第九百二十三話
秀星がダンジョンの宮殿の敷地に入ってナンバースリーをぶっ倒したころ。
アルエストとサレイアは大型トラックに乗って町に到着していた。
その街の周りには高い壁が築かれており、一見頑丈そうだが、よく見たらその材質は石に多少の加工を加えて積み上げた程度のもので、秀星が用意したトラックで突撃すれば無傷でぶち抜けそうだが、さすがにそこまで常識は吹っ飛んでいないアルエスト。
頑丈な鉄の門を作る技術がないのか、木製の扉があり、そこには門番が二人いる。
東西南北、全てに扉が一つずつあるのではなく、そもそも『交通の利便性』よりも『防衛力』を重視しているのか、門は一つしかない。
「……正直、ゴブリンが攻めてきたら、この壁で守り切れるとは思えないな」
「地属性魔法で足場を作れる魔法使いが一人いれば崩壊しますからね」
堀を作る時間もなければ、そもそも周囲に水源がない。
そのため、壁を超えることさえできれば町の中に侵入できる。
壁の内側に監視の高台があるのでそうなってもわからないということにはならないが、クオリティは低い。
ただ、このレベルの壁があるだけでも安心するほど『元が劣悪』なのだ。
「アルエスト様はここで待っていてください。門番には私が交渉してきます」
「……交渉の終着点は分かっているね?」
「我々がこの町に骨を埋めるつもりはなく、この町の有力者とのつながりが欲しいわけでもなく、ただ援助をしに来ただけの存在であることを示すことですね」
この世界は通信インフラが崩壊しているし、速い移動手段が馬だ。
スマホと車を持っているアルエストたちとの交渉材料になる物はない。
セフィア達がいるので『人材』そのものが存在し、ため込んでいる食料の量も膨大だ。
秀星に『なんでこんなに作ってるんだ?』と突っ込むほどの量だ。
秀星は『いやー……なんか急に、世界中の食糧生産に使われてる土地がウイルスに汚染されることってあるだろ?』とのことだ。そんなことあってたまるか。
いずれにせよ、この町にいるもの達が持っているカードでは、交渉の場に立つことすらできない。
そもそも、アルエストたちは見返りを求めるつもりすらない。
交渉の場において、『ただただ一方が妥協するつもりである人間』がいると、それは交渉とは言わないような気もするが。それはそれである。
「ああ。食料だけじゃなくさまざまなアイテムを秀星からもらっているが、そこは譲らないように」
「わかっていますよ。それでは待っていてください」
そういうと、サレイアは助手席から降りて門番のところに歩いていった。
「『アルエスト様は甘いところがあるから私が行きます』……か。そこまで信用がないかな。私」
はじめはアルエストが行く予定だった。
だが、サレイアが『私が行きます』と言って、その理由が『甘いから』だった。
どうしてこうなった。
「アルエスト様。交渉してきました」
「速いな」
「盛大に『もってけ泥棒』をやるだけですからね。それさえ理解してもらえばいいわけですから」
まあ、もってけ泥棒というのは売り手側が『タダ同然』の安値で売っているだけで本当に泥棒のようにタダで持って行ってもらうわけではないのだが、今回の場合は本当に『タダ』である。
タダより怖いものはないというが、別に何か仕事を頼むつもりもなければお礼も不要である。むしろもらわないためにパッパと帰るつもりだ。
「ただ問題は……あの門の大きさではトラックが通らないということでしょうか」
「いや、秀星から『四人乗りオープンカーモード』に変更できるといわれているからな」
「頭が湧いてますね」
ひどい。
「というか、何をどうすればトラックが四人乗りのサイズになるんですか?」
「秀星は『人間にヨガができるのなら車にもヨガはできるよ』と言っていたぞ」
論理の飛躍どころの話ではない。
「アルエスト様はそれで納得したんですか?」
「そこには納得していないが、秀星が使っている『保存型神器の子機』を預かっているから、『トラックなんて飾りだ』ということには納得することにした」
「……まあ、四人乗りのオープンカーでは体積に限界がありますからね」
さすがに『補給物資を大量に持ってきたぞ!』と言われて『何に積んできたんだ?』と聞いて『四人乗りのオープンカーだ』といったら、援助に必要な規模によってはブチ切れだろう。
「ヨガの話からトラックは飾りだという話題に直で変わったからついていくのに一瞬苦労したがな」
「文章を組み立てるセンスがないのですか?」
「あれでも実用書を書いてるらしいぞ」
「そうですか……」
言いたいことは分かったし、とりあえず目の前の事実を並べていくと不都合はないのだが、かなり『結果オーライ』という言葉を崇拝しているように見える。
「まあ、これ以上待たせるのもアレだし、行こうか」
「そうですね」




