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第九百六話

 静かな展開だ。


 ようするに、それは『お互いにいろいろ企んでいる』ということでもある。

 嵐の前の静けさ。の正体は、『準備中だからその期間が静かに見えるだけ』ともいえる。


「なかなか面白い話相手だ」


 呟くようにそう言って、アルエストはデスクに端末を置いた。

 秀星に渡したものと同じ型の端末であり、先ほどまでそれを使って秀星を話していたのだろう。


「珍しいわね。あなたが気に掛けるなんて」


 白を基調としている落ち着いた執務室の扉が開く。

 入ってきたのは、一人の女性。

 白いミニスカスーツを身にまとっている紫髪碧眼の女性で、タブレットのようなものを持っている。


「サレイア。私は別に物事に無関心ではないんだ。さすがにそれは心外だよ」

「そうかしら?少なくともここ数年。あなたが嬉しそうにしているのは見たことがないのだけれど」

「……まあ、べつにそれはいい」

「そうね。それで、あなたから見て、朝森秀星というのはどのような人物なのかしら?」

「ふむ」


 アルエストはあごに手を当てて考える。


「……少なくとも、彼とは直接的な戦闘は避けたいね」

「でも、代表戦を行うのなら、彼は出てくるはずよ?」

「だろうね。私もそう思っている。ただ、彼以外の人間で注意すべきなのはいても数名だろう」

「ふーん……」

「で、私が秀星と話している間に、上はどうなっているんだい?」


 外務担当であるウェストリア家。

 当然、今まで海の底に引きこもっていたのですることがなかったのである。

 当時から外務に関する訓練を積み上げてきたことで実力はあるのだが、宇宙船内部での功績がないので八大貴族としては序列最下位となる。


 八大貴族の次期当主という椅子に座っているアルエストだが、宇宙船内部での権限はほぼないのだ。

 そのため、『これからの古代貴族がどうするのか』に関連する会議はほぼ出るだけで発言はしていない。


 秀星と話している方が楽しいということもあるので、こうして執務室に籠っていた。


「なかなか決まらないわね。特に防衛を担当するゴールドール家がそわそわしてるわ」

「ゴールドールが?……なるほど、あの爆撃が全く通用しなかったから焦っているわけか」

「あれは単なる砲撃じゃないわ。一発一発に別の付与魔法がかけられている『どのような耐性を所持していても撃退できる』とすら言われたものよ」

「確か、浮上したてを狙って近づいてくるものを殲滅して、戦闘力という点で交渉で優位に立とうといっていたのはゴールドール家だったね」

「ええ。朝森秀星には設定ミスと言ったけど。実際はそうよ。ただ、朝森秀星には全く通用しなかった。盛大に焦ってるわよ」

「だろうね」


 アルエストはとてもいい笑顔になっている。


「設定ミス……か。まあ、彼には嘘をついてしまったことになるが、おそらく結果は変わらないだろうね。個人が持つ力の上限があがったものだよ」

「ええ。正直、映像を見ていて驚いたわ。世界征服を掲げているのに、相手にすごく強い人がいるんだからね」

「まあ、どうするのかは上が決めることだ」


 そういって、デスクに置かれているタブレットを手に取るアルエスト。


「朝森秀星。彼には興味があるわ。一番面白かったのは……『ゲームではテーマの中で面白くない要素が完全に排除されて、単純で面白い部分だけを製品に組み込んでるから面白いのであって、現実でやってみてもストレスしかたまらないテーマはたくさんある』といっていたことかしら」

「私は思わず笑い転げそうになったよ」

「あなたの主張と同じだもんね」

「ああ。その通りだ」


 アルエストは微笑む。


「とはいえ、まだ向こうの方針も固まらないだろう。そのうちにどこかがちょっかいを掛けてくる可能性は十分にある」

「ちょっかい?」

「我々は敗北して海の底に隠れることになった。もちろん。そこには敗北することになった『原因』がある。そして、その『原因』を持っているものは、我々の拠点を襲撃して主導権を握ることができると考えても不思議なことは……」


 そこまで言った瞬間、ブザーが鳴り響いた。


「……攻勢を向けてきている勢力がいるようだね」

「タイムリーな話ね」

「ああ。これから何が起こるのかわからないが、まあ、こういうのは逸る愚者がいることで動くものだよ」


 アルエストは立ち上がって、部屋の壁に立てかけていた剣を腰につった。


「こっちも向こうも方針が全然決まらなくて退屈していたところだし、歓迎しようか」

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