第九百十八話
「す、すまなかった。剣で斬りかかったってのに、ここまでしてくれて……」
「別にいいよ。うん」
時間が経過すると、アジトのみんなが目覚めた。
当然、最初に秀星に剣で斬りかかった男性も起きたのだが、あたりを見渡せばメイドたちがアジトの中でテキパキ動いていて、そしてそのメイドに指示を出しているのが秀星だと分かると、土下座で謝ってきた。
……ちなみに、なーんの感情も籠っていない秀星だが、アジトに来たときに弓矢をぶっ放してきた男性たちがこの男性よりも前にみんな謝ってきて、そのたびに『別にいいよ』と言い続けたので、若干だるくなってきたのだ。
「お父さんはものすごく強いからいいんですよ!そんなことより、あなたも一緒に食べますよ!」
男性のところに、椿が器にシチューを盛り付けて持ってきている。
セフィアが行っている炊き出しでは、暖かくて全員で食べられるものが用意されているのだ。
ちなみに、地球では二月になったばかりで完全に冬なのだが、ノアスフィアで現在秀星たちがいる地域も冬であり、外の気温は低い。アジトの内部では食糧生産にリソースを割り当てる必要があるため一家に一台暖房を用意するということもできないため、暖かい料理を出せばみんな喜んで食べてくれる。
なお、炊き出しで用意されているのは『カレー』と『肉じゃが』と『シチュー』である。
わかる人からは『具材どれも同じやん』とツッコミがきそうだ。というか風香とサレイアがそうツッコんだ。椿とアルエストは首をかしげていたけどね。
「あ、ああ、ありがとう」
動揺している男性。
アジトの中の人数はそう多くないため、みんなで協力しなければならないはずだが、それでもお互いに警戒する部分はあるのだろう。いざというときに自分の身を守らなければならないので、油断はできない。
だが、椿はそんなことは基本的に気にしないので、無防備に誰にでも近づくのだ。
精神性が全く異なるため、アジトでは結構動揺される。
椿が男性を引っ張って炊き出しの場所に連れて行った。
「……はぁ、正直、アジトの代表かリーダーと話をして交渉したかったんだがな」
「ああ。このアジトのリーダーを務めていたものが四日前に亡くなっているとは……」
本当にタイミングが悪いというのが秀星の感想だ。
蘇生魔法を技術的に身に着けたアルエストも、神器を使って行使できる秀星も、その蘇生魔法の構造はともかく、共通する『魂の理論』は同じである。
そのため、『ノーリスク・ノーデメリットで蘇生するためには三日以内という時間制限がある』ということを突破できないのだ。
もしも三日以内であれば、この際倫理観は完全に無視して蘇生させていたのだが、それは不可能である。
「そのリーダーの跡継ぎもいないし……跡を継げるものを選ぶ必要があるな。実力か指揮官のどちらかになるが……」
「人望だな。戦闘力は俺が短機関銃を渡せばいいし、指揮能力って言っても、このアジトの規模ならセフィアに頼んでマニュアルを作ればそれで済む。カリスマさえあれば誰でもいいさ」
「……反則だな」
「そりゃね……って人のこと言えるか?」
宇宙船に初対面で大砲弾幕されたのだが、そこのところどうなのだろう。
目を背けるアルエストだが、別に秀星もそこまで追求するつもりはない。
「まあいいや。で、アルエストとしては、このアジトをどう思う?」
「私の主観で、という意味だな?」
「ああ。だって、この星はお前の故郷だからな」
「……簡単に言ってしまえば、もう、自分では解決できないレベルだ。維持すらもできないレベルだろう」
「だよなぁ……」
秀星が救出した少女たちは、下が五歳、上が十三歳だ。
だが、彼女たちは『戦士』としてアジトでは認識している。
これがどういうことなのかというと、『想定外なモンスターに遭遇したとき、男性よりも生きている時間が長い可能性が高い』からだ。
当然、慰み者としての価値しかないだろう。五歳ともなれば人質にしかならない。
だがそれでも、何の調査もなく地下深くの労働施設に放り込まれる男性よりも、まだ『ダンジョンの末端のモンスターが隠しておいて慰み者にする可能性が高い』のだ。
そうなれば、まだ隙を突けば救出できるエリアにとらわれる可能性はある。
十三歳の少女であってもモンスターを倒したことがあるだろう動きをしているし、五歳の子も簡単な魔法を使えていたので、『戦士』であることは間違いない。
当然、男性も戦ってはいるのだが、そもそもアジトの中で戦える人間が少ない。
これほど『失わないこと』を優先したものになっているというのは、既に組織としての体をなしていない。
「ま、アジトに関してはどうするのかはこれから決めればいいさ。とりあえず、近くにあるダンジョンをぶっ壊してくるよ」
「……私も行った方がいいか?」
「俺一人の方が自由にできていい。牢屋の場所も倉庫の場所も、俺ならほぼ一瞬で分かる。一々アルエストに確認を取るのも面倒だしな」
「それもそうか」
「このアジトにはセフィアを残しておけばなんとかなるだろ。まだ椿は置いておいた方がいいだろうし、そうなれば風香もいた方がいい」
「となると……」
「アルエストはサレイアを連れて、このアジトから最も近い町……というより、ここよりも規模が大きい場所に行って、その状態でも確認してくるといい。地図なら渡す」
そういって一枚の紙を渡す秀星。
アルエストはそれを受け取って中身を確認した。
「……ダンジョンは秀星が片付けて、町に関しては私が確認するということか」
「ああ。その役割分担がいいだろう」
「そうだな。秀星は指揮官というよりは戦士だ」
「そういうこと」
秀星は技術的な知識は大量に持っているので、会社なら作れるだろう。
実際に『ユグドラシル・ストア』を作っている。
だが、その運営の実態はセフィア任せであり、ノウハウはほぼ持っていない。
「そうだな。ただ、ここを風香と椿とセフィアに任せることになるが、勝手に押し付けて大丈夫か?」
「まあ、多分大丈夫だろ」
ダンジョンで何が行われているのかいまいちわからない。
そのような場所に椿を連れていくのもアレだ。
セフィアをこのアジトに置いていくとしても、風香に『秀星についていく?椿と一緒に残る?』ときいても、風香は椿の方を選ぶだろう。
「そうか。秀星がそういうのならいい。ダンジョンの方は任せよう」
「ああ。そっちも町のことはしっかり調べておけよ」
「当然だ」
役割は決まった。
あとは、『実態』がどうなっているのか。現場に行って確認しよう。




