第九百八話
監視映像に艦隊とドラゴン、そしてそれらをまとめて壊滅させるアルエストの姿が映ったことで、『対策室』は大混乱となっていた。
「はぁ……突っ込んでいったところの情報はあるかい?」
その対策室長となったアトムは、頭痛が酷くなるのをこらえながらも副長に問う。
魔法省の次官として業務があるからと正直逃げたかったアトムだが、魔法大臣であり、頂上会議時代は『議長』を務めていた会堂蓮によって対策室長に任命されてしまった。
純粋な『才能』という点では秀星すら上回るアトムだが、『ときどきいる油断できない老人』というものは一定数いるもので、言い換えればまだ青いアトムは交渉で負けたのである。
「回ってきました。ユードルド王国と呼ばれる国のようです」
「えーと……どこだったかな」
抜群の記憶力を持っているアトムだが、目の下に隈を作っている男性からの報告を聞いただけでは思い出せなかった。
「エインズワース王国の隣国です。召喚魔法の研究国として名をはせており、エインズワース王国の『魔法石鉱山』を狙って政治的な交渉を続けているとか」
「エインズワース王国……ああ、前年度の夏休みあたりに、秀星が向かっていたね。今は十七歳の女の子にしか見えない少年が国王だったかな?」
「女の子にしか見えないのは前の王も同じですが……」
「まあそれはそれとして……なるほど、エインズワース王国関連の書類にチラチラ出てくるから引っかかっていたのか」
アトムはとりあえずそこまで思い出した。
召喚魔法と口では言っても、単に『何かの存在を現代に出現させる』という結果でそう分類しているだけで、発動にかかるコストや召喚魔法の構造そのものは千差万別である。
ユードルド王国の召喚魔法は、
①:発動そのものに大きなコストはない。
②:一人につき一体しか召喚・維持することができない。
③:強力なモンスターを使うことができる。
④:モンスターを召喚している間は常に魔力を消費する。
といったところか。
それらの力を使ってあのドラゴンを呼び出しているようだ。
確かに、鱗一枚一枚に百以上の付与魔法をのせているとなると、ドラゴン本体の『結果的な性能』は計り知れないものになる。
十分強力なモンスターと言っていい。
「……あれを召喚できるような国を相手に、エインズワース王国はよく無事だったな」
「いえ、どうやらユードルド王国にとってあのドラゴンは機密であり、さらに強すぎるため、一度召喚すると他国に目をつけられると思っているのでしょう」
「なるほど」
ユードルド王国そのものは大きいとは言えない国だ。
追加の資料でユードルド王国のデータがあるが、食料とエネルギーの自給率も高くはない。
他国に頼らなければならないことを考えると難しいだろう。
「では今回、なぜ彼らはあのドラゴンを使っていると思う?」
「あの古代貴族と名乗る者たちを倒すことができれば、まだ表には公表していないあの宇宙船の所有権に対して優位に交渉できると考えているのでしょうね。それに、やたら自信があったようにも見えますし……何か、ユードルド王国と古代貴族の間で、因縁があるのでは?」
「まあ、そう考えるのが自然ではある」
急に降って湧いて出てきたので確定していないことは多いものの、『古代貴族との間に因縁がある』ということに関しては納得したアトム。
「とはいえ……あのアルエストという人物。相当な実力者だな」
「ええ。剣一本であそこまでドラゴンを斬り伏せるとは……見たところ、神器を使っているようにも見えませんし、相当な実力者です」
圧倒的。
そう、ドラゴンに対して、あまりにも圧倒的だ。
「対処主義と言っていたね。あのドラゴンに対して、昔は対抗できずに、今は対抗できるようになったから浮上してきた。とは考えられるかな?」
「可能性は高いでしょう」
対処主義ということは、何かが起こってからそれに対する解決策を考えるもの。
言い換えれば、まだ自分に振りかかっていない危機に対して、何かを考えるということはない。
あのドラゴンを完璧に倒せる技術を手に入れるために、彼らは海の底に潜っていたのだ。
「……ただ、あの様子を見る限り、あのドラゴンを倒すためだけに潜っていたとは思えないな。対処をただ考えたにしては、余裕がありすぎる」
「他にも計画があるのは事実でしょう。あれほどしっかりした『宇宙船』を見るのは初めてです。もともとゴールが宇宙にある可能性は十分にありますし、それらの対応策を全て考えた結果、今まで潜っていたと考えるのが自然でしょう」
「実際、水圧に耐えられる技術力があれば、海の底で研究することは可能か」
「はい。要するにこれ以上準備することがないと考えて、彼らは表に出てきた。と考えるべきです」
「ふむ……」
副長の言うとおりだと思うアトム。
さて、色々見えてきたところで……。
「さてと、とりあえず、先に暴れてしまったのはこちらになるということか。その対応をするのが一体誰になると思っているんだろうね」
「我々になるでしょうね」
「ああ。ユードルド王国の内心はともかく、今回のこの襲撃は軽率がすぎるよ。あれ程大きな宇宙船を見て、『勝ったときのことを考える』皮算用をするものたちに、責任能力の期待はできない」
「期待ができないとなれば、我々がなんとかするしかないということですね……」
「大変面倒だが、そうせざるを得ない。資料を作成しようか。彼らにとってあの艦隊を殲滅するのは片手間にできるようなことであったとしても、外交で利用しない手はないからね」
今まで海の底に引きこもっていた宇宙船の乗組員に外交能力があるのかどうかはともかく、権謀術数という概念は存在するだろう。
身内の中で足の引っ張り合いをするだけの愚かな行動とは違い、しっかりとものを見れる聡明さをアルエストは持っている。
まあ、戦争責任が自分にあったとしても責任を相手に全て押し付けるのが政治の基本原則だ。
一つ問題があるとすれば、『権謀術数で勝てる政治的交渉力』と『ドラゴンの軍勢を殲滅できる戦闘力』を併せ持っている人材はこちらにはあまりいないことだろう。
先に向こうが交渉の場を荒らすつもりだった場合、話し合いにならないのだ。
理性的な話ができるとは思っているが、アルエスト個人はともかく、その『上』がどう判断するのかがわからない。
というわけで、交渉の場にアトムが行くことは確定である。




