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第九百十五話

 ノアスフィアに着いて早々、ゴブリン軍団の殲滅を開始した一行。


「ま、少しは賢いやつがいるみたいだな」


 秀星はそう言いながらマシニクルの銃口を向けて、熱源を感じるものが詰め込まれた荷車の傍にいるゴブリンたちを狙い撃つ。

 次々とゴブリンがはじけ飛んでいく。


「俺たちは人間だ。だから、同じ人間を人質に取ることができれば俺たちを一方的に攻撃できると思ってるんだろ。まあ、人質っていう手段は活用するのに幾つか条件があるんだが……それはいいか」


 次々とゴブリンを倒していく秀星。

 その表情は淡々としており……そう、あえて近い言葉を使えば、『珍しいことが起こっているとは考えていない』ようだ。


「しかしまぁ、あそこまで素直に突っ込める精神は褒めるべきなのか……正直、俺が転移で助けた方が速いんだがなぁ。その方が、椿や風香がこっちに降りてくる必要はないし、俺が魔法で全てまとめて葬ることもできるんだが……」


 あくまでも『最大効率』で倒す場合、秀星が最初に動いた方が効率がいいのだ。

 持っている魔力量も技術レベルも、ノアスフィアに来た五人の中では最も優れており、少し動くだけでやろうと思えば全て殲滅できる。

 もちろん、椿が飛び出したことに対して怒ろうとは考えていないし、秀星が動くよりも『助けに行く』という行動に踏み切った椿を責める意味はない。


 椿が先に飛び出しても、風香が付いていくだろうし、後ろには秀星がいるのだ。

 椿一人だけしかここにおらず、敵の策を一人で解決できないと分かっていながら突撃するのは無謀だが、これほどの戦力がいるのだから、後方支援を期待することそのものは悪くない。


 ……いや、そのような『面倒な判断基準』など、椿にとってはどうでもいいことか。


(あんな娘だが、うらやましい部分がないわけじゃないがな)


 正しいことは正しいこと。

 悪いことは悪いこと。


 その判断基準が椿の中にあって、そしてその『理想』と『実力』のバランスが取れている。


 無謀なことを望むこともなければ、劣等感に悩むこともない。


(その椿がこのノアスフィアで何を学ぶのか。今のところ、考えるのはそれくらいか)


 ★


「もう大丈夫ですよ!安心してくださいね!」


 荷車にのせられた袋に入れられていたのは、簡素な貫頭衣を身に包んだ少女たちだった。

 おそらく5~13歳といったところだろう。


 生気を感じられない目をしているが、椿が必死に抱きしめている。


「……アルエスト。どう思う?」

「それは何に対して聞いているんだ?」

「さっきのゴブリンのことだ」

「……あの少女たちのことは良いのか?」

「少なくとも俺とお前に、『今』は出番はないからな」


 そういって、秀星は風香の方を見る。

 風香は頷いて、少女たちのほうに寄り添っていく。


 ちなみに、アルエストの秘書であるサレイアは現在、少女たちに与える衣服と食事を用意している。


「……確かにそうだな。場所を変えよう」

「ああ」


 ここで椿の邪魔をしては何も進まない。

 ただ、椿に依存されることだけは避ける必要がある。

 それはその時になったら考えることにした。


 秀星とアルエストはリビングでテーブルを囲んで座る。


「……で、さっきのゴブリンたちだが、アルエストはあれを見てどう思った?」

「……なるほど、私が持っている『常識』を前提に聞きたいわけか」

「ああ」


 あらかじめ受け取っている資料があるので、どのようなシステムになっているのかはわかる。

 ただ、ゲームの説明書を読んだからと言ってそのプレイを理解できるというわけではなく、当然、その『定石』を知っている者の話は重要である。


「あれほどのゴブリンを作って運用するとなれば、それ相応に指揮官を作成しておく必要がある」

「指揮官?ああ、さっきの行列でも時々いたな」

「というか、秀星は執拗に指揮官から狙っていたがな」

「だって……明らかに権限を握っていることがわかり切ってるのに堂々としてたから、もう適当につぶしておこうかなって」

「……」

「その表情、アルエストもほぼ同じこと考えてたな」

「ああ。否定はしない」


 テーブルに置かれている紅茶を口に含むアルエスト。


「秀星は気が付いていなかったかもしれないが、今回の戦場に出てきたゴブリンは全て強化されていた」

「そうなのか?」

「ああ。このノアスフィアのダンジョンだが……『ダンジョンを作るゲーム』のようなものをプレイしているような感じだな。何らかのスコアを貯めていき、モンスターを配合して強化する。そういったことを繰り返している」

「さっきのゴブリンたちは、それらの手段で『強化されている』ということか」

「だからと言って君の相手が務まるわけではないのだが、当然、この世界の一般人よりも強くなる場合が多い。ダンジョンマスターに寿命という制約はないからな。古参のダンジョンマスターは長年、軍事力を強化している」

「なーんとなく状況はわかった」


 要するに……ダンジョンマスターはゲーム感覚なのだ。

 いや、彼らなりに『現実』というものはあるだろう。

 だが、この世界で生きている普通の人間と比べて、どこか『軽い』と思う。


「地域ごとに『有力なダンジョンマスター』というものは存在する。この地域は徹底してゴブリンを教育しているようだが……」

「まあ、時間さえかければ軍隊という意味では強いだろうな」

「さっき数百体ほど殲滅したことは覚えているか?」

「自分が常識の範囲内に収まっているとは思ってないから安心しろよ」

「そうか」


 とはいえ、先ほどのゴブリンの殲滅くらいならアルエストにもできるだろう。

 秀星よりも討伐し終わるのが速いかどうかの違いだ。


「とにかく、救出したもの達から情報を得よう。村や隠れ家の位置は秀星の杖を使えばわかるが、状況までは分からないからな」


 どのようなことを聞くのかはともかく、誰が聞くのかだが……。

 少なくとも、秀星とアルエストはまだやめておいた方がいいだろう。

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