第八百九十六話
戦っているフォルノス、国枝、牧人、基樹、美奈、ミーシェの六人。
戦っているマッチングに変化はないのだが、基本的にどっちつかずといった雰囲気になっている。
あといつの間にか三人ほどいなくなっている。
「さてと、本格的に三対三になってしまったし、何かしら考えた方がいいかな?」
「……あれ?あの三人組はどこに行ったの?」
「ん?国枝と牧人の遠距離攻撃に巻き込まれて魔力の装甲が消し飛んで退場だよ」
まさかのフレンドリーファイアであった。
しかも、神祖として感知能力が高いはずのミーシェですら気が付かないような薄い退場である。
「……なるほど。理解した」
ミーシェは少しため息交じりにそういった。
神祖の間でもよくあることだ。うん。
「さて、牧人と美奈の実力はほぼ互角、国枝と基樹の方は……まあ基樹の方が遊んでいるだけか。しかし、このスタジアムだとちょっと狭すぎて私たちも本気が出せないのも事実。基樹の方もまだまだ国枝から情報を抜きたいみたいだし……どうする?」
「じゃんけんが一番手っ取り早い」
「なるほど」
確かに手っ取り早い。
じゃんけんというのは世界中に存在する中でも完成したゲームである。
定まっているからだ。
まあ、ここまで続けた戦いをじゃんけんで済ませるといろいろなところから苦情が来るので、生徒会長として顔役を務めるフォルノスとしては乗りにくいわけなのだが。
「さてと、これ以上長引かせてもアレだし、そろそろ出力をあげようか」
「ふむ。それに乗った。衝撃で四人が耐えきれずに退場すると思うけど、私には関係ない」
「「「「え?」」」」
四人がとぼけたような声を出した瞬間、二人の武器が激突する。
その衝撃は凄まじい。しかし、どこにも逃げ場のない衝撃は、二人の武器と体から離れて周囲の空気を全力で叩きつける。
全員が魔法を使って防御するものの、その程度で神祖の衝突の威力を防ぐことはできない。
全員がまとめて魔力の装甲を粉々にされて、即座に退場していった。
「さてと……思ったよりメディアの取材陣に動揺が少ないね」
「全くしていないというわけではなさそうだけど、別にさっきくらいのことなら秀星が普段からやっている」
「なるほど、そういうことか」
つばぜり合いになっている二人。
外見的な体格や体重を考慮すればフォルノスのほうが上回る。
しかし、相手は剣術神祖。
自分が握る武器の力加減を一ミリでも間違えれば、それに付随する全てを利用されて自分が斬られるだろう。
ミーシェは感情の起伏の小さい目でフォルノスを見つめる。
対象的に、フォルノスは少し嫌そうな表情でミーシェを見る。
フォルノス自身、戦闘特化の概念ではないため、ミーシェのような相手は苦手なのだろう。
「さてと。ここからどうしたものかな。無理に引いても押しても君を相手にするのは難しいし」
「いっておくけど、勝ちを譲るつもりはない。もともとわざと負けるような性分ではないし、今回の戦いは負けたほうが面倒なことを押し付けられるようになっている」
「え、そういう話になってたの?」
フォルノスの言葉を聞いたミーシェは十割くらい本気で『こんな脳みそスカスカの腐敗ゴミが私達のリーダーなのか』という、割とひどいことを考えていたが、顔には出なかった。まあもともと、考えていることが顔には出にくい体質である。
「まあいい。なら私も勝ちを拾うとしよう」
そういって、つばぜり合いを仕掛けるフォルノスは力を入れた。
その瞬間、ミーシェも手に持っている剣をいじって、首筋めがけて剣を振るう。
フォルノスは槍の柄で剣を防ぐと、そのまま槍を両手で操りながら連撃を叩き込み始めた。
当然ながら、ミーシェもそれに対抗するように剣を振るう。
お互いにほぼその場を動かず、斬撃音のみが響き渡る。
「チッ。前より早くなってるな……」
「フォルノス。あなたは開放されてからこの国の魔法省と交渉に時間を使って、昔の実力まで戻っていない。その状態では、かき氷を食べながら剣の修行をしていた私に勝つことはできない」
「なんでいちいちネタを挟むんだ?」
「あまり代わり映えのしない攻撃しかできないから、自分でネタを挟んでいくスタイル」
「弟子にも影響してるね。さてと、そろそろこっちは、槍だけっていうのは止めておこうかな!」
そういって、自分の周囲にいくつもの弾丸を出現させるフォルノス。
それを全てミーシェに向けて放つが、ミーシェはその全てを剣で弾いて、即座にフォルノスにきりかかる。
一度も弾丸の方に視線を向けることなく、ミーシェはフォルノスを見続けている。
「チッ」
舌打ちすると、フォルノスはそのまま離れていく。
そして、スタジアムの端まで移動した。
そのまま槍を消して、手に魔力を集めていく。
「その技……なるほど」
ミーシェは剣を引き絞るように構える。
こちらは何かを収束させるような様子はない。
ただ、剣術において神祖だ。とくになにもないということはないだろう。
「さてと、そろそろ決着をつけようか」
「望むところ」
フォルノスの手に収束していく魔力はその密度を増していき、ミーシェもギリギリと引き絞るように構えていく。
そして、お互いに力を解放した。
「ギルティ・イラプション!」
「始原の剣技・刃光大権化」
開放された魔力の噴火と、解き放たれた斬撃の光。
その2つは、二人のちょうど中央で衝突して……
★
「おい、何か申し開きはあるか?」
「「……」」
二人は正座して、怒髪天を突く。といった様子の秀星を相手に冷や汗を流していた。
二人の技が衝突した瞬間、四次元的な観測をもって見ることができる『物理次元』『魔法次元』『情報次元』の三つが、五次元的な観測によって見ることができる『神力次元』からの過干渉を受けて崩壊寸前になったのだ。
言ってしまえば『神祖レベルでやらかした世界の裂け目』のようなものができたのである。
ここで一つ問題があった。
それは、ミーシェもフォルノスも、それらを修復する手段を持たないということだ。
結果的に秀星が飛んできて、それらの次元を修復したのである。
フォルノスは『さすが秀星』と褒めて、ミーシェは『私の弟子だから当然』と胸を張っていたのだが、秀星が『すごい形相』で二人を見たので、『おや、これはまずいな』と判断した二人は正座に移行したのである。
そこからは、秀星からの文句と説教の嵐である。
イベントの決着としては、敗北した人数が多い沖野宮高校の負けという形になったのだが、フォルノスとミーシェは、『いやぁ。つい』と締めくくったので、国枝もこれには呆れた。
『やっぱりもうちょっと頑丈なところでおとなしくしててほしい』
それが、今回のイベントで手に入れた唯一の価値観である。




