第九百七話
古代貴族のかつての天敵だった存在。
文明というのはどのような要因でその姿を隠すことになるのかなど様々だが、モンスターが存在する世界で魔法文明が滅ぶ原因は『そのモンスターを倒せる手段を開発できずに、モンスターが大量に攻めてきた』という状況が多い。
古代貴族もそれに該当するだろう。
モンスターは様々な進化を遂げ続けるため、その中でどのような要素を手に入れるのかが全く持って不明である。
そうして誕生したモンスターにひっくり返されることなど、別に珍しいことではない。
(そのようなモンスターが『攻めてくる』というのは、よほど攻撃的な性格をしているモンスターでなければあり得ないことだ。二万年前。我々の祖先は特定のモンスターの『大群』に襲われたわけだが、通常、そのようなことはあり得ない)
アルエストは、秀星と接触するときに使っていた立方体の上に立っていた。
その視線の先にはドラゴンの大軍が存在する。
緑色の鱗を持つ黄色い瞳の竜で、一体一体が全長十メートルほどだろう。
目に見える範囲でもおよそ百は超える程度のドラゴンがこちらに向かって飛んできている。
(ドラゴンの奥に艦隊が見えるが、重要なのはその作りか。人間が持つ魔力をブーストするための機材があるんだろう。これらのドラゴンの『召喚魔法』を行使するためには、それ相応の魔力量が必要だ。そういえば、魔力量と言えば……)
初めて秀星と接触した時のことを思い出す。
魔力というものは体内で安定しているものだが、魔法文明でそれ相応の『教育』を受けてきたアルエストはこれが見えるのだ。
秀星の魔力量は膨大であり、アルエストは内心で汗を流したものである。
秀星が適当に魔力を使って砲弾をぶちかますだけで、自分たちが殲滅されてしまうのではないかと思うほどだ。
もちろん、魔法を研究しているゆえに『無力化』という技術も開発しているが、その無力化そのものを魔力に使って行使しているため、いつまでも続くわけではない。
だが、秀星を見ていると、自分では考えられないほどの時間、魔力を放ち続けることができるのではないか。そう考えてしまうのだ。
アルエストのこの予測は正解であり、神器は『自分の魔力量が、作った神が下位神なら十倍、上位神なら百倍、最高神なら千倍になる』という性能に加えて、『同じ神が作った物しか使っていない場合、その倍率は重複する』という性能がある。
違う神が作った下位神の神器を二つ持っていると二十倍にしかならないが、同じ神が作った下位神の神器を二つ持っていると百倍になるのだ。
創造神ゼツヤという下位神が作った神器を十個使っている秀星は、常人の百億倍の魔力量を誇る。
これで警戒しない人は小学生から算数をやり直した方がいい。
「さて、それに比べれば何ということはない。そのドラゴンの特性、『鱗一枚一枚が百種類以上の付与魔法を持つ』という、ほぼ完全な防御性能を持っているということだったかな。そのドラゴンを超えることができなかった」
ドラゴンがブレスを放出してくる。
レーザーのような熱線が飛んできて宇宙船に直撃する。
とてつもない熱量で焼こうとしているが……。
「昔はそのブレスを防ぐこともできなかった。こちらが用意した防御壁を貫通する付与魔法がその鱗の中には存在する。鱗の数は知らないが、実際に数にすれば膨大だろう。それほどの付与魔法に対抗することができなかった」
淡々と語るアルエスト。
レーザーに焼かれている宇宙船の表面は何も傷がついていない。
「昔は技量が足りなかっただけだ。『耐性を構築しあういたちごっこ』というものを、対処主義である我々は理解している。要するに時間だ。研究する時間があれば何も問題はない。自動的に更新し続ける機能を生み出してしまえば、勝ったも同然だ」
アルエストは剣を抜き放つ。
剣に魔力を纏わせると、真横に一閃。
斬撃が飛ぶように走り、十を超えるドラゴンまとめて一刀両断にする。
「今なら、こうして普通に戦っても、君たちの付与による防御を貫通できる。君たちは変わらないね」
昔、そう、その昔の戦いを見ているかのように語るアルエスト。
そして、その『見てきたかのように』というのは、事実そのものなのだろう。
「フフフ。かつて超えられなかった敵をこうも圧倒してしまうと、なかなか思うところがあるね」
艦隊の上で杖を構えている男たちが慌てているようだ。
天敵……いや、鱗一枚一枚が百以上の付与魔法を持っているとなれば、それはもう『強者』といえるだろう。
よくそんなドラゴンを考えたものだが、それはともかく、そんなものをぶつけているのに、何も通用しないのだ。
「昔、彼らは何と名乗っていたかな。残念ながら、ドラゴンに興味はあっても君たち自身には何の興味もなくてね。二万年もたつと忘れてしまったよ」
再度剣を振るアルエスト。
次は、ニ十体が両断された。
「何の抵抗もなく切れていくね。さすがにこれは面白くないなぁ。もうちょっと頑張ってもらいたいが……まあ、あまり求めすぎても酷というものか。それに、あまり調子に乗りすぎて秀星と戦うのは嫌だしね」
今のところは敵にならないだろう。
そして、敵にしたくないのだ。それは認めるしかない。
「とはいえ、今回はそっちから攻めてきたんだ。私が気が済むまで暴れても、文句は言わないだろうね」
力を入れて、一閃。
残るすべてのドラゴンが両断される。
「どんどん出してくるといい。準備運動にもならないが、無双ゲームは好みだからね」




