第九話
なんか……ポイントがすさまじいことに……。
とはいえ、ここまで読んでくださる方がいるのです。アクセス数を見れば一目瞭然。
ポイントが励みになる。と言うのは本当だったんだな……頑張ります。
次の日の放課後だった。
六時間目の体育が終了して教室に戻ってきて、荷物を片付けようとした時、机の中に小さな紙片があるのを発見した。
開いてみると、『すぐに屋上に来い』とだけ書かれている。
「……躊躇も何もあったもんじゃないな」
紙片を握りつぶしたあと、屋上に羽計がいることをスマホで確認。
溜息を吐きたくなったが、弁当をしまって屋上に行くことにした。
屋上では、羽計が目を閉じて待っていた。
秀星が来たことを感じ取ったのだろうか。羽計が目を開けてこちらを見る。
「来たようだな」
「俺を呼んだのはあんたで間違いはないな」
「その通りだ」
羽計は頷いて、続けた。
「朝森秀星。貴様には、『魔戦士統括評議会』に来てもらう」
セフィアが言うには、評議会と普段は呼ばれているが、魔法社会における戦える人材を『魔戦士』と呼び、それらを管理・運営する組織として『魔戦士統括評議会』というものが存在するらしい。
評議会というのは略称だ。
その呼び方だけならば、他のものに聞かれても何とでも言えるので、そう呼ばれているらしい。
「魔戦士統括評議会?聞いたことはないが……」
セフィアの調べでは、本部も支部も、認識阻害がかけられているそうだ。
ネットにも載っていない組織である。
そうなれば当然、逆に知っていたら変だろう。ということらしい。
「貴様の魔力が多いことが分かったからな。そうだな。簡単に言えば、魔法を使って戦うもの達の運営組織だ」
あれからも別に魔力を抑えたりはしていない。
抑えることもできなくはないが、出来たとしたらそれはまた変なことになるので、あえて放置している。
それから、セフィアの調査では、評議会に認知されているだけで所属していないものもいるらしい。
ようするに、義務ではないのだ。
八代家が実際には所属はしていないが、魔法社会における名家として影響力があるようだ。
『評議会公認所属員』という役職が存在し、言いかえればそれが『ライセンス』になる。
そこまで知っているが、あえてとぼけておこうと秀星は口を開く
「魔法って……そんなファンタジーみたいなものがあるわけ――」
次の瞬間、羽計が指をパチンと鳴らすと、すぐそばの空間が爆発した。
何もないところだが、爆発の魔法を使ったのだろう。
しかし、異世界の魔法は魔法陣がバンバン出ていたのに、地球の魔法は現象だけが発生するようだ。
空気に溶け込むような静かでそっと発動する魔法でも、薄い色だが魔法陣は発生する。
とはいえ……オールマジック・タブレットを持つ秀星の前で魔法を使った時点で、もう構造レベルですでに分かってしまっている。
魔法に限定した性能ではないが、アルテマセンスによる演算能力で、既にわかっているだろう。
当然、魔法陣が出る魔法と、出ない魔法。
出ない魔法の方が若干奇襲性はある。
まあ、エリクサーブラッドの影響で、状態異常にはならないし、回復力も抜群で、しかも痛覚もないのだ。別に奇襲があっても問題はないと思うが。
「分かったか?」
若干イラついたような表情でそう言う羽計。
(んーもう……この子めんどくさい)
真面目なのか、短気なのか。
どちらにせよ。秀星としては面倒と思うタイプだ。
「わかった……で、俺の魔力が多いってどういうことだ?」
「貴様が気にする必要はない。ただ、それを判断する方法があるというだけの話だ」
風香のおかげでしょうに。と秀星は溜息を吐きたくなった。
(……そう言えば、風香は俺の魔力を感じとることが出来たのに、羽計はできないのだろうか)
今も、たいしたことないやつを見るような目で秀星のことを見ているが、この場所に来てから、魔力そのものを感じとったような雰囲気はない。
「で、なんで俺がその魔戦士統括評議会って場所に行く必要があるんだ?」
「貴様は魔力が多いからな。魔法社会における犯罪組織を壊滅させるために、訓練を積んでもらう。今からでも遅くはないからな」
その言葉に嘘偽りはないようだ。
(ふーん……コイツ。真面目だ)
そう結論付けた秀星。
「すでに、貴様の両親が亡くなっていることは調べた。お前の選択だ。自分で決めろ」
「勧誘みたいなものか?今の俺の返答としては、断ると言っておこうか」
その返答に対して、羽計は頬をわずかに動かした。
「ほう。今の説明に対してそう言うか」
「結果は知らん。だが、その過程は俺が決める。他に何かあるか?」
羽計は首を横に振った。
「私からは何もない」
羽計はそう言うと、屋上から出ていった。
「……私からは。か」
ちょっと面倒なことになるかもな。と思った秀星だった。
★
秀星は転移で学校から帰ることもできるのだが、今日はあえて普通に通学路を歩いて帰っていた。
家に帰ると、そこには黒塗りの高級車が停まっていた。
「なにあれ……」
初日からイライラしてきた秀星。
明らかに目立つだろ、と言いたい気分だ。
秀星は家に入ろうとしたのだが、その前に、車のドアが開いた。
出てきたのは一人だ。
運転席には空気の薄い男性が座っているが、運転手、というだけなのだろう。
助手席から出てきたのは、黒い髪を伸ばして銀縁眼鏡をかけた女性だ。
ビジネスウーマンと言える雰囲気だろう。フォーマルスーツがよく似会っている。
「朝森秀星さんですね」
「そうですけど」
「私はこういうものです」
女性が名刺を出してきた。
【日本魔戦士統括評議会本部事務員
近藤葉月】
評議会の事務員か。
あと、事務室の電話番号が記載されている。
(サテ、ナンノヨウダロウナー……)
なかば思考放棄し始めている。
「一体何の用です?」
「あなたを我々、魔戦士統括評議会、通称『評議会』のスカウトに来ました。すでに、御剣羽計からある程度事情を聞いていると思います」
「そうでしたね。その場では断っておきました」
秀星のその言葉に、近藤と言う女性は頬を動かす。
だが、すぐに戻した。
「最初に言っておきます。あなたの魔力量はかなりのものです。評議会は一枚岩ではなく、様々な派閥が存在します。別の派閥からも勧誘が来るでしょう。私たちは穏便派ですが、中には強硬手段をとる派閥もあります。受けておいて損はありませんよ」
強硬手段。と言う言葉に対して、秀星は溜息を吐きそうになった。
まあ、その手段で来るとして、どの程度のレベルなのか知りたい部分もあるが。
それに一応、秀星は何も知らないことを装っているが、魔法社会の方も俺が本当に何も知らないと確定しているわけがない。
緊張はしないが演技はうまくはないので、ボロが出るのは遅くないのだ。
とはいえ、選ぶくらいは自分でさせてもらうつもりで秀星がいることも確かだが。
あと、強硬手段をとる派閥があるといったが、強硬手段を実際にとってくると言うのなら、どの派閥に行くことを決めたとしてもたいした意味はない。
世の中は、邪道の方が人を呼べるし、呼び込めるのだ。
「……それでも、ですかね。というか、派閥が他にもあるのなら、選ぶことくらいはできるのでは?」
「裏社会の話です。そう簡単なものではありません」
秀星は思う。それは単に説明するのが面倒なだけなのでは?と。
と言うより、勧誘に来たというのなら、それ相応の話をするべきだろう。
勧誘以前に、『魔法』という概念なのだ。
評議会の調べで、秀星が魔法に関係する予備知識がないことはある程度予測できるはず。
少なくとも、魔法について指南する人間がいなかったことは一目瞭然だろう。
ならば、評議会に行くことのメリットを全面的に話すことで、首を縦に振らせようとするのが普通だ。
勧誘と言うものの初期段階として、『前向きに検討させる』ということをしないとだめだろう。
だが、近藤葉月の言い分からすれば、自分が所属していない派閥を貶しているだけで、大したメリットを出してはいない。
真面目な勧誘マニュアルをちょっと開けばこれが適切でないことは明らかで、どうとらえても不快感しか感じられないだろう。
異世界でもあった。
といっても、貴族ばかりの組織に潜入していた時のことで、在籍していたわけではないのだが。
『呼ばれた場合は来るのが当然』という雰囲気を感じたものだ。
殿様営業とも言うが、ようするに、最初からこちらを下手に見ているのである。
『所属することそのものが魔法社会でステータスになる』という空気に慣れているのだ。
異世界にあったその組織でもそう言う雰囲気が蔓延していた。
名家や名門と言うものが存在することを踏まえると、『そう言う家系』が集まっている可能性が高い。
魔法社会限定で貴族と呼ばれている家系もあるだろう。
筋も通さない貴族なんて賊と変わらないが、初代の志など過去の戯言だと思うことは別に珍しくない。
そこまで考えて分かるのは、秀星の勧誘は『平民枠』のようなものだ。
魔力量が多くとも、それをうまく使うことができなければ宝の持ち腐れである。
『魔力が多いだけでたいした魔法を使うことができない平民』を評議会にいれることが目的。
そこから先の展開は想像に難くない。
言ってしまえば燃料のかわりみたいなものなのだ。
Aランク……というのがどういう評価なのかはよくわからんが、魔力量で高い数値を持つ風香が強制されていないのは名家だからだろう。
だが、名家でも貴族でもない秀星なら、強制しようと思えばいくらでもできる。
秀星はそのシナリオ通りになるとは思わないが。
とはいえ――
――罠ごと踏み抜いてみるのも面白いかもしれないが。
「はぁ……ところで、資料などはあるのですか?」
「ありません。魔法社会は表世界には出せない情報が多いので、私としても多くの紙媒体を携帯することは不可能です」
だったらタブレットに入れて来いよ。と秀星は思った。
当然といえば当然である。
「……電子端末もないのですか?」
「ありません」
即答。
というより、先ほどから『何でさっさと首を縦に振らないんだこのガキ』みたいな雰囲気を隠そうともしない。絶対に勧誘に向かないだろう。
こんな人でもマシなのだろうか。
他の派閥がどうなのか気になってきた秀星。
とはいえ、何度も来られても面倒だし、めんどくさくなりそうなことは前もって調べておけばいい。
どこであろうと大した差はないのだ。あくまでも秀星としては。
「分かりました。あの、書類にサインするんですか?それとも、声質だけでいいんですか?」
「書類にサインしてください」
近藤葉月が持ってきた茶封筒から紙をとりだした。
一瞬で契約書を読んで、内容を確認。
一見、変な内容はない。
ちょっと闇が深そうな内容はちらほらあるが、こっちとしても上から叩き潰せそうな内容ばかりだ。
この程度なら問題はないだろう。
(……あ、サインペンはこっちで出すのか)
靴箱の上にあるサインペンを出して、自分の名前を書く。
「……字が綺麗ですね」
「そうですかね?」
アルテマセンスがこんなところで発揮されるのだ。
教えるのが無理なので師範にはなれないだろうけど、無練習でも四段か五段はとれるよ。
理不尽じゃないか?と思う人間もいるだろうが、『神器』なのだ。性能がインフレしていて当然。
「確認しました。あとで資料を送りますから、それを確認してください」
「分かりました」
頷く秀星だったが……。
(ていうか資料来るんかい……)
内心、溜息を吐きたくなったが、それはもういいと思うことにした。
契約書を茶封筒に入れて、葉月は軽く礼をすると黒い塗装の車に乗って帰って行った。
溜息を吐いた後、秀星はリビングに行って椅子に座った。
「……セフィア」
「はい」
セフィアが出現。
お茶と菓子を用意している。
「評議会ってどういう感じなの?」
「秀星様が考えている通りの組織でしょうね。選民主義といいますか。魔法社会における名家・貴族が多数在籍しています。派閥に依りますが」
まあ、思想と言うのは統一されないものだ。
組織が大きくなれば当然である。
「ところで、いいのですか?」
「何が?」
「評議会に所属することです。なるべくかかわらないようにするという予定だったはずですが……」
「まあ、いいんじゃないか?それに、色々と台本を考えているみたいだし、即興ができるかどうか、見るのも面白そうだしな」
そういう秀星に対して、セフィアは思いだす。
『そう言えば、この主人、面倒なことが好きでした』と。
それ相応の事情があれば助ける。
これは転ずると、理由さえあればなんだってやる。と言う意味でもある。
「畏まりました。評議会、及び魔法犯罪組織について、調べておきます」
「任せるよ」
秀星は、楽しそうに微笑んだ。