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第九百十六話

「なんていうか。徹底的に破壊されているって感じがするな」

「ああ。人間が住んでいる領域のほとんどが使い物にならなくなっている。穀物をみるだけであそこまで驚くとはな……」


 刺激が強すぎるということで転移や転送を使わずに車を用意して移動している一行。

 ……いや、車と言っても大型のキャンピングカーなので十分刺激は強いのだが、あまり妥協しても仕方がないのでこのレベルまで見せることにした。

 レーダーキャッスルの防衛だが、セフィアを軸にして、オールマジック・タブレットで作った防御魔法や、マシニクルに付属している『兵隊』などを利用して行っている。

 正直、秀星はこの世界の文明基準では完全にバランスブレイカーなのでそれで問題はないだろう。


「人間に残された生活圏は基本的に『村』か『集落』か『隠れ家』の単位で、一部『町』があって、それがあることで人口の維持ができてるってところか。ただ、聞いてる感じだと、もう滅亡を待っているような感じだな」

「ああ。ここまでダンジョンが地上に影響を及ぼしているとは……あまりにもギリギリで、何故生き残っているのか疑問に思ったほどだ。一部、戦えるものはいるようだが……むっ!見えてきたぞ」


 ちなみに車を運転しているのは秀星である。


「で、ここがそうか」

「ああ。座標ではそうだな」


 秀星の確認に頷くアルエスト。

 一部の技術を持っているもの達は、村として地上に作るのではなく、地下空間を作ってそこに生活している。

 地下に隠れることで生き延びるという手段をとっているのだろう。


 キャンピングカーには最初からステルス機能が搭載されているので、そのまま降りる秀星とアルエスト。

 地面に触れて『鍵』の魔力を送り込むと、わずかに地面がズレた。


「正解か……地面の色すら変えず、周りに見える景色だけで判断とはな」

「地面の色を目ざとく見つけるモンスターが時折いるらしいな。いつの間にか出入り口の周りをモンスターに囲まれていて、全滅した集団もいる」


 ズレた地面の一部に指をひっかけると、そのまま地面をずらした。

 人が一人通れる程度の穴になる。


「……で、俺たち二人で最初に入るってことでいいんだな?アルエスト」

「救出した彼女たちは、まだ心の傷が癒えていない。まだ、椿や風香に世話をさせるべきだろう。一応、彼女たちは『戦士』として活動していたから覚悟していた部分はあるはずだが……」

「どんなものであってもあの子たちの覚悟を笑うなんてことはしないさ。で、少女たちを動かせないとなると、俺たちが最初に入るってことね」

「そうだ。それに、救出した少女たちを連れていくのは逆にまずい。ダンジョンマスターの中には催眠や洗脳を普通にするものもいるからな」

「殺す方が本人のためになると思って剣を向けてくる可能性もあるか。さすがにそれは酷だ」

「おそらくこの奥にいるもの達は、最初は私たちを敵だと思うだろう。だが、君と私なら彼らがどのような戦力を使ったとしても対抗できるからな」

「確かに」


 というわけで、ハシゴを下りて穴の中に入る。

 後に入ったアルエストは地面の出入り口を戻して、秀星に続いて降りていく。


「簡易的な照明が使われているな」

「ダンジョンから出てきたモンスターを倒しまくってるからな。魔石だけは少なからず在庫があるといったところか……というより、こんな世の中なら『王族』は生き残っていても国など残らないだろう。魔石が通貨の代わりになる可能性がある」


 梯子を下りて進む。

 ある程度進んだところで鉄の扉があった。


「さてと、行きますか」


 秀星はわざと大きな音を立てて扉を開けた。


 中はそこそこ広い空間が作られている。

 照明の魔道具が一部……いや、見たら畑だったが、そこに大量に使われていてやたら明るいが、他はいうほど『明るい』とは言えない状態。

 食糧生産を優先した資源の使い方をしている。


「な、なんだお前たちは!」


 体格のいい男性が剣をこちらに構えている。

 手入れはしているようだが、剣そのものの質はあまり高いとは言えないものだ。

 ちなみに、『人の形をしているから』といってすぐに信頼を勝ち取れるわけではない。

 理由は簡単で、人間に化けることができるモンスターだっているからだ。少女たちを連れたとしても剣を向けてくると判断した理由の一つでもある。


「事実を言えば人間だ。信じてもらう必要はない。用件は、このアジトを拠点にしているであろう少女たちを五人ほど保護しているというものだが……」

「そんなこと信じられるか!」


 男性が剣を構えて秀星に斬りかかってくる。

 鍛えているのだろう。訓練だけでなく実践を積んだ動きだ。

 しかし、それで秀星に勝てるわけではない。

 剣を掴むように受け止める。


「な……」


 体格だけで言えば男性の方が圧倒的だ。

 秀星が受け止めたのはともかく、そこから全く動かせないことで驚愕しているのだろう。

 だが、男性はすぐに柄から剣を手放して離れた。


 何故なのかは周囲の気配を感じ取っている。

 弓を構えたもの達が一斉に秀星を狙っていた。

 放たれる矢だが……当然、それも秀星には通用しない。

 男性が置いていった剣を普通に持って、全ての矢を斬りおとしていく。

 しかも、再利用がしっかりできるように破壊ではなく弾いていく。


 ついでに、弾かれた矢は彼らのはるか後ろまで飛んでいき、倉庫の傍にある空になった筒の中に全て収まっていく。


「な……何なんだよお前は……」


 呟いている男性だが、周りも似たり寄ったりだ。

 そちらは完全に絶句しており、理解できないことが起こったことで思考が停止している。


「曲芸のつもりだったんだが、センスがなかったか。そりゃ失敬」

「……なかなか悪魔じみているな」


 ちなみに秀星の師匠であるミーシェの場合、『世界を破壊するような槍の魔法』を高速で連射されても、それらをすべて弾いて、弾いた先で槍をしっかり組んで、キャンプファイヤーができるようにする。というか、それで実際に『これを使ってキャンプファイヤーをやるといい』という人だ。


(なんだか面倒になってきたな。肉声言語が通じないし、肉体言語でもいいんだが……あ、そうだ)


 解決方法はいろいろある。

 ただ、秀星主観でもっとも面倒にならない方法を選ぶことにした。


 秀星は指をパチンと鳴らす。


 次の瞬間、このアジトにいた全員に対して、強烈な睡眠魔法がかけられた。


 強制的に精神が冷静になり、あがらうことができない睡眠欲求に満たされる。

 もともと、このアジトでの生活で緊張しないということはないだろう。

 戦士として外に出たもの達が帰ってこなかったら。

 常にそう考えながら生きているのだから。


 そんな精神状態の者たちが急に『精神の強制的な安定化』と『強烈な睡眠欲求』を掛けられた場合、それに対して、体が何をすればいいのかわからず、眠りにつく。


 地面に倒れていく人間たちを、セフィアが大量に出現して支えていく。

 いつのまにか彼ら全員がどこに住んでいるのかわかっていたようで、寝床に連れて行った。


「さてと、全員眠らせた。ごちゃごちゃいわれる前にアジトの改造でもやるか」

「そうだな。少なくとも抵抗しても意味がないことくらいは分かっているはずだ。あとは、このアジトにメリットをもたらせばいいだろう」


 それでも襲ってくる場合でも面倒は見る。


「しかし……ここまでとはな」

「……多分こいつらは、生まれた時からここら一体を近くのダンジョンに支配されてる。それで、あの暗い空だ。青空すら見たことがない人間に、希望は分からないだろう」

「……そうだな」

「二万年前はどうだったんだ?」

「ここまでではなかったからな。青空も普通にあったが……そうか、あの空はダンジョンに支配された証か。それの下で常に生きていて、確かに希望を感じることはできないか」


 この世で一番きれいなものが青空だというほど、秀星はロマンチストではない。

 ただ、それを主張する者を、笑ったりはしない。



 秀星も、よくわかっているからだ。

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