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第九百十七話

 アジトの中にいた人を全員寝かせたので、秀星とアルエストは椿たちを中に入れてアジトの中を探索中だ。


「ふーむ……ノアスフィアの魔石って結構形がいびつだな」

「むう、確かに思ったより大きいですよね」


 倉庫で話す秀星と椿。

 ゴブリンを殲滅したのでその分魔石は大量に集まったのだが、正直、常人と比べると魔力を作れる桁が全然違う秀星は魔石などいらないので、アジトの倉庫に持ってきた。

 ただ、やたら大きな荷台に積んでいると思って布をめくってみたが、どれもこれも野球ボールみたいな大きさなのに、魔力の密度は薄いのである。


「これってすごく運ぶときに面倒だと思います」

「この魔石から取り出せる魔力なら……地球だったらピンポン玉よりも小さいくらいだね。加工すればもっと小さくなると思うよ」


 風香も手に入れた魔石を見ている。

 時々忘れそうになるが、風香は魔力そのものを正確に視認できる目を持っているのだ。

 地球でダンジョンに潜って取れる魔石と比べて大きいが、大きいだけでこれでは使いどころが難しいだろう。


「そういえば、魔道具もなんだかやたら大きいですけど、どれもこれも、この大きめになりやすい魔石を入れるために大きく作ってる感じですよね」

「だな。しかも、形が定まっていない魔石から一々抽出変数を調節して使ってるから、そっちにも魔力が使われていて効率が凄く悪い」


 とはいえ、それが限度というものだ。

 できて『工夫』が限界。『研究』というのは一部の町にしかできないだろう。


「何か改善策ってありますか?」

「コインくらいの大きさに変換する魔法具を用意しよう。それがあるだけで、嵩張る魔石の管理が楽になる」

「なるほどです」

「あと、一個一個に対して一々魔石を入れてるっていうのも面倒だな。水を精製できるようなライフラインにつながる魔法具は全部繋げてしまって、一つの制御盤を弄るだけで使えるようにする程度じゃないと、少なくとも便利とは言えないし。作業するとなれば実際にだるいだろ」


 便利というものは基本的に『自動』という概念におさまるというのが秀星の考えである。

 一々手作業で頑張るのは、確かに頑張っている感じはするが、あまりそれが賢いことなのかと言われれば違うだろう。


「あ、あの……」

「ん?」


 救出した少女の一人が話しかけてきた。

 救出した中では一番の年長さんである。


「みんな寝ているんですけど、これって一体……」

「ああ。アジトに入ったら剣や弓を向けてきたから、魔法で全員眠らせた」

「え……」


 少女の顔が青ざめる。

 ゴブリンを殲滅する前に椿と風香が少女たちのところに到達して、そこから解放された後で秀星が残ったゴブリンを遠慮なく全滅させたので、少なくとも『秀星が圧倒的な強者であること』は分かっているのだ。

 そんな人物に剣を向けたとなれば、そりゃ顔だって青くなる。


「まあ、どうせ剣を向けてくるだろうなって思って入ったから、別に文句はないさ。全員眠らせてるから、起きた時に説明よろしく」

「あ、はい。わかりました」


 一回の説明で納得してくれるとは思っていないので、実は『催眠魔法』をちょっと使っている秀星である。

 そうでもしないと話が進まないだろう。


「とりあえず、このアジトになる物をいろいろ強化するか」

「あの、なんで、ここまでしてくれるんですか?」

「……偽善と酔狂でやってると思えばいい。理由があろうとなかろうと、何かをやり始める人間は少なからずいる。俺もその一人っていうだけの話」


 そこまで言ったとき、アジトの中央から良い匂いが漂ってきた。


「セフィアが何か作ってるみたいだな」

「おおおおお!食べに行きますよ!」


 椿がものすごく喜びながら、話しかけてきた少女の腕を引っ張って走っていく。

 風香が苦笑してそれについていった。


「……」

「なんというか、私たちにとって一番面倒な部分を、椿は無意識にやっているな」

「だな。さすがにあれは真似できんよ……とりあえず、このアジトとの交渉くらいなら、椿にやらせてみた方がいいかもしれないな」

「私たちはどうするんだ?」

「カンペを考える役に決まってるだろ」

「確かに、椿一人でスピーチは無理か」


 一手先も考えてないからね。


「睡眠魔法はそろそろ解けるようになっている。セフィア達がアジトを改造しててざわついてるんだ。多分そこそこ早めに起きるだろ。さっさと考えるぞ」

「そうだな」


 交渉や説明ができないというわけではない。

 ただ、相手が極限の状態で戦っている中で、自分のいうことを聞いてもらえるかとなれば、それは別である。というかやったことがない。


 そういう時には、椿に何とかしてもらおう。うん。

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