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第八百九十七話

「あんなにすごい顔になってる秀星君を見るのは初めてだね」

「え、そんなすごい顔になってた?」

「うん。地上波は無理そうな顔だったよ」

「どんな顔だ……」


 どう反応すればいいのかいまいちわからない。


 秀星と風香は、秀星がスタジアムを回復させ終わると、そのまま沖野宮高校の屋上に来ていた。


「……はぁ。まあ、あの二人が自重しなかったら、ああなるのは火を見るより明らかなんだよ」

「そうなの?というか、高志さんと来夏の鬼ごっこで、空間にひびを入れまくってたよね。秀星君はそれを普通に直してた気がするけど、今回とは別なの?」

「ギャグ補正はあくまでも魔力だけを使った現象だからな。言い換えれば、その上の次元にある『神力』を使えば強制的に『優先権』を行使できるんだよ。俺が空間を修復するとき、基本的にマシニクルを使ってただろ?」

「あ。確かに」


 秀星が持つ神器の一つである黄金の拳銃を思い出す風香。


「……でも、ギャグ補正って、神々の力と衝突しても問題ない力じゃなかった?だってそうじゃなかったら、高志さんや来夏がライズさんと戦えていたのが説明できないし……なんかひび割れた空間そのものが『そんなもん効くかバーカ!』って主張して存在しそうだけど」

「ギャグだからな。迷惑な現象は同意を得ずらいんだよ。あの時は景観ボロボロでプライバシー保護がズタズタだったからな。そりゃギャグ補正そのものが引っ込み始めるんだよ」

「そういうものなの?」

「そういうものなのかどうかが分かれば父さんと来夏の相手は苦労しない」


 確かに。


「で、師匠とフォルノスがぶつかってできたあれば、そもそも神力の力によって引き起こされたものだからな。神力よりも上の『優先権』を行使できる力はこの世に存在しない。だから地道にやるしかないんだ。ただこれが面倒なんだよ……」

「そもそも空間にひびを入れているっていうのはよくわからないんだけどね」

「それを魔法学的に解説すると長くなるから端折(はしょ)るけど、ものすっごく面倒なんだよ。実際、俺はノーコストじゃないしな。それ相応の『素材』を使わないと直らないし」

「素材?」

「俺の『オールハンターの保存箱』の力がないとそもそも保管することすら不可能な素材だ。実際、二人に話したら顔を青くしてたから。まあわかってもらえたと思うよ。うん」


 アホが調子に乗ると周りはろくなことにならないのだ。当然である。


「まあ、苦労したのは分かったよ。あと、今回のイベントの対戦って、沖野宮高校と天窓学園が面倒なことを押し付け合う戦いだったよね」

「だな」

「沖野宮高校側が負けっていう判定みたいだけど……実際にどうなるんだろうね」

「初めて行うことになるイベントが多くなりそうだからな。その調節に必要なコストはいずれにせよ大きくなる。ただ。どちらの学校にもポイントチケットシステムは存在する。簡単に言えば、『ポイントチケットの余計な出費を減らすための戦い』でもあったわけだ。こっちが負けたけどな」


 双方全滅という結果になったため、人数が多かった沖野宮高校側の方が負け星が多いという主張になったのだ。

 問題なのは、国枝に相談する前に、基樹がフォルノスに交渉してそういう結果になってしまったので、『なんでサインしちゃうんだよこの脳みそスカスカのポンコツがああああ!』と国枝が内心ブチ切れているということだろう。

 わざと減らしてきたのは天窓学園であり、『棄権』=『退場』だという主張をすれば交渉の余地があったのだが、そこまで考えた至らなかったフォルノスは基樹の口車にのせられてサインしてしまったのである。


「ということは、これからこっちの生徒会はポイント不足で苦しむことになるってことだね」

「どちらの学校にも神祖がいるから、生徒会の『日本円の予算』は問題ないが、ポイントチケットに関してはどうしようもないからな」

「なるほど、国枝君が怒るわけだね」

「そういうこと」


 緊急でもないのにその場でサインなんかするな。ということである。


「で、風香は聡子のところに行ってたんだろ。どうだったんだ?」

「すでにお風呂に入った後みたいで、ベッドで一緒に寝てたよ」


 秀星は時計を見る。

 そこには『19:34』と表示されていた。


「イベントの戦いそのものが始まるのが遅かったということもあるが、もうこんな時間か。寝るの早くね?」

「椿ちゃんはいつでも寝られる子だからね」

「そうだな」

「すごく幸せそうに寝てたから、写真だけ撮って帰ってきた」

「そうか」


 基本的に椿は何かを嫌がるということはない。

 聡子と一緒にお風呂に入ることも、一緒のベッドで寝ることも嫌がることはないだろう。

 結構腹黒いが聡子は外見上は一応素敵なお母さんだ。

 しかし、母親として風香は聡子に対して思うところがあったため、突撃しただけ。


「あと、傍にいたセフィコットは処理してきたよ」

「……そうか」


 秀星は『おーい!ここから出せええええええ!横暴だあああああああ!』という電波を受信した気がした。檻か何かに閉じ込められている可能性は高い。


「ただ……なんていうか、母親って子供をあんなふうに抱いて寝るんだなって思った」

「へー……よくは知らんが、何かわかったのならいいんじゃないか?」

「そうだね」


 聡子は孤児院や保育所の運営も行っている。

 椿のような子供の扱い方は慣れているだろう。


 そういう意味では、風香はまだまだ、聡子には及ばない。

 秀星としては、あの扇子の本体が刀であると最初分からなかった。

 おそらくまだまだ隠していることはたくさんあるはず。


「ま、椿も嬉しそうにしてるんだから別にいいだろ」


 みんなに愛されて育ったから、みんな大好き。

 それが椿の根本にして座右の銘。

 一番好きなのは風香だと思うが、基本的にみんな大好きである。


 きっと、これからもずっとそうだろう。

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