話以外のものすべてを取り除いた後、ビールとジョッキを用意して優越感に浸っていた。
……優越感?
それはおいておくが、そんな彼に対して、黒髪の七三分けにした銀髪の男性、敷島零士はつぶやいた。
「まあそういうな。最近は調子に乗っている犯罪組織のもぐらたたきという、なんだか犯罪組織としてはすごく締まりの悪いことをしているが、秀星を相手にすることなく、こうして日々を過ごせるのだからな。ビールくらいは飲みたくなる」
「老い先短い老人みたいな言い分ですね」
「私はもうすぐ定年退職する年齢なのだがな。お前にもいろいろと教えてやっているんだからいいだろ別に」
「苦労人が一人いなくなると世界が困るのであと三十年くらいは現役でいてください」
「なんか知り合いも含めて部下みたいな連中ってみんな辛辣だよな」
沖野宮高校の生徒会長の部下ともいえる英里にも言えるのだが、どこか辛辣である。
「上がバカだったり苦労人だったりすると部下の心臓に悪いんですよ。迷惑税だと思ってあきらめてください」
「フン!まあそれはそれとし――誰かドアの前にいるんだけど」
簔口は嫌そうな顔でドアを見る。
すると、コンコンとノックが聞こえてきた。
「誰だ」
入ってきたのは……。
「如月宗司か」
黒い長剣を背につった紫色の髪の青年だった。
「で、何をしに来た」
「ああ。ちょっと理不尽な奴とあってな。単調直入に言おう……俺を雇ってくれ」
「……」
簔口はなんだかいろいろ察した。
秀星が思いっきり暴れたことも含めて、日本の魔法社会における犯罪組織は動きにくくなっている。
さらに言えば、それを気にした簔口自身が、カルマギアスを犯罪組織鎮圧に方針を変更。
それまでの罪状の清算ということでそれに従事する形で今の活動しているカルマギアスだが、元は日本の犯罪組織の最大手。
そのような組織がいきなり自分たちの明確の敵になった中小犯罪組織は、ビビるようにその運営を止め始める。
宗司のような傭兵はほかにもいるのだが、最近では見かけなくなった。
というか、実力があるのならダンジョンに潜れば普通に稼げる。
宗司のような傭兵の行動理念は、『人を相手にしたい』といったものや『魔法社会への復讐』などがほとんどである。
だが、日本ではそれらをおおっぴらにすると秀星の名前が出るようになった。
宗司が海外で活動していたのにはそういった理由がある。
「……苦労したのだな」
「ああ。あんな化け物を本気で相手にするくらいなら、あんたのところの組織に入ったほうがいいからな」
「……本気で一度でも戦おうとは思わないのか?」
「バカいえ、あいつが本気になったら、殺意だけで俺をショック死させるくらいはできる。戦うどころか、目の前に立つことすらできないのに、戦いになんていけるか。俺は自殺志願者じゃないんだよ」
「なるほどな。まあ、そういうことなら歓迎しよう」
最近、この手の人間が増えている。
簔口は情報網が広く質がいいので把握しているが、やはり、圧倒的な強さを持つ上に、かなり理不尽な手段を数多く持つ存在がいるというのは、抑止力としては最高峰なのだ。
「歓迎してもらって助かる。で、俺は何をすることになるんだ?」
「カルマギアスの上の連中がぬかれていてな。まあ、君は育成はできないだろうから、私が直接出向かなければならない案件に君を投入する。ということでどうだろうか。それなりに数は多いぞ」
「ほう」
「……外国にな」
「……日本人がんばれよ」
「それは自分にも言っているのか?」
「もちろんだ」
如月宗司がカルマギアスに雇われる。
この情報は拡散した。
日本では、さらに犯罪件数が少なくなったそうだ。