第九百十話
別の惑星の話だからと言って天文学の書類をあさったとしても別に解決するわけではないが、神器は使い方によっては惑星間の闘争にも用いられる。
そもそも秀星が出せる出力は地球一個に対して過剰ともいえるほどの『上限』が高いのだ。
ノアスフィアという星がどういう特性を持っているのか。
それらを聞いたりして、いろいろな技術をで調べてみた結果……。
「アルエスト。そのノアスフィアという惑星だが、地球から六百万光年離れているらしい」
「転移以外では絶対にいけないな」
光の速さで六百万年の距離。
無理ですね。
「む~……書類を見てもよくわからないですぅ……」
「ノアスフィアの情報かぁ……第一印象としては、ダンジョンの数がすさまじい印象があるかな」
魔戦士学校は授業が午前中にしかない。
基本的に実技単位を満たすために使うのだが、既に満たしている生徒にとっては午後は単なる自由時間である。
椿と風香が資料を見ているが、よくわかってはいない様だ。
……ちなみになぜいるのかというと、『私も一緒にお話ししたいですううう~~~っ!』といった椿に対して、アルエストが邪魔をしないようにという条件付きで、監視役の風香と一緒に来ただけである。
なお、話している場所はアルエストが使っているあの浮かぶ立方体の中である。
この中でも最低限生活ができる程度には物が置かれているが、現在はテーブルの上には紙の書類が散乱……いや、並んでいた。
「……そういえば秀星」
「ん?」
「あのアトムという男。とんでもないな」
「ああ。まあ、少なくとも『才能』という点で言えば世界最高だろうな。ああいうのを、天才っていうんだろ」
「天才か……確かに、私が何かを言う前にいろいろ分かっていた様子だった。何も聞かずに10を知るといったところか」
「だろうな」
「で、その天才を超える秀星は一体何なんだ?」
「俺が追求しているのは『真理』だ。凡人は10を聞いて10を知り、秀才は1を聞いて10を知り、天才は何も聞かずに10を知る。真理っていうのは、1とか10とかじゃなくて、それらの『物差し』の方だ」
「……言わんとすることは分かった」
視点というか土俵というか、そういった部分の話である。
真理というのはあくまでも情報に過ぎないのである。
ただ……文字通り全てを知っている『全知神レルクス』がこの次元において最強の存在であることを考えると、あまり逃れられないようにも思う。
その最強の存在であるレルクスを基準にするとして、秀星とアトムを比べると、秀星の方がレルクスに近い。
おそらく秀星とアトムで違うのはその程度のことである。
「では、天才は真理にはたどり着けないのか?」
「さあ?それはアトムが示すことであって俺がどうこうするもんじゃないさ」
「……そういう主張か」
アルエストは書類を整理しながら頷いた。
そして、一つの束にまとめる。
「お、何か結論は出たか?」
「ああ。少し、この惑星についても調べたが、本当にノアスフィアではない様だな。我々が海の底にいた間に惑星の名前が変わったことを考慮したが、どうやら本当に、この惑星はノアスフィアではないらしい」
その決定的な証拠が何なのかはアルエストがまとめた書類に載っているのだろう。
「むっ!何かわかったんですか?」
椿がアルエストに急接近した。
パーソナルスペースが異様に狭い椿の接近だが、アルエストは特にたじろぐこともない。
椿のような人間の相手になれているようだ。
「ああ。どうやら本当に、この星は地球であってノアスフィアではないのだということと、この地球から六百万光年離れているということかな」
「六百万光年……ってどれくらいですか?」
「光の速さで六百万年かかるということだ」
「……むう、なんだかよくわからないですけど。とりあえずすごく遠いんですね」
「ああ。実際にこの船を動かしてたどり着くとなれば、人の寿命では足りない」
「遠すぎですううう~~~っ!」
どうやらなーんにもわかっていなかった様子の椿。
「ど、どうやって行くんですか?」
私は行きたい!という感情を顔に出してアルエストを顔を真正面から見る椿。
その椿の感情はアルエストと秀星、そして風香もわかったが……。
「……転移や転送の魔法で行くしかないな」
「むう。なるほどです」
転移や転送で一気に移動すれば、その分移動時間を短縮できる。
……いや、もはや『短縮』という言葉では足りない領域の話であり、ぶっちゃけ、転移魔法一発でノアスフィアにたどり着くのが望ましいだろう。
「これから組み上げないとなぁ……」
「そうだな。さすがにそこまで遠い惑星までの正確な転移座標なんて組もうとしたことないし」
異世界に行く方がもっと簡単である。
しかし、行く準備をしなければ何も始まらない。
……高志あたりに空間をぶち割ってもらった方が正直速そうではあるが。ここでは使わないことにする。少なくとも今回はあまり魔法的にも科学的にも意味不明なことに頼るべきではない。




