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第九百二十話

 大雑把に言ってしまえば、『ゴブリン帝国』ともいえる場所だ。

 先ほど見かけたゴブリンの集団とは違い、全てのゴブリンがしっかりとした武装をしている。

 武装していないゴブリンは、このダンジョンの中で『普通に暮らしていた』ゴブリンたちだろう。


 秀星が着地した大広場に武装したゴブリンたちがやってきたが、その速度はかなりのもの。


 全員がしっかりと訓練を受けているのがわかるほど練度も高い。

 ダンジョンのモンスターと人間を比べると、あまり『人間側が圧倒的に強い』とは言えないこのノアスフィアで余念がないというのは素晴らしいことだ。

 他のダンジョンからの襲撃も考えているのだろう。全体的に『質は高い』といえる。


 そう、褒めるべき部分は多い。


 だが、秀星にとって、彼らはただの敵でしかない。

 一振りでモンスターはその命を散らして魔石になり、建物は壊れていく。


「たまに人質を用意するやつがいるな……まあ、意味のないことだが」


 秀星が人間であることは見た目で分かることだ。

 それを利用して、傍にいる人間に武器を向けることで対応しようとしている。

 もちろん、それも意味はない。

 人質というのは、止めたい人間の射程と攻撃速度を超える手段を使わなければ機能しないのだ。


 神器を十個も持っている秀星は、射程という概念に対して喧嘩を売っているような物である。


 プレシャスを振るえば、武器を人間に当てようとしているゴブリンたちが真っ二つになる。

 どこにいても同じ。

 秀星が動くだけで、ただただ破壊をまき散らす。


「コソコソしても無駄だ」


 秀星からはその位置が見えているわけではない。

 ただ、秀星の視界にある建物の裏道に向けてそういった。

 そこにいたゴブリンは、セフィアの端末が持つナイフで急所を貫かれて息絶える。


「……救出の方も結構進んでるみたいだな」


 セフィア達が行っているのはゴブリンの討伐だけではなく、この町にとらわれている人間たちの救出も行っている。

 セフィアという『人材そのもの』を大量に所有しているため、広場で暴れまわっていても、必要なことは大体クリアされていく。


 建物を容赦なくぶっ壊している秀星だが、もうすでに、その建物の中にめぼしいものなどなに一つ存在しない。

 セフィア達が『オールハンターの保存箱』の子機を持っているのでそこに次々と入れていき、タグが付けられて整理されているのだ。

 遠慮などする意味はもうない。


 討伐するゴブリンに制限はない。

 戦士として戦っていようと、逃げている一般人だろうと、容赦なく殲滅する。


 慈悲はない……というより、秀星視点でゴブリンを区別する気はないのだ。


「さてと、次は……ん?」


 今まであったゴブリンよりも豪奢な鎧を身にまとったゴブリンたちがやってきた。

 やや青く光る銀色の甲冑を身に包んでおり、剣と盾を装備している。


「装備している武器の金属。オリハルコンといったところか」


 実際に鑑定魔法を使ってみるとその名前が出てきた。

 確かに実際に固いだろう。

 しかも、単にオリハルコンを加工して作ったものではなく、様々な付与魔法を詰め込んで強化している。

 装備を構えている立ち姿から察するに……。


(……椿では勝てないな。逃げることはできるだろうけどな。こういうタイプのやつもいるってことか)


 未来でそれ相応に『教育』を受けている椿。

 当然その実力は高いだろう。

 素直な太刀筋なので、技術的に互角以上であれば思ったより簡単に避けられるのが椿の戦闘技術だが、それでも強いと断言できる椿に白星を与えない程度の実力を持つ。

 まだ宮殿にすら入っていないが、強い個体が出てくるとは。

 なお、椿に失礼というよりは秀星がおかしいのだが、測定範囲として秀星が混ざる物差しの中では、ゴブリンも椿も戦闘力に差はない。


「貴様が侵入者だな」


 思ったよりも低くて大人びた声が口から洩れる。


「ああ。そうだな。物資の強奪と人間の救出。この二つが目的だ」

「フンッ!どうやらそこそこ強いようだが、我らにはかなわんぞ?」


 秀星を見て不敵な笑みを浮かべるゴブリン。

 秀星との距離はまだ離れているが、オリハルコンの剣を構えて、それを一気に振り下ろす。

 魔力を帯びた状態で振り下ろされた剣から飛ぶ斬撃が出てくる。


 音速を超える速度で迫るそれをみて、秀星は何も持っていない左手でそれをつかみ取った。

 そして、その飛ぶ斬撃に込められていた付与魔法を全て、自分の手にかけていた解除魔法で叩き壊して、斬撃を消滅させる。


 ゴブリンは少しだけ驚いたような顔をした。


「ほう……今の斬撃を止めるとはな……準備運動程度の攻撃とはいえ、余力を残しながら防いでくるとは思っていなかったぞ」

「そうかい……」


 先ほどの斬撃……今の風香は防げないな。

 そう判断する秀星。

 付与魔法はどれもこれも一級品だった。

 風香がこのゴブリンの戦闘力を低く見積もることはなさそうなので油断はしないだろう。

 だが、それでもこのゴブリンたちを殲滅することは、おそらく風香にはできない。

 アルエストはできるだろうが……。


「……まあ、どうでもいいことか」

「なんだと?……っ!」


 ゴブリンの首が飛んだ。

 それをやったのは、傍にいたセフィアの基本端末である。

 手に持った剣でゴブリンの頭を斬り落としたのだ。


(確かにこいつらは、椿や風香よりも強い。おそらく宮殿内部には、もっと強い個体がいても不思議じゃない。だが……どうでもいいことだ。一兆体を超えるセフィアの端末。そいつら個人の力よりも、こいつらは断然弱い)


 戦う場所であるならば、秀星が無双できない場所はない。

 敵が全知神レルクスだというのならそれは勘弁だが、それ以外は、真剣にやり合うというのであればさして違いはないのである。

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