第九百二話
宇宙船と弾幕パーティーをやっている秀星。
最初は千くらいの大砲だったのだが、次々と……しかし定期的に大砲が増えている。
しかし、開始してニ十分後。
大砲の数は万を超えるほどになった時、全て収まった。
「……?」
一体何があったのだろうか。
全ての砲弾が正確に秀星を狙っていた。
とてつもない精度であり、優秀な照準装置が存在するのは分かる。
秀星は一ミリも動いていないので、狙おうと思えばできるものなのかもしれないが……それは置いておこう。
宇宙船の側面の壁の一部が開いて、その奥から大型のゲートが出現。
その扉が開いて、直径五メートルほどの立方体が出てきて、秀星の近くにまで飛んできた。
立方体に扉が付いており、ガチャっと開いて中から誰かが出てくる。
なんというか……近未来。といえる服装をしている茶髪の男性だ。
剣を腰につっており、立ち姿からは達人といえるほどの実力を感じさせる男。
秀星をまっすぐに見て、そして嘲りの視線に変わった。
「さて、先ほどは砲弾をあびせてしまってすまない。浮上したばかりで『自動迎撃システム』の調整が間に合わなくてね。敵意に関係なく攻撃するようにしてしまった」
「……はぁ」
「我々は『古代貴族』……はるか昔、この世界に最強の文明を築いていた崇高なる血族だ。そして、私はアルエスト・ウェストリア。最高位に位置する八大貴族、ウェストリア家の次期当主である」
……。
正直に言えば、やたらごちゃごちゃしているように思えるが、要するに
①:古代貴族には階級制度がしっかりあって、何段階かに分かれている。
②:最高位の爵位が存在し、そこには八つの家が席を置いている。
③:この人はボンボン。
といったところだろうか。
「……浮上してきた目的は?」
「世界征服だ」
秀星は端的な感想を言うならば『海の底に帰れ』となるが、目的を聞き出すという点ではそういうことを言ってしまうと何も解決しないので置いておくことにした。
「我々は圧倒的な魔法文明の研鑽を積んでいる。世界は我々に支配されるべきなのだ」
「……支配ねぇ」
「言い方が悪いかもしれないが、人間というものはより強い存在に守られることによって安心と平穏を得ている。だが、守る方もボランティアではない。何かしらの見返りが必要だ。ただし、どちらかがより優れている場合。かならずその優れている方にとって有利な『交渉』がその場で発生する」
「ふむふむ」
「その構造は、まぎれもなく主従関係であり、『支配』と呼ぶべきだ」
「……なるほど」
言っていることは間違っていない。
どこか『ズレている』が、彼らなりの道徳や倫理観というものは存在するのだろう。
「そして、我々は優れた魔法技術を持っている。我々によって、世界は支配されるべきなのだ」
「……」
あくまでも秀星の個人的な意見の話だが、基本的に、
『世間一般的な倫理観を理解し、それに反さず全体に利益をもたらすことができる者が統治する』
ということに関しては文句はない。
おそらく、これに対して明確な反論意見があるとすれば破滅願望や終末論に取りつかれているものくらいだろう。秀星はそういった人たちを『一般的』とはしないので除外する。
というわけで……
「どうだろうなぁ。多分、アンタたちとこの地球人では、どこかが『ズレてる』よ」
アルエスト。と名乗った男性には、確かに豊かな才能と細かい部分を矯正し続けてきた努力があることは秀星にもわかった。
剣を握っていることを含めて、おそらく剣術を生業とするうえでかなり水準は高いだろう。
地球には数多くのモンスターが存在し、それらは対処しなければ数が増えていずれ脅威になるため、モンスターを倒せる手段を持っているということは重要である。
先ほどの砲撃が自動迎撃システムであることは秀星もわかった。
定期的に増えていく大砲はやたらシステマチックにくみ上げられたものであり、そこに人の綿密な操作があるようには感じられなかった。
自らに照準を合わせていることすら自動的な魔法ですべて行っていたことも、逆算的に導き出した演算から秀星は分かっている。
それらの不備があったことは事実で初手砲撃となったが、その次の場面では対話を望んできた。
秀星の主張に対しても決して怒ることはなく、『人間とはこういうものだ』ということに関して、あながち暴論ともいえない論理を展開している。
しかし……『さて、先ほどは砲弾をあびせてしまってすまない。浮上したばかりで『自動迎撃システム』の調整が間に合わなくてね。敵意に関係なく攻撃するようにしてしまった』というのが彼らの最初の主張。
何が悪いと考えているのか。ということを明確にして、誠意はともかくまず謝罪から入ったことはわかったが、その後に関しては誠意は何も感じなかった。
誠意と感じなかったその部分が、どこか引っかかる。
「ふむ、ズレ……か。だがしかし、それは人間であれば当然のことだろう。国家によって、民族によって、地域によってズレは存在する。我々も『妥協』という言葉を知らないわけではないし、実行しない場合、自らにどのような不利益を被ることになるのかを学んでいないわけではない」
破綻しているわけではないアルエストの主張。
「一応聞くが、さっきの砲撃。俺じゃなかったら死んでいたと思うんだが?」
「ふむ、確かに。君はかなりの実力者のようだ。人間というのはもっとも実力の幅が広い種族。確かに死んでしまうこともあるかもしれない。だが、我々なら蘇生魔法も使用可能だ。死んでしまったとしても問題はない」
「……」
事実だけを述べるならば、人間の魂は肉体の方が死んでから離れるまでに三日間の時間を要する。理論はともかく、それだけの時間がかかるということだ。
蘇生魔法を使う場合、この三日間の間に蘇生魔法を使う必要がある。
蘇生魔法のメカニズムは、『肉体の活動可能な状態にすること』と『魂の適切な定着』によって成り立っているので、理論上はそれで問題はない。
「なるほど。そこか」
「何?」
リスク。という考え方に対する捉え方が違うのだ。
予防という概念がやたら薄い。
国枝はフォルノスに『責任は後から取るものではなく最初から負うものだ』と主張している。
だが、この『古代貴族』と呼ばれる存在は、少なくともアルエストから見える範囲では『責任は最初から負うものではなく後から取るものだ』と考えている。
失敗することは仕方がない。次に同じ失敗をしてもなんとかなるようにする。
蘇生魔法が使えることを盾にするというのはその主義があるからだろう。
蘇生魔法の開発までやってのけるその『徹底している部分』は評価できるものの、こちらがそれを受け入れられるかということだ。
なにせ、『何が起こったとしても、最初の一回はどうしようもないことだと考える』ということなのだから。
「いや……一応、お互いに理性的な話ができることは分かった。とりあえず、知り合いに権力者がいるからそっちに連絡する」
「ふむ、では、こちらの端末を渡しておこう」
アルエストはカードのような物を渡してくる。
表面はタッチパネルのようになっている。
「私との個人的な通信機だ。ウェストリア家は外交担当で、現在は資料作成と情報収集に取り組んでいるところだ。君たちからの通信に出来る限り答えるよう、私の時間は空けておこう」
「……それはどうも」
おそらく、どちらがより『感情的』になっているかと捉えるなら、それは秀星の方が上だろう。
いずれにせよ。ここから先のことは秀星個人では決められない。
(まあ、きっと決裂すると思うけどなぁ)
予防主義と対処主義が口で仲良くなれるわけがない。というのが秀星の感想である。




