第九百九話
「我々は話し合いを望んでいたのだぞ!このような襲撃は断固として抗議させてもらう!」
「……」
結局、あれから双方から数名を選出して交渉の席が設けられたのだが、当然古代貴族側からはアルエストを筆頭に数名。日本側(世界側というわけではない)からはアトムが席に座った。
座ったのは良いが、出るわ出るわといった勢いでアルエストの口から非難の声。
アトムからすれば『いけしゃあしゃあ』と思ったのだが、どうせこうなるだろうな。と思いながらこの席に座ったので深く追及するつもりはない。
つもりはないのだが……耳障りではある。席に座らないといけない身としては。
(はぁ、仕方がないか)
責任の回避や押し付けが政治の基本。
要するにユードルド王国がやったことに対して何かしらの擁護や保護が必要になるのだが、正直なところ限りなく面倒なことに変わりはない。
あとでユードルド王国の上層部にはお灸をすえておくとして、アトムはアルエストよりもひどいことをどんどんいう気で口を開き始めた。
★
「お父さん。いったい何が起こってるんですか?」
朝っぱらに登場した古代貴族だが、既に学校では昼休みといえる時間帯になっていた。
もともとあの島にいた人たちだが、対策室の一部で彼らを日本で抱える方法はすでに揃っている。現代日本は余っている場所がいろいろあるので、国が主導で動けば『住処を急遽用意すること』くらいは何の苦労もないのだ。
まあ、あの島で培われていた技術に関しては世界中で需要があるし、もともとどこかの国に属していた地域ではないので『日本だけが抱えるのは横暴だ!』と言ってくる連中も当然いるわけだが、救出した秀星が日本人なのでそこのところを利用して全部もらったという経緯があるが、それはそれである。
「簡単に言えば、海の底から世界征服を掲げてる連中が浮上してきた」
「へぇ~。珍しいこともあるんですね」
「まあね」
「いやいやいやいや、その程度の感覚なの?」
風香が突っ込んできた。
「いやでも、魔法があるんだし、海の底にいることくらいはできるだろ。それで地上のことを知らずに調子に乗ってたら世界征服くらい企むって」
「むう……あ。そういえば、未来のお父さんから言われてることがありました」
「未来の秀星君から?」
「はい。その世界征服を企んでる人たちが現れたら、『ここは地球という惑星で、ノアスフィアではありません』って伝えるようにって言われてます」
「ノアスフィア?」
秀星には聞き覚えのない言葉である。
だが、未来の秀星が椿を通じて伝えるようなものだと考えると、重要な場所なのかもしれない。
「ふーむ。いったいどうなってるんだろうな……ん?」
アルエストから渡された端末に着信が来た。
これに通信してくる相手は一人しかいない。
「はいもしもし」
「秀星。あのアトムという男。倫理観が欠落していないか!?」
「罵倒から入るんかい。何があったんだ?アルエスト」
「ユードルド王国が艦隊とドラゴンで攻めてきただろう?」
「ああ。話には聞いてる」
「それ関係で抗議の場を作ってアトムという男と交渉していたんだが、もう理論整然としていながら倫理観が吹っ飛んでるんだよ!どうなってるんだアイツは!」
「いやまぁ。普段から物理法則や魔法法則を吹っ飛ばしてるような奴と接してるからな。末期症状だから問題ないよ」
「問題あるだろ!」
確かに。というかさっきのは秀星の言い分が悪い。
「で、話はどうなってるんだ?」
「分が悪いということで若干こっちが引き下がる形で終了した。今は報告書を作成中だ」
「そうか……上に報告するってことだろうけど、頭の固いやつがいるんじゃないのか?」
「アトムにはバレていると思うが隠しカメラを用意しておいた。それで映像と音声をリアルタイムで通信していたから、『アトムと交渉したい人いる?』と聞いたら誰も手を上げないだろう。相手が強すぎるのに現場の人間に責任を求めすぎてもアレだしな」
「確かに」
敵が強大な場合、いくらこちらの駒が強かろうと、その駒に過剰な期待をするものではない。
適材適所という言葉があるので、しっかりと経験を詰んでいる人間が交渉の場につくことは間違いではないが、たかが宇宙船の中の権謀術数を生き抜いた程度の経験でアトムをどうにかするのは不可能である。まだ二十になったばかりだというのに魔法省のナンバーツーだし。
「あ、そういえば、ちょっとお前に伝言があるんだ」
「伝言?」
「椿。ほれ」
端末を椿に渡した。
椿は笑顔でそれを受け取った。
「あ、もしもし。私は朝森椿と言います!」
「朝森……秀星の妹かな?」
「いえ、娘です!」
「え……君、何歳?」
「む?十五歳ですよ?」
「秀星は?」
「十七歳ですね」
「……養子か?」
「いえいえ、しっかりと血がつながっていますよ!」
「……」
あまりアルエストで遊ぶのはやめなさい。
「私は二十年後の未来からやってきたんですよ!」
「あ、なるほど、そういうことか」
それで納得するんかい……。
「はぁ……で、何かな?」
「未来のお父さんが言っていたんですが、『ここは地球という惑星であって、ノアスフィアではない』とのことです」
「……エ゛ッ」
マジで!?という声色が見えた。
「あ、お父さんに代わりますね」
椿が端末を渡してきた。
「で。アルエスト。ノアスフィアっていうのはなんだ?」
「我々が産まれた惑星だ。もっと言うと……我々は、ノアスフィアの征服を計画していた」
「ノアスフィアってそこまでして征服することに意味がある惑星なのか?」
「ああ、征服するとノアスフィアの『惑星魔法』が起動して、とある『図書館』にはいる権限を得ることができる」
「図書館ねぇ……なるほど。で、地球に興味はあるのか?」
「ないな」
「うーん……」
どうしたものか。まあ確かに、世界征服と言っていて地球征服とは言っていなかったのだが。
「ともかく、これからの計画に大きな影響を及ぼす。上には報告するが……いったい何があったのか、我々にも不明だ。すまないが切るよ」
「ああ」
通話終了。
「秀星君。どういうことなのかな」
「何者かがノアスフィアから地球にあの宇宙船の運んできたということだ。ただ……本人にその認識が全くなかったところを見ると、中にいる人間が全く気が付かない技術……おそらく転移系統の魔法だと思うが……」
中にいる人間に魔法そのものを感知されずに転送させるとなれば、よほどの練度が必要だ。
「それって……」
風香には一人、それができそうな人間に心当たりがあった。
「いや。母さんは確かに転移神だが、あの宇宙船には、神の力は欠片ほども残っていなかった。残りカスすらもなかったとなれば、神の力は使われていないと考えていい」
「そうなんだ……」
「もう一つ。ユードルド王国という国が『古代貴族の天敵』となるドラゴンを召喚したそうだが、ノアスフィアにいた時点で古代貴族の天敵だったはずの彼らが、何故地球でその技術を使えるのかも気になる」
「むう、謎が深まりましたね!」
「とりあえず、古代貴族の狙いはノアスフィア征服後に『図書館』に入ることらしい。地球には何の興味もないそうだ」
「むう……でもとりあえず、敵対する理由がないことも確かですね」
「ああ。ノアスフィアがどういう場所なのかはわからないが……そもそも、古代貴族が『征服』という言葉をどういう意味で使っているのかもわからんな」
そもそも惑星そのものが違うとなれば、『征服』という言葉の使い方すら異なるだろう。
征服。という言葉の意味は
1 武力で敵を負かし、支配下におくこと。「敵国に征服される」
2 困難を克服して目的を達成すること。「難病を征服する」
といったものだ。
単純に世界征服と言っても、秀星が考えている使い方とは違う可能性もある。
「……ことはそう単純ではないか。基本的に俺たちに関係がないんだけど」
「確かに」
「言われてみればそうですね」
別の惑星の話とかされてもね……というのが秀星の本音である。




