第九十四話
山の中に作るという、文字通りの『常識外』を実行したトライデント・アライアンス。
……なのだが、秀星側としても、既にアジトの場所は判明している。
というより、『ワールドレコード・スタッフ』を持つ秀星を相手にして、『基地の場所が分からない』などと言うことにはそもそもならない。
「ここがトライデント・アライアンスのアジトか」
「本拠地まで転移魔法で一秒……なんというか、世界中の交通機関が惨めに思えてくるな」
文字通りの一瞬だった現状に、昇平がやってられないと言わんばかりに溜息を吐いた。
アメリカの西の方にある山。
その山のそばにはそれなりにビルが建てられており、その中の一つがトライデント・アライアンスの表の職業のようなもので、その地下から隠し通路を使って入ることになっているのだ。
「要するに穴を掘りまくってできた場所と言うことになるのか?だが、よくここまでやったな……」
「偶然にしても意図的にしても、それを効率的に行うことが出来る設備や技術がそろった。ということだと僕は思うが……」
晶とローガンがそれぞれ思ったことを口にする。
秀星としてもローガンと同意見だ。
人間、高さ云々を語りだすと、上に行くより下に行く方が難しい。
月面と海底を比べると、月面の方がまだ多くのことが分かっているというのはよくあることである。
確かに、地下空間の開発は進んでいるが、そんじょそこらでは済まない資金がつぎ込まれるだろう。
まあ、そのあたりのスケールを語るほどの深さまでは掘っていないと思うが、いずれにせよ楽ではないというのが共通認識だ。
「まあいいさ。とにかく行ってみよう。ローガンも、本拠地の方に来たことはないんだよな」
「ああ。僕が行ったのは日本支部で、こっちではない」
ちなみにその日本支部はきれいにお片付けしました。方法はご想像に任せます。
「じゃあ、行こうか」
秀星はマシニクルを構えて、その駐車場のゲートに向かって銃口を向ける。
引き金を引くと、その銃口の広さからは考えられないほどの『エネルギーバレット』が放出され、ゲートを粉微塵にした。
(((うわあ。容赦ねえ……)))
三人はいたたまれない感じになったが、それを気にしたところでこの男は頬筋一つ動かさないだろう。
言うだけ無駄。というものである。
「すごく長い廊下だな」
「どれくらいだ?晶」
「分かるわけないだろ。というか、正確な距離が分かったところでどうするつもりなんだお前は」
正確な距離と言うのはあまり割り出せないものだ。
そして、人はその確定不可の距離間の元で生きているし、距離感と言うのは人によってバラバラなので、あまり意味はない。
感覚やイメージの共有は必要だが、距離感と言うのは本当に匙加減なのだ。秀星も三人と揃えようとしてみたがとっくの昔に諦めている。
「まあ、大体三百メートルくらいだ。本気出せば百万分の一秒だな」
「速すぎる……というか、僕はこんな奴を相手にしようとしていたのか」
「……晶。百万分の一秒ってどれくらいだ?」
「そりゃ一秒の百万分の一に決まってるだろ」
「……どれくらいになるんだ?」
「お前が瞬き一つしてるうちに一万回は可能ってことだ」
「……すげえな」
「そりゃそうだろ」
晶も説明に疲れてきたようだ。
「そう言えば、ゲートを破壊したのに警報が鳴らないんだな」
「ついでに警報機も壊しておいた。でも、向こうも気が付いていないわけじゃないけどな」
秀星は歩きだす。
三人もついてきた。
晶は拳銃、昇平は大型の斧、ローガンはロングソードを構えなおしている。
「走らないのか?」
「お前らが付いてこられないだろ。この奥には俺より弱い奴しかいないけど、お前らより強いやつはいるからな」
秀星は過小評価も過剰評価もしない。
基本的には、戦力と言う点で考えると適正評価を下す。
無論、戦闘を含めようと含めなかろうと、様々なからめ手を使って来るというのならまだ分からないが、こうして本拠地に乗りこむ段階になればもう秀星のターンである。
「お、向こうからも来たな」
「というより、俺たちが入って来たゲートからも入ってきてるぜ。秀星」
「とはいえ、この程度なら問題ない」
「晶、僕もそう思っていたところだよ」
なだれ込んでくるトライデント・アライアンスのメンバー。
銃を持っているものがほとんどだ。弾数確保のアサルトライフルのようである。
「おお、さすが銃社会アメリカ!本場っぽい感じがするな」
「銃社会の本場っぽい感じって……物騒なイメージしかわかないな」
「というより現時点でそれなりに物騒なことになってるけどな」
「ただ、それを考慮しても、敵より僕たちのほうが物騒なんだろうなと考えると少し考えさせられるものがあるね」
とはいえ、こんなところで止まっていても仕方がない。
「さて、適当に暴れようか」
秀星はマシニクルを構えなおした。